Thu 081030 講師の取り巻きになるな 「人気急上昇」をウノミにするな | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 081030 講師の取り巻きになるな 「人気急上昇」をウノミにするな

 昨日の「最前列に座るな」というアドバイスは、イコール「講師の取り巻きになるな」ということである。カブリツキでキャーキャー騒いでいるのは、もしそれが演劇なら、演劇そのものを鑑賞しに来た客ではなくて、誰か出演する俳優か女優のファンであるミーハーにすぎない。予備校の最前列というのは、そういうミーハーもどきで溢れかえっている可能性のある、非常に危険な場所だと考えたほうがいい。
 

 若い女性講師の授業直前の教室を、ちょっと覗いてみたまえ。夢見るようなトロけた顔つきの、アブナイ感じの男子生徒たちが最前列を占拠していないだろうか。授業開始前の最前列を埋め尽くした女子生徒たちが盛んにメイクに励んでいたり、ブラシやクシの摩擦音が教室を支配していたりすれば、その教室にはまず間違いなくイケメン熱血講師が張り切って飛び込んでくるはずだし、彼がマイクをつかんで絶叫を開始すれば、さながらアイドルのライブ会場のように、最前列の生徒たちの目は女子も男子もみんなハートの形に変形しているだろう。
 

 当然、授業前後の最前列では、ライブ会場と同じように互いの激しい視線がビシビシ交錯するし、いろんな派閥が水面下で勢力争いを演じ、中には一匹オオカミなどというのもウロウロするから、そんな場所に何も知らずに席を確保して無邪気な顔でノートなんかとっていたら、各派閥共通の敵と見なされて、知らないうちに敵意と軽蔑の渦の中に巻き込まれていることになる。そこは、取り巻きの生徒や、講師お気に入りの生徒たちの、言わば指定席。マジメに勉強しにきた生徒が座る場所ではない可能性が高いのだ。

 

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(背面跳び1 チャレンジ。踏み切り直後)


 取り巻きの生徒などというものは、要するにミーハーのファンなのだから、講師が何を言おうと大きく頷き、何を言っても喝采し、何を言っても受け入れる。そういう扱いを受ければ、講師だって決して悪い気はしないから、特に若い先生はそういう状況にどんどんハマっていく。「ケッコ人気がある」と思い込み、ますます熱血講師ぶりを発揮し、生徒たちを「ワラカス(笑かす=笑わせる)」ことに夢中になり、成績を向上させ合格させることなんかよりも、どのぐらい生徒をワラカシたかを優先するようになる。熱血講師とミーハーの生徒がグルになって、塾や予備校をダメにしていく構図がこれである。
 

 こういう状況は、むしろ低学年で発生しやすい。大学受験の予備校、しかも受験学年だと、さすがに生徒はもう大人だから、バカな講師をおだてても何の得にもならないことをよく知っているケースが多い。講師もある程度以上の大人がほとんどだから、キャーキャー騒がれチヤホヤされることにも、もう飽きてしまっている。問題なのは、「まだ受験は先のこと」と思っている高1高2とか、アルバイト講師も少なくない高校受験と中学受験の塾である。大学生や院生のアルバイト講師は、当たり前のことだがプロ意識が低いことが多いから、自分の受験生時代にどういう講師が人気講師だったかを思い出し、ひたすらワラカスことに夢中になる。ワラカシて、しばらくの間人気を保てれば、アルバイトの継続という当面の目標は達成できるからだ。しかし、そういう講師が多ければすぐに塾の雰囲気は乱れ、真面目な生徒はどんどんシラケ、どんどん辞めていく。

 

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(背面跳び2 模範的な空中姿勢)


 何より滑稽なのは、「最前列以外はガラガラ」という光景である。「ファン以外には誰も相手にしなくなった」というこの光景は、もちろん講師自身の責任である。おそらくこの講師は「キャッチボール」と称して、最前列の生徒ばかり指名し、最前列の生徒とばかりキャッチボールを楽しんだのだ。最前列の席を確保したほどの生徒なら、当然講師のファンであるから、当てて質問しても反応は非常にいいだろうし、たとえ叱っても反抗されたり恨まれたりすることはないだろう。毎回、最前列の生徒を優先して指名し、指名はなかなか全員に行き届かず、せいぜい2列目か3列目の生徒まで指名されるだけで、「後方に座れば当てられる心配はない」というダラけた雰囲気が教室全体を支配するようになってしまう。
 

 後ろの席の生徒はどうかと言えば、後ろに行くに従ってファンである確率は低下するわけだから、せっかく講師が指名しても反応は悪いし、講師の熱血ぶりに感動してもくれないし、指名したのに講師をシカトすることさえあるだろう。そういうヤツらに指名してもつまらないから、授業中の指名は、ますます最前列の取り巻きたちに集中することになる。「指名されたい♡」「先生と視線を合わせたい♡♡」「♥叱ってほしい♡」という生徒は、どんどん最前列を狙って授業前から列を作るようになり、授業後にも先生と世間話をするために職員室で長い列を作る。不注意に観察しただけなら、いかにも彼は「超人気講師」「人気急上昇」に見え、塾は活気に満ちているように見えてしまうのだ。

 

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(背面跳び3 成功?)


 しかし実際には、その講師こそが大きな危機にさらされているのだし、経営的にも彼を放置しておくわけにはいかない。真面目な生徒はどんどん彼を離れ、塾を見