Tue 081125 調布講演会 稲毛海岸講演会 下北沢で遭遇した「恐怖のドア放置男」 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 081125 調布講演会 稲毛海岸講演会 下北沢で遭遇した「恐怖のドア放置男」

 22日、調布で講演会。24日稲毛海岸で講演会。ともに駅前の雑居ビル(というより駅前から1つか2つ角を曲がった裏にある、いかにも目立たないビル)の1室での小規模な講演会で、出席者はどちらも60名強というところ。調布は木枯らしが吹き荒れ、稲毛海岸は冷たい初冬の雨が連休最終日の閑散とした街をたたいていた。高校1年&2年に限定した講演会をこの時期に開けば、出席者数が少なくて寂しい会になることは目に見えているが、悪天候の中よく健闘してこれだけの出席者を集めていただいた。校舎担当の皆様の努力に大いに感謝する。また、100名に満たない出席者数だったとはいえ、生徒諸君の反応も非常によくて、300名400名単位の大きな会場に勝るとも劣らない楽しい90分を過ごさせていただけた。盛り上げていただいた生徒諸君にも感謝。

 

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(和風幽霊の演技をするナデシコ1)


 22日、調布講演会の後は、下北沢で軽く酒を飲んだ。先にラーメン「麺僧」で「のり玉子ラーメン」と餃子一皿を平らげてから、隣りの「土間土間」へ。もともと本格的に飲むつもりはなかったから、そういうときは飲み屋の選択に創意工夫はいらない。土間土間みたいなところで十分なのである。「飲んだ後の〆はラーメン」という普通かつ平凡な順番をあえて逆転させ、「ラーメン食って〆は酒」という定番破りをやってみたのは、いつも酒で腹一杯になってラーメンが十分楽しめないからであるが、さすがに人と違うことをやりすぎると失敗する。ラーメンで腹一杯になった後の酒はマズい。つまみにしても、もう枝豆と漬け物ぐらいしか注文する気になれない。しかも楽しみにしていた「いぶりがっこ」、この店の呼び方では「スモークたくあん」が売り切れ、店の呼び方では「ああー、申し訳ございません、終わりになってしまいました」で、結局枝豆一皿と赤ワインのデカンタ一本だけの注文で、30分程度。寂しく引き上げることになった。
 

 ただし、この夜の下北沢では「恐怖のドア放置男」と遭遇。5人のテーブルに7人詰め込まれ、みんなつり革につかまって飲んでいるような大盛況の中、ドア放置男が20人ほどの集団を引き連れて颯爽と登場。いちいち「ドア放置男」と呼ぶのは面倒だから、あえてこの男の名前を、例えば佐藤孝彦としよう。佐藤孝彦は完全に匿名、他意はない。
 

 しかしこの佐藤孝彦はなかなかスゴかった。たかが土間土間に入店するのに、寒風吹きすさぶ店の前に20人程度の集団を待たせ、店の従業員と粘り強く交渉を繰り返す。何をそんなに長時間話さなければならないのか理解に苦しむが、その間ずっと大きく開け放ったドアを放置。ドア付近の客はみな孝彦の挙動に強く関心を引かれる様子。というか、外の風が寒いのである。やがて孝彦はいったん交渉を打ち切り、20名のうち4~5名の仲間たちを引き連れて入店。残りの15名ほどは店外に放置。従業員はすかさずドアを閉め、15人は木枯らしの中に、唖然として口を開けたまま、次はいつ開くともわからないドアを見つめて立つしかなかったであろう。
 

 5分ほどして、佐藤孝彦のみが入り口に帰還。先遣隊4~5名をテーブルに残して橋頭堡(戦闘用語:攻撃の足がかりとして築く陣地・拠点)を築き、寒風に耐えながら出撃の機会を待ち受ける本隊を呼びに出たものと思われる。佐藤孝彦は、ドアを開け放ち、1段高いところから本隊に向かって演説を開始。店内に向かって総攻撃を始めるにあたり、ゲキを飛ばす様子である。その演説の間、再びドアを放置。店内は急激な気温の低下にさらされ、震えながら本隊の攻撃を待ち受ける。

