Mon 081103 クチコミに振り回されるな 情報交換するな 学校で塾の話題に加わるな | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon 081103 クチコミに振り回されるな 情報交換するな 学校で塾の話題に加わるな

 クチコミというものは、カフェやレストランを選ぶときには大いに重宝するものであって、「クチコミをマイナス評価してはならない」というのは現代社会の不文律のようになっている。温泉旅行の宿選び、海外旅行のホテル選び、そういうときにネットのクチコミを見ないという人はむしろ珍しいぐらいだろう。お受験ママの世界では、今やクチコミ全盛の感があって、中学受験の大きな模擬試験があると、周囲のカフェなんかはまさにクチコミの花が咲き乱れている。どこの中学がどう難化し、そのあおりでどこの中学の難易度が下がり、しかし難易度が下がるから行かないほうがいい、いやむしろお買い得だ、そのお買い得の中学にたくさん入れている塾がどこで、しかもその塾のどこの校舎がよくて、同じ塾でもどこの校舎がダメで、いや、その塾のその校舎でも一番いい先生は誰で、2番目は誰で、誰だったら最悪で、といった感じ。そういうクチコミの有様を、カフェの隣りのテーブルで何度か観察したことがあるが、そのバイタリティーはなかなかのものである。
 

 しかし、そういう情報交換は、旅館やショップの選択ぐらいにとどめておいたほうがいい。温泉宿なら、失敗したとしても仲間で一回苦笑いしただけで済むだろうし、ショップなら「2度と行かない」とキッパリ決意すれば、それで終わりにできる。しかし、進学先の選択とか、そのための塾や予備校の選択となると、これは一生ついて回るものであって、「ちょっと失敗した」では済まされない。
 

 いろいろ聞いてみると、お受験ママたちの間で盛んに交わされているクチコミとか情報交換には、自分勝手な主観で言っているだけのものや、中には明らかな悪意の混じったものもある。「偏差値が低下傾向にあるからお買い得」というのが、実はその学校を目指している誰かを傷つけようとしているだけだったり、「あそこの塾は面倒見がいい」というのも、「あそこの塾」に通っていない人たちを悔しがらせようとしているだけだったりすることが多い。何か根拠のあることならいいが、「カフェでお茶しながら」の情報交換に、いちいちしっかりした根拠などないこと、その場の雰囲気や流れでお互いに相当勝手なことを言いまくっているのは、そういう情報交換に夢中になっているママたち自身が一番よく知っているはずである。
 

 そういう主観や悪意に振り回されて、まずママが不愉快になり、それを家庭に持ち込んで、つい子供にキツいことを言ってしまったりする。「あなたの通っている塾はダメなんだって」と言われて一番傷つくのは子供である。「その先生より、あの先生でないと応用問題が解けるようにならないって」「あなたの志望校はどんどん偏差値が下がってるって」「この間の模擬試験は良かったけど、あの模試でいい成績をとっても、本当の学力はわからないんだって」「あなたの予備校の合格実績は、水増しだって。実際に合格した子はほとんどいなくて、模試受験者だけなんだって」など、この種のことを「情報交換」「クチコミ」の結果として子供が伝え聞いたら、ガッカリするばかりである。
 

 残念ながら、受験する中学高校や大学から、しっかりとした十分な情報が供給されていない状況が続いている。情報が十分でなければ、弱い立場の受験生やその親が疑心暗鬼になって、不確かなクチコミに頼るしかなくなるのは仕方のない流れである。だからこそ、求められている情報を学校側がキチンと出してくれることが求められるのだが、今すぐ状況が変わることは期待できない。我々としては、いい加減な情報交換の輪には加わらず、クチコミに振り回されず、できる限り自分の頭で責任の持てる判断をしていくのがベストだろう。

 

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(ネコのアフタヌーンティー 1)


 ただ、それが大学受験のレベルになり、親の判断より受験生自身の判断が優先されるようになると、問題はさらに難しくなる。大人なら、情報交換の場の雰囲気や相手の人柄から、どのぐらい信頼できる情報なのかを、ある程度正確に判断することもできる。しかし17歳や18歳の高校生だと、なかなかそういう判断はできない。そのぶん、いっそういい加減なクチコミに振り回されて不愉快な思いをすることも多くなるのだ。大学についての情報なら、それほど悪質な情報が口から出まかせにタレ流されることは考えにくいが、予備校や塾のことになると全く話が別である。
 

 私は生徒たちに「学校で塾の話題に加わるな」と言っている。予備校は、自分で授業を体験し、自分が気に入り、しっかり勉強ができ、しかもキチンと成績が上がっていれば、それでいいのである。それ以上の情報交換は一切必要がない。成績は、着実にゆっくりと上がっていくものであって、それ以上の「夢のような急上昇」などということは考えないほうがいい。クチコミの中に出てくる「目からウロコ」「驚くような急上昇」は、まず間違いなく、信頼するに足りない情報である。そういう情報に流されて、今の塾や今の学習法に疑いをいだいたら、そのこと自体とても不愉快だし、時間の無駄にもつながりかねない。
 

 タレントのような服装、タレントのような髪型で、お笑い芸人のようなしゃべりかたをする予備校講師が増加すると、生徒たちのクチコミもタレントかお笑い芸人についてのクチコミとそっくりになってくる。要するに「ファン」なのである。自分でも驚くが「今井ファン」などというものさえ存在するらしい。とにかく「ファン」だから、自分がファンである講師以外に対する目が非常に厳しくなる。「あそこがキライ」「ここがイヤ」「こういうところがウザイ」「着ているものダサイ」「目つきがチョー、キモイ」「顔が脂っぽい」「口が臭い」あたりなら、まだ可愛げもあるし悪意も感じられないが、なかなかその程度では済まなくなって、しかもそれがどんどん理論化していくのである。

 

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(ネコのアフタヌーンティー 2)


 講師一人一人についてもそうだから、予備校について学校内に派閥ができていくのも当然の流れである。ひと昔前の優秀な高校なら、通っている予備校によってK派とS派に分かれて対立し、互いに情報合戦を展開し、一匹オオカミ的なY派などというものもウロウロして、勉強しているんだかファン同士の対立抗争なのか、見分けがつかない有り様だった。しかも各派閥の内部でさらに分裂抗争があって、S派I講師ファン vs O講師ファンがにらみあいになったり、同じ予備校なのに池袋校ファンvs新宿校ファンで罵倒しあったり、まあ簡単に言ってしまえば、勉強のことなんか2の次3の次というていたらくになるのである。
 

 今は予備校の世界が昔とは比較にならないぐらいに多様化したから、そんなに簡単に派閥抗争が発生することはなくなったが、むしろ問題が深く広く複雑化しただけのように見える。だから、「情報交換」などしているヒマがあったら、参考書をどんどん読み進め、問題集をどんどん解いていったほうがいい。ファン同士の罵りあいに加わって精神的にも肉体的にも疲弊していくより、単語集を早く一冊仕上げるほうがいい。そうやって早く着実に成績を向上させて、早く第1志望に合格してしまえば、クチコミも情報交換もすべて、はるか下界の幼稚なオハナシになってしまい「ああ、加わらなくてよかった」と胸をなでおろすことになるに決まっている。