Wed 081224 就職活動は空しい OBOG訪問集団との遭遇 シューカツ・サイボーグになるな | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 081224 就職活動は空しい OBOG訪問集団との遭遇 シューカツ・サイボーグになるな

 突然の金融危機で、大学生の就職活動がたいへん厳しいようである。去年の今頃なら、どこの企業も大きく門戸を開けていて、ほとんどの学生は内定ラッシュ。内定を5つも6つもとって、「どこを断ろうか」などと余裕の表情。飲み屋で仲間たちと気勢を上げている様子は憎々しいぐらいだった。

 聞き耳を立てて聞いていたら、超一流企業に内定を断りにいったら灰皿を投げつけられた話など、大昔の伝説が次々と聞こえてきて噴き出しそうになったものである。

 今の一流企業は、禁煙が当たり前。今どきデスクに灰皿を置いている超一流企業などないはずである。受験の世界は伝説やデマがクチコミでいつまでも支配的な力を持つものだが、シューカツも性質は同じなのである。

 あれほど余裕たっぷりで勝ち誇る学生が多かったのに、たった1年経過しただけで状況はここまで逆転する。今シューカツに励んでいる学生たちは私が代ゼミで最後に教えていた人たちや、東進に移籍してきて最初に授業を受けてくれた諸君であるから、いっそう気がかりである。

 むかしむかし、大昔に、自分でも就職活動をした経験があるから、あの「今夜中に電話がかからなかったら、縁がなかったということで」という人事課の社員のニヤニヤ笑いが今でも憎々しくてたまらないのだ。「就活のバカヤロー」みたいなタイトルの本がとてもよく売れているらしいが、それもよくわかる。

 シューカツは、空しい。ついこの間も新宿で昼食をとっていたら(住友三角ビルの「スパッカ・ナポリ」だ)、就職活動の世界で「OB・OG訪問」と呼ばれている集団がすぐそばのテーブルを占拠した。

「OB・OG訪問」とは、自分が志望する企業の中堅社員になっている大学の先輩を訪問して、仕事の内容や苦労話やその他いろいろを質問するのである。横目で見たところ、「中堅社員」は35~40歳ぐらい。まさに中堅である。

 一方学生たちは5~6人、男女半々である。その全員が申し合わせたように、というよりまるで制服のように黒っぽいグレーのスーツ。せっかく同じ服を着るなら、背中に「祭」の文字でも染め抜いた半纏とか、大学の名前の入った野球部のユニフォームかラグビー部のジャージでも着てきた方が気が利いているのに、残念である。おお、せっかくなら揃いの半纏やジャージに「OB訪問隊」の文字を染め抜くのも楽しいかもしれない。

 で、あとはずっと聞き耳を立てていた。シューカツ学生たちがどんな志望動機を考えてきたのか、大いに興味があったのである。中堅社員さんはちょっと意地悪で、いちいち学生たちをはぐらかすような答えをする。腕時計も盛んに気にする様子である。もしかしたら、このOB訪問が面倒なのかもしれない。

 いや、むしろ今勤務している会社それ自体があまり好きではないのかもしれない。学生たちは盛んに「国際」「グローバル」「世界」「アジア」「ビジネス」というキーワードを使い、それに対して中堅社員さんは、どうしても身近な日々の営業の話に引き戻そうとする。

 つまり、どこの一流企業だかわからないが、少なくとも中堅さんは国内営業畑の人であり、「華々しい国際舞台での活躍」みたいな派手なこととは今のところ縁のない状況、あるいは会社自体が今のところそういう話とは縁がないのかもしれない。

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(白い猫まくら 1)


 学生たちは「オンシャは … 」「オンシャは … 」という使い慣れない変な敬語をつかう。「御社」である。この辺もマニュアル的だし、「国際」「グローバル」の氾濫もまさにマニュアル。だれひとりとして、「給料はいいんですか?」とは尋ねない。

 だれひとりとして、素直な質問をしない。
「昇給はしますか」
「福利厚生は充実していますか」
「有給休暇はどんどんとれますか」
「身近にヤバい男女関係のもつれはありませんか」
「この会社、潰れませんか」
「正社員でも、クビになったりしませんか」
「派遣ギリとか、冷酷無比な人事はしていませんか」
「セクハラは多いですか」
「パワハラはどうですか」
「メンドイ宴会とか、パスできますか」
「ノミニケーション(死語:うだつのあがらない上司が、気の弱い部下を安い飲み屋に無理やり付き合わせて鬱憤ばらしをする20世紀半ばまでの悪習。「飲み」と「コミュニケーション」を足して作った趣味の悪い造語)なんて、まだやってるんですか」
「仕事中パソコンでゲームやったらクビですか」
など、本来学生が最も興味のあることを質問したりはしない。

