Sun 081116 春期講習を受けるな モラトリアム期間を設定するな | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 081116 春期講習を受けるな モラトリアム期間を設定するな

 まず、誤解してもらっては困るのは、「3月では早すぎる」などというのではない、ということだ。受験勉強を春休みから始める必要はない、春休みは大いに遊べ、大いに遊んで英気を養え、スタートは4月新学期が始まってからで十分だ、そういう馬鹿げたことを言うつもりは毛頭ない。以前から何度も書いた通り「3月から開始」は明らかに遅すぎる。中学受験ですら、2年前でも遅すぎる、3年前でも遅すぎる、出来れば小3から、いや小2から、それが常識になりつつある。そういう時代に、大学受験の準備だけが「3月から」「4月から」で済むはずがない。4月からでは「残り9ヶ月」、3月からでさえ「残り10ヶ月」つまり「残り約45週間」にまで追いつめられているのだ。そのスタートは明らかに遅すぎ。余程の奇跡でもなければ追い抜くことも追いつくことも出来ない。今や常識は「高校2年の11月から」「遅くとも12月上旬にはスタート」であり、それを積極的に言わない予備校は、予備校失格である。

 

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(黒スルメ)


 では、なぜ「春期講習は受けるな」などと言うのか。理由は2つある。1つには「春期講習を申し込んでしまったために、何か根拠のない安心感が生じ、「まあ春期から始めればいいか」と思って気が緩みがちになること。最近は春期講習の受付時期が早まって、前年のクリスマスぐらいから申し込みが始まる。年末の忙しくも楽しい時期に春期講習なんか申し込んでしまえば、「早くスタートしなきゃ」という切迫感はどこかに消えてしまい、ジングルベルやお正月の華やいだ空気の中で「ま、3月までは、いいか」と考えがちになる。
 

 高校2年生は、もっと事態が切迫していることを忘れてはならない。以前ブログで書いたが、12月に入った段階で既に「残り13ヶ月」つまり「残り60週間」を切っている。センター試験5科目を受験するとして、1科目当たり12週間しかない。英語のような基本科目については、出来れば3月か4月までにある程度のメドを立てておきたいのだ。それなのに「春期講習を申し込んだ」という安堵が、その大切な切迫感を浸食してしまう。
 

 周囲ものんきになりがちな時期である。「まだ早いよ。クリスマスぐらい、正月ぐらい、のんびりしたほうがいいよ。春期からでいいんじゃないの」といった雰囲気が、クラスメートにも、家庭内にも、高校の先生方にさえ溢れている。これが極めて危険。3学期が始まり、卒業式の練習が始まって、学年末試験があって、春休みはあっというまに近づいてくる。結局、何の準備もしないままに春期講習の日が訪れ、講師の自己紹介や雑談にガハガハ笑っているうちに4月に入り、春期講習が終わればしばらく塾は休みになって、新学期が始まるのが4月中旬すぎ。またまた講師の自己紹介と雑談にガハガハ笑いこけ、ガハガハ笑うのにも飽きた頃にゴールデンウィークになり、連休が明ければ中間テストだから1週間ほど塾を休んで、ついでに受験勉強のスケジュールも先送り。「ありゃりゃ、中間、最悪」、とか騒いでいると「夏期講習の申し込み」で塾内はてんやわんやの大騒ぎ。気がつくと6月中旬、という有り様。これが「浪人確定パターン」である。

 

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(白スルメ)


 「春期講習は受けるな」という理由の2つ目は、予備校や塾の中での春期講習の位置づけ、あるいは講師の心の中での春期講習の比重の小ささである。塾も講師も、春期講習は4月以降に本格的に入塾してもらうための「お試し期間」または「サンプル講座」と捉えていることが多い。春の短い講習なんかに来てもらっても、実質的な儲けには全くならない。4月の大量入塾に持ち込まなければ、塾としての経営もままならないし、ここで生徒が集まらない講師は下手をすれば格下げである。
 

 そういう「お試し」や「サンプル」に「ご機嫌とり」が多くなるのは、小売り商品と同じことである。ご機嫌とりでサンプルばかり優れていても、一般の商品なら実害はないが、塾や予備校での勉強になると話は別である。ご機嫌とりの授業は、まず人気取りの自己紹介から始まり、自然に爆笑を誘う雑談が多くなり、講師の長所をことさらに大きく見せるために得意分野に偏った授業、宣伝と広告、そういう「学力を伸ばす」本筋の目的とは縁遠い授業が連続することになる。ひどい場合は、授業のドサクサにまぎれて本科生になるための登録書の下書きをさせたり、無料模試の申込書を書かせたり、夏期講習を予約させたり、ほとんど法律ギリギリではないかと思われるような誘導を行ったりする。
 

 そんな誘導に引っ掛からなければいいだけの話だ、というワケにはいかない。そんなダメな授業を受けさせられるのは11歳14歳17歳のナイーブな子供たちである。せっかく勉強しにいったのに、せっかく本格的に受験勉強をスタートさせるのを楽しみにしていたのに、その期待を大きく裏切られた子供たちの失望は大きい。その後の受験勉強全体にも悪い影響を与えかねない。

 

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(スルメ、白黒2枚セット)


 春期講習を受けて、「この先生について行こう」と決める。サンプルのお試し講座なのだから、その考え方は正しいのだ。しかし、たった5日か1週間の春期講習は、その講師の得意分野ばかりで構成することも可能なのだ。春期で気に入った理科の先生が、実は天文分野と物理分野を教えるのが苦手な先生だったり、公民分野をあまり知らない社会の先生だったりすることは、アルバイト講師の多い高校受験の塾で起こりがち。大学受験の予備校でも、英文法はわかりやすいが、長文読解は訳しているだけで眠くなる英語の先生などというのも少なくない。春期だけのサンプルで生徒が判断するのは無理なのだ。


 以上が、春期講習などという余計なモラトリアム期間をおかずに、高校2年の10月、遅くとも12月には、もうまなじりを決し姿勢を正してさっさと本格的な受験勉強を開始すべきだ、と主張する理由である。中学受験ではそれは既に常識、今さら言うまでもないだろうが、日本という国は、年齢が上がれば上がるほど認識がどんどん甘くなる不思議な国だから、もうすぐ大人の高校生に向かって、この程度の常識的なことを、しっかり言ってあげなければならないのだ。