Thu 081106 「まわりは皆カボチャ」と考えるな すかして読むな(来し方行く末を思え) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 081106 「まわりは皆カボチャ」と考えるな すかして読むな(来し方行く末を思え)

 試験会場に着いたら、まず緊張感をほぐすこと。ほぐし方は昔からいろいろあって、「手のひらに人の字を3回書いて飲み込む」「他の受験生はみんなカボチャだと思う」などというバカバカしいものが大半であるが、こういうことをしていること自体がすでに合格可能性を著しく引き下げている。特に「カボチャ」については、そういうことを考えれば考えるほど、他の受験生がみんな秀才に見えてきて「むしろカボチャは自分のほうなのだ」とうことを痛感させられるだけである。むしろ緊張感をほぐす作業は、まず「周囲がみんな秀才であること」を認めることから始めたい。試験会場に集まった人は、自分と同じように進路に悩み、自分と同じように受験勉強に苦しみ、自分と同じように第1志望校をここに決めた、ほぼ同じぐらいの実力を持った好敵手である。決してカボチャなのではないのだし、もし好敵手がカボチャに見えるようなら、カボチャは自分自身なのだ。そう思って周囲を見回すと、確かに好敵手に見えてくる。だからといって縮み上がるのではなくて、心の中で互いの健闘を誓い合うぐらいがいい。自分も全力を出すから、キミたちも全力で戦いたまえ。そう思いながら、試験会場を笑顔で見回す気持ちになれれば、緊張感は「ちょうどいいレベル」にまで落ち着いている。
 

 トイレを済ませて教室に戻ったら、何度か教室の前を往復しながら、教室全体を見回してみるといい。掲示物を眺めたり、窓から見える外の風景を眺めたり、そうやって戦いの場を大きくマクロで目に捉えておくのも、落ち着きを獲得するいい方法である。その時ついでに好敵手たちの様子も見回してみるといい。最後まで参考書をめくっている者、プリントをじっと眺めている者(おそらく前日に塾で「直前に見ておけよ」と言われて手渡されたのだ)、泣きそうな顔をしている者、笑顔が引きつりそうになっている者、彼ら彼女らの顔を見ながら、ふと、「おお、自分が一番落ち着いているかも」と感じる瞬間があったら、グッと勝利したが近づいてくる。


 席について、試験開始まで何をするかは自由である。時間がたっぷりあるなら、何度もやって答をみんな記憶しているような参考書を出して、猛スピードでページをめくってみるのもいい。そういうウォーミングアップをすれば、試験開始直後から一気に力が出ることも確かだ。時間がなければ、大好きな愛読書を1冊取り出して適当なページを開き、これもまた猛スピードで読んでみるといい。ウォーミングアップ効果としては、それも同じぐらいの効果がある。要するに、脳が試験に向かって活性化していきさえすればいいのだ。

 

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(ペリエネコ)


 直前期になると、塾の講師が「いいかあ、時間との勝負だ」と絶叫し、ついでにウケも狙って「問題用紙が配られたら、透かして見てみろ。1問でも透けて見えたら、そのぶん合格に近づくことができる」などと発言する。もちろんそんなアドバイスを真に受けるほどバカな受験生はほとんど存在しないだろうが、試験会場には似たようなダメなヤツがたくさんいることは確かである。
 

 まず、試験監督をニラみつけているヤツ。これはもう緊張感で押しつぶされて、手には汗がふきだし、鼓動は高鳴り、視線は宙をさまよい、もう何が何だかわからなくなっている証拠である。参考書や単語集や愛読書を目の前に開いていられるうちはまだよかったのだが、試験監督が入場していよいよ参考書もカバンにしまわなければならなくなってしまうと、何をしていればいいのか分からなくなって、その隙に圧倒的な緊張感がどっとふきだしてきたのがこの状態である。
 

 こういうときにできることは2つある。まず、試験開始までに時間があるなら、「来し方行く末を思う」という過ごし方があって、大学受験生以上にはこれを勧めている。「来し方」とは、今まで自分がどういう人生を送ってきたかということ。子供時代はどんなふうで、中学時代は何に打ち込み、それがどんな結果になったか。高校3年間は何に夢中になり、または夢中にならず、友人や親や教師とどんなふうに付き合い、何に悩み何に苦労しそれをどう克服してここまで来たのか。「行く末」とは、もちろんこの試験を突破したその先を考えること。とりあえず我慢していた何と何に夢中になり、学部時代には何と何をやって、その先の人生につなげていくのか。そういうことを考えていれば、あっという間に試験用紙が配布されて、「始め」の声が教室に響き渡るものである。

 

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(ペリエネコと、下に蠢く白い影)


 そんな余裕がないというなら、せめて試験監督の先生の話をよく聞くことぐらいはできるはずだ。話を聞く前に「どういう先生なのか」を観察するのも手。試験監督は、これから中学高校に入学してからも大いにお世話になる先生方である。大学受験だって、試験監督に出てくるのは正式の教員である。やさしそうだが、寝グセが取れていない。厳しいことをおっしゃっているが、目は笑っている。神経質そうで、あの先生が担任だったらイヤだ。ま、その程度の人間観察なら誰でもできるだろうし、先生方もおそらくは受験生の緊張を察して、ウケないギャグの一つぐらいは口に出してくださるはずである。そういうオヤジギャグやオバサンギャグを聞いて、「ウケないけど、ま、いっか。今日1日よろしくお願いします」ぐらい心の中で言って、「さあ、いくぞ」という気持ちを高めればいいのだ。そんなことをしていれば、「あがってしまって頭の中がマッシロ」「緊張感に押しつぶされた」などという悲劇は起こりにくいはずである。
 

 「悠然と」という言葉こそ、受験生に忘れずにいてほしい言葉である。「始め」の合図とともに、まず悠然と問題用紙をめくってほしい。悠然と全ての問題に目を通し、悠然とペンをとり、悠然と答案を書き始める。全体に目を通して、それが昨年までと全く同じ問題形式であり、過去問研究を繰り返して何度も練習を重ねたとおりの形式なら、いっそう悠然と答案を作成できる。よし、出題形式は昨年と同じ。だから作戦通り、簡単な1番2番5番を片付けよう。4番と6番にたっぷり時間をかけて、難問の多い3番は最後にしよう、では、行くか。そんな感じでまず名前をしっかり書けば、目の前がマッシロみたいな馬鹿なことには決してならない。