 

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(和風幽霊の演技をするナデシコ2)


 ところが、本隊は突入をためらう様子。見れば本隊のメンバーは、立派な30歳代の男子ばかりである。「何もこんな深夜に下北沢で飲むのに、土間土間を選ぶ必要はないのではないか」「もっとオシャレな飲み屋はいくらでもあるはずだ」「こんな店では、順番を間違えて事前にラーメン食って腹一杯になった中年のツキノワグマが、枝豆つまみながら軽く一杯ひっかけるような侘しい飲み方しか出来ないのではないか」「今さら大学生の『コンパ』みたいなダサイ飲み屋はイヤだ」などの意見と不満を隊長・佐藤孝彦に控えめに伝えているようである。確かに、寒風にかじかんだ手を温めながら、本隊の様子を観察すると、着ている物にもヘアスタイルにも持ち物にもそれなりの主張が感じられる「なりかけの大人」または「オジサン予備軍」であり、女子高生にオジサン呼ばわりされる新入社員の年頃ももう過ぎて、ちょっと人生に疲れた感じさえ漂っている。いまさら土間土間や笑々や白木屋や魚民や和民なんかに入って、安い酒を飲まなければならないワケでもないだろう。
 

 背中にベージュのリュックを背負った隊長・佐藤孝彦は、ドアを放置したまま、本隊グループから2~3名を招き寄せて説得にあたる。軍曹とか小隊長とか班長にあたる者たちだろう。説得は店内で、という判断で、班長2~3名は孝彦とともに入店、ドアは放置したまま、店の奥に築いた橋頭堡に向かう。すぐに従業員がドアを閉めて、店内の気温は急激に上昇。これほど気温が急激に上昇降下を繰り返すと、店内の客はヤキを入れられている鋼鉄のような気分である。

 

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(迫真の演技)


 そこへ孝彦と班長連が戻ってきて、ドアを大きく開け放つ。作戦会議の結論が出され、決断がついに下されたのである。ドアに仁王立ちになった孝彦の号令があり、本隊の総攻撃が始まり、いかにも不承不承をいう顔つきの本隊はダラダラズラズラ攻撃を開始。思った以上の大軍であり、これほど気合いの乗らない大軍はなかなか想像もつきにくいが、佐藤孝彦は入り口に仁王立ちになって大軍一人一人に声をかけ、士気を鼓舞する。ベージュの小さいリュックが、傍観者として、いかにもムカつく感じでだらしなく背中にぶら下がっている。この大軍を指揮するには、おそらくこの男では力量不足だったのである。力のない男に率いられる大軍は悲しい。彼はおそらく「シモキタなら、任せておけ。いい店を知っている」と口走ってしまったのだ。「おお、いいね。そこへいこう」「よし、任せておけ」。その結果がこれである。
 

 本隊の入城行進は、10分もかかったかと思われるほどに荘厳かつ悠長なシロモノで、もちろんその間ドアは大きく放置され、入城式の華麗さを際立たせた。隊長は最後の入城者の背中を見送り、満足そうに班長の一人と肩を叩き合い、従業員に挨拶を送り、隊列の最後尾を、悠然と入城。それが入城式のフィナーレであるが、彼はまさに終始一貫、見事にドアを放置して立ち去ったのである。彼が去った後には、静寂と、吹きすさぶ木枯らし。まもなく日付が変わろうとする下北沢の街には、終電がなくなり困り果てて街を歩む愚か者たちの彷徨がいつまでも続いた。時計は2008年11月22日午後11時49分を指していた。

1E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES 2/6
2E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES 3/6
3E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES 4/6
4E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES 5/6
5E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES 6/6
10A(α) 倉橋由美子:シュンポシオン:福武書店
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