 なんだか、盗み聞きする方が悪いのだが、マニュアル的言葉遣いも耳障りだし、マニュアル的質問内容にもウンザリして、せっかくイタリア人のジョバンニが焼いてくれたピザがまずくなった(ただしジョバンニは私が勝手につけた名前)。

 シューカツの面接がこれほどつまらなくなったのも、就職活動用の予備校があり、高額の授業料をとって、つまらないセミナーとか就職講座を連日開きつづけるからである。まあ半分冗談で言うが、大学入試の講座名と似たようなものだ。

「成功するOB訪問対策」
「驚異の1次面接対策」
「伝説の2次面接対策」
「内定へのスーツ選び」
「内定!! 必ず勝ち取れるネクタイ」
「きめる!!! やっぱネズミスーツでしょ」
「はばたけ!! シューカツVICTORY」
「サクセス!! シューカツA to Z」
「役員はココを見ている!! 気をつけたい敬語とマナー大図鑑」
ウソかと思うだろうが、こんな感じに近いということだけは間違いない。

 中堅社員さんにしてみれば、少なからず迷惑というか、時間のムダというか、自分の仕事だって進んでいないし、クライアントとのアポだってあるし、腕時計も気になるところだろう。

 一方、大学生についても「大学3年の秋からシューカツで、大学の勉強が全然できない」という声が多いが(それではシューカツがなければ勉強するのか、という問題は別に扱うとして)、就職予備校のセミナーは大学3年の春から(大学1年の春からだ、という声もあるが)始まっている。大学の勉強どころの話ではないのだ。

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(白い猫マクラ 2)


 こういう文脈で「私はこんなふうに突破した」とか「オレなんか … だぜ」と言って武勇伝を展開する武勇伝武勇伝でんでんでんででん(これも既に死語か?)みたいな書き方は余り好きではないのだが、学生諸君はマニュアルや予備校のセミナーからちょっと離れて、もっと自由に就職活動に取り組んでもいいような気がする。

 私の就職活動は、学部最終学年の10月1日にスタートして、11月2日の役員面接と健康診断まで、合計33日間で終了。電通、NHK、読売新聞、日立、博報堂、講談社、旭化成、シャープを回って、チャンと相手にしてくれたのは電通だけだった。

 いくら何でも、今から来てもらっても遅すぎますよ、という極めて常識的な判断のようだったが、さすがに電通は違った。もう他の学生はみんな内定を獲得して余裕の表情、それどころか1学年下の学生たちがスーツを買って動き始めた頃に、のんきな笑顔でノコノコやってくる非常識な学生を珍しがってくれたし、高校生時代に書いた小説だの、それで文学賞の2次予選だか何だかまで通過した話だのを持ち込んだら、何だか知らないが人事部長が大いに評価してくれた。

 「それを履歴書に書きなさい」「小説の原稿も添付しなさい」と盛り上がってくれて、部長室の部長のデスクまで歩み寄って、ペンを借りてその場で立ったまま書き込んだりした。最後の役員面接でも大失敗をして、事前に言われていた「決して言ってはイケナイこと」を2つともしっかり言ってしまったのに(それが何かは秘密だが)、チャンと内定も出してくれた。

 他社はせいぜい2次面接までしか通過しなかったけれども、やはり珍しがられた。そんな時期にシューカツをして、それでも結構勝ち進んだのだから、甲子園や花園に出場した県立進学校が、プロ並みの選手を特待生でズラッと揃えた有力校相手に勝ち進んだぐらいの評価を自分にしてもいいだろう。

 武勇伝ででん(古すぎるねえ)だし、時代も変わってこういうのは通じないだろうし、もともと私にはたった半径1ミリの才能を半径10メートルの才能に見せる才能があるから(それも素晴らしい才能だと信じるのだが)、偶然うまくいっただけなのかもしれない。

 しかし、皆と同じ服、皆と同じネクタイ、皆と同じ志望動機、敬語、マナー、言葉遣い、目線の投げ方、会釈の角度、そういうのはまさにシューカツのサイボーグみたいで、人事畑で10年20年の年期を積んだ大人から見て、最も魅力のない学生に見えている恐れも当然あるはずだ。

 要するに、「その他大勢」下手をすると「エキストラ」「足軽」扱いされる可能性さえなくはない。「変わったことをして目立て」というのではないが、どうしても就職したい企業があるならば、マニュアルを克服し、自分だけの志望動機をしっかりさせ、服装にも工夫を凝らし、予備校で習うおかしな言葉遣いやマナーを拒絶し、あくまで学生らしくシューカツに取り組んでほしい。

 人気企業なら、第1志望として5000人も詰めかける。その時、4999/5000になってしまったら、企業にとって不可欠の人材、どうしても選びたい人材として選んでもらえる可能性はほとんどないことだけはわかるだろう。一番大事なのは、1/5000になることである。