Wed 081126 ラグビー早慶戦 ラグビーの試験的ルール変更について | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 081126 ラグビー早慶戦 ラグビーの試験的ルール変更について

 講演会がなかった23日は、ゆっくり眠って昼過ぎに起き、テレビをつけてラグビー早稲田vs慶応戦を観戦した。早稲田が34対17で慶応を破り、慶応戦7連勝だか8連勝だかを飾ったのであるが、ダブルスコアにも関わらずミスばかり目立って、さっぱり納得のいかない試合だった。選手も監督もファンもみんな納得がいかなかったに違いないし、それは早稲田ファンも慶応ファンも同じだったと思う。慶応に山田がいて早稲田に五郎丸と畠山がいた昨年の早慶戦には、もっと大きな緊迫感があったし、ミスも少なくギュッとしまった好試合だった。今年の早慶戦は、互いにミスを連発。攻め込んでミス、どちらの反則とも言えない微妙なホイッスルも多くて、プレーは途切れがち。キックミスとキャッチミスの連続は、まるで高校ラグビーの県予選のような雰囲気だった。


 まあ、シロートが口を出すことではないのかもしれないが、「試験的ルール変更」なるものが今回の凡戦の一因だったと思う。モールを故意に崩すプレーは、昨年までペナルティの対象だったのに、今年のルール変更ではペナルティどころか何の反則にもならなくなった。昨年までのラグビーだと、確かにモール攻撃ばかり多くなって、大きくボールが展開されない。グラウンドいっぱいにボールが動かないと、ラグビーがつまらない。要するに、ラグビーをあまり知らない人にとっては、大男たちが集団の巨大なおまんじゅうのようになってモコモコしているばかりで、ゲームとしてのキレや躍動感が感じられない。おそらくそれが、いくつかのルール変更に踏み切った理由だったろう。フォワードばかり強いチームが、ボールを抱え込んでモコモコやっていれば終わり、というのでは確かにつまらない。


 しかし、今回のルール変更が生きてくるかどうかは微妙だ、と思う。密集からボールが外に出てくるのは間違いなく楽しいが、せっかく出てきたボールがグラウンドいっぱいに展開されるかといえば、少なくとも23日の早慶戦ではその目論見は外れていた。ラグビーの中でおそらく一番つまらない「キックの応酬ばかり」のゲームになってしまったと思う。つい2~3年前までは、安易にキックに頼らない展開ラグビーを目指していたはずなのに、ルール変更のせいで、ボールが密集から出ると何でもいいからとにかくキックする。スタンドオフとフルバックばかりが目立って、ボールはいつも空中を行ったり来たりする。目指したラグビーは、ボールがグラウンドいっぱいに動くラグビーだったはずなのに、空中を行ったり来たりするだけ、というのでは目指したものと結果がまるで違っている。「ヨーロッパ中を旅して回る」のと「飛行機でヨーロッパの空港を行ったり来たりする」のでは全く違うのである。

 

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(慶応タイガージャージのナデシコ)


 モールは、すばらしいチームプレーであって、ただのモコモコではない。チームプレーであることが最大の魅力であるラグビーで、モールを排除するためにキックばかりになってしまうのでは、本末転倒であるように思う。多くの新聞では「慶応の執拗なハイパント作戦に早稲田も長いキックで応酬」と書いていたが、それは本質を見ていない。双方、相手のミスやノックオンで苦労しないで一気にゲインすることを求めていたのである。悪戦苦闘の末に自分でボールを進めなくても、相手のミスで簡単に前に進める。そういう作戦でいい、そう思った瞬間に、どんなゲームでもつまらなくなる。


 モールを故意に倒してもいいことになると、ラインアウトからのモール攻撃が困難になるから、ボールを持ったスタンドオフはタッチに出さずにとにかく遠くまでキックする。相手のキャッチミスがあれば、もちろんその場でのマイボールスクラムになって大きくゲインできるわけだから、キャッチミスを狙ったキックになる。狙いはそれだから、相手フルバックがキャッチしても、猛然とチャージしたりしない。今度は相手フルバックのキックを正確にキャッチしなければならないから、後ろに下がって慎重にキックを待つ。こうしてお互いに22メートルラインに下がって、キックしキャッチし、相手のミスを待つ、そういう消極的なラグビーになる。これを見ていて面白いわけがない。ベースラインから絶対に動かない堅実なテニスと同じで、見ているものが感動するようなプレーはなかなか見られない。


