Mon 081110 ルフトハンザとスターアライアンスについて(その2) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 081110 ルフトハンザとスターアライアンスについて(その2)

 で、昨日の続きになるが、再びひたすら歩いてルフトハンザ・チケットカウンターなるものに向かわなくてはならない。「チケットカウンターまで行け」と言う方は楽だろうが、行かされる方は死ぬ思いである。フランクフルト空港などという巨大なものの構造は全く理解していないし、何よりもまず「9月に大金を払って予約した飛行機が、50人もの乗客を積み残して無慈悲にも定刻に出発してしまった」「他の飛行機はみんな出発が遅れているのに、なぜか東京便だけが定刻に出た」「ほんの30分、いや15分でもいいから待ってくれれば、いま一緒にいる全ての日本人が乗れたはずだ」という悔しい思いでいっぱいである。そういう思いをかかえて、フランクフルト空港の端から端まで、延々と歩いてチケットカウンターに向かう。チケットカウンターは、さっきスパンエアーからのバスが到着したあたりにあって、要するにたった今夢中で走ってきた出発点に戻るのである。ただし、道順はただ単に戻るのではない。来る時が円の半周。今度は円のちょうど反対側の半周を回る。つまり、これで円を一周したことになる。非常に屈辱的であり、耐えがたいルートであることは言うまでもない。


 そうして、ただでさえ耐えがたいルートに、さらに耐えがたいセキュリティーチェックが出現。チケットカウンターに向かうには、空港から外に出なければならないので、再びセキュリティーチェックが必要なのだ。チェックする顔ぶれも、チェックされる顔ぶれも、つい15分前の顔ぶれと同じである。チェックする係員もニヤニヤしているし、される側も呆れてニヤニヤするしかない。さっきと同じベルトを外し、さっきと同じパソコンをトレーにいれ、さっきと同じ靴を脱いで、それでもさっきと同じ金属探知機に引っかかる。係員も「必要のないチェックなんだけど」と言って苦笑いしている。脱いだり着たり、履いたり脱いだり、気がつくと既に大汗をかいていて、考えてみれば最近走ったこともない長距離を走って、スペインで食べ過ぎた肉体としてはこれ以上ないぐらいのいい運動である。

 

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(スペインの子猫。コルドバにて。)


 ぐるっと円を描いてフランクフルト空港一周ツアーをエンジョイし、ついにチケットカウンターに到着すると、そこにはお決まりのインドの人々の長蛇の列が出来ている。軒並み出発遅れなのに、なぜか定刻で出発したのは東京便とムンバイ便だけだったらしい。そのムンバイ便に乗り遅れた約100名ほどのインドの人々が、私の到着の時点で既に完全にカウンターをブロックする列を作っていて、とてもカウンターに近づくことは出来そうにない。


 海外経験がある程度ある人間なら誰でもわかると思うが、インドの人々の列があったら、そこに並ぶのはほとんど自殺行為である。彼ら自身も、彼らを担当する係員も、どちらも「スピーディーに難局を打開する」という発想は持っていない。それを悪いとは言わない。両者とも、おそらく「むしろ難局をエンジョイする」という人生観があって、長蛇の列に並び、その列が一向に解消されなくても、そのこと自体を大いに楽しむことが出来る、尊敬すべき忍耐力の持ち主が多いのだ。


 悪いのは、こういう状況で耐えがたいほど苛立っている日本人なのだ。それは百も承知だが、インドの人々が100人並んでカウンターをブロックしていれば、おそらく3時間や4時間でカウンターに行き着くことは不可能になる。おそらく一人20分では済まない。カウンターの係員も一人一人にこの上なく丁寧な対応をしているようであり、飛行機は定刻で情け容赦なく出発させても、インドの人々への対応はじっくり時間をかけて進められる。列に並んで見ていても、残念ながら全くはかどらない。これほどはかどらないなら、飛行機の出発もはかどらなければよかったはずなのだが、そこだけは何故かたいへんよくはかどったらしいのだ。


 どうやら長期戦になりそうである。他の日本人たちと「もうルフトハンザには絶対乗りたくありませんね」などと話をしていると、彼らの中には旅行会社の関係者が複数いて、LOOK JTBの社内研修でヴェネツィアに行ってきた帰りという4~5人のグループや、50人近いツアー客について責任を持たなければならない女性も私の後ろに並んでいた。彼女によれば「ルフトハンザではよくこういうことがある」「ルフトハンザでこういうことがあると、バッゲージの扱いが心配だ」「おそらくアジア系のエアラインを紹介されることになるだろう」とのことだった。
 

 アジア系のエアライン。全く進まない長蛇の列の中では、様々なアジアの地名国名が囁かれ始めた。トルコ。タイ。シンガポール。中国。ヴェトナム。マレーシア。実際、日本人の最前列に並んだ私の、そのまた直前にいたフランス人カップルは、「トルコ航空でイスタンブール経由」をルフトハンザから提示されて唖然としていた。アジア経由がイヤなのではない。問題は「それでは30時間かかる」ということである。要するにそれは、今から20年も30年も昔、東西冷戦が激しくてソビエト連邦(!!!!)の上空を飛行できなかった時代にあった「南回り航路」である。あの時代のヨーロッパの旅は、アラスカのアンカレジを経由する北回りと、香港やニューデリーを経由する南回りと、その2つの選択肢があった。いま、まさにルフトハンザはそれを提示しようとしているのである。これはどうしても受け入れがたい。

 

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(スペインの子猫、その母ネコか。コルドバにて。)


 最終的には、1時間列に並んで、結局カウンターには全く接近できないまま、通りかかったルフトハンザの職員と直接交渉して、その交渉は成功した。予約便から7時間後、20時45分フランクフルト発。ANAとのコードシェア便。南回りではなく、ちゃんと翌日16時には成田に到着できる便である。バッゲージも大丈夫という確認を得て、まあそれなりにホッとして、近くのレストランにワインを飲みにいった。そこから先のことは近いうちに旅行記にも書ける非常に楽しい思い出である。しかし、私の後ろに並んでいた他の日本人旅行者がどうなるのか、にわかには立ち去りがたいほどに気がかりだった。


 3時間レストランで時間を過ごして、搭乗口に入ろうとチケットカウンター脇を通ると、さっきの旅行会社の女性はまだ列に並んでいた。他の日本人はいなかったから、何とか他の飛行機で帰国できることになったのだろうが、彼女にはミネラルウォーターを1本差し入れて「お仕事とはいえ、頑張ってください」の気持ちを伝えた。それ以上のことは、近いうちに書く旅行記に任せることにしたい。