 バックスのスピード感もなければ、フォワードの重量感もない。15人以上の男たちのカタマリが、湯気を上げながらモールを押しあう圧倒的な力量感がテレビ画面から消え、代わりに画面を占めたのは、気軽なキックシーンばかり。慶応の得点は、トライは1つだけ、残りはペナルティゴール4本。相手ゴール前でペナルティをもらえば、何点負けていても、とにかくPGで細かく3点狙い。ゴルフなら「刻んでいく」という、こういう消極的な戦い方は、まるで90年代前半にタイムスリップしたようである。ラグビーの魅力がよくわかっていないTVディレクターがラグビーのハイライトシーンを作成すると、PGを決めるシーンばかりになるものだが、この日の慶応のラグビーはまさにその見本のように、10番の選手が冷静にPGを入れる後ろ姿ばかり。退屈な得点シーンしか見られなかった。

 

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(和風幽霊をマネて怪談話の練習に励むナデシコ)


 タッチキックについて、特にダイレクトタッチについての「試験的ルール変更」もあったらしい。私はまだよくわかっていないのだが、変更されたルールが微妙すぎて、選手やレフェリーが理解しきれているのかどうか心配である。早稲田のSO山中がゲーム中盤の大切な場面で2度も3度もミスをして、ダイレクトでタッチから出してしまったが、その全ては昨年までなら好プレーと呼ばれるキックだったはずだ。逆に後半20分頃、明らかに早稲田FB佐藤のダイレクトタッチで慶応の大チャンスになるはずのプレーでは、何故かその判定がなくて、中継していたNHKのアナウンサーと解説の薫田氏が驚き、かつ慌てていた。均衡した接戦で、あんなミスジャッジがあるようでは困る。ルールを微妙にしすぎて、レフェリーが運用できないようでは、懸命にプレーする選手が可哀想である。事実、あのミスジャッジまでは絶好調でプレーしていた慶応の選手たちが、あそこから一気に崩れてしまいミスが続出して、後半の後半20分の間に早稲田が3トライを奪って最終的にはダブルスコアの凡戦になってしまった。よくわからないが、あそこの判定については、ラグビーに携わる者全員で協議し、研究し、今さら判定が覆ることはなくても、今後の対応についてしっかりした発表をすべきだと思う。

 

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(上達、慢心、睡魔)


 スクラムの際、ディフェンス側が何メートルだか下がらなければならない、という変更もあったようだが、これも納得しにくい変更点である。ディフェンスが下がったのでは、身体のサイズが小さいチームが、泥まみれになり相手の巨漢選手に振り飛ばされながら「魂のディフェンス」を繰り返す、ラグビーで最も感動的なシーンを見られなくなってしまう。80年代の早稲田や90年代の慶応が魅力的だったのは、そういう姿である。大学生チームが社会人トップリーグの外国人選手たちに挑む姿がファンの歓声を浴びるのは、そういうラグビーを続けるひたむきさのお蔭である。


 スクラムの際にディフェンスが下がることになれば、ボールを持った巨漢選手がトップスピードに乗って突っ込んでくることになる。予想されるのはナンバー8の大型化である。サイド攻撃をするナンバー8が巨漢であればあるほど有利。スピードに乗った巨漢を一発で止めるのは困難である。サイド攻撃の得意な巨漢を揃えたチーム、昔の明治大の瀬下や河瀬を記憶している人はあまりいないかもしれないが、要するに大型選手の個人技ばかりが目立ち、チームディフェンスが困難になるという結果が目に見えている。外国人巨漢選手の供給が容易なトップリーグと、なかなかそれの出来ない大学チームとの距離は、さらに大きくなってしまうだろう。


 果てしないキックの応酬、キャッチミスとスクラム、スクラムからの巨漢のサイド攻撃。微妙な判定とペナルティゴール。素人の目には、今回のルール変更で、ラグビーのそういうつまらない側面ばかり多くなることが、何となく予想されるのである。

3D(DvMv) RICHRD Ⅲ
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11A(α) 倉橋由美子:夢の通ひ路:講談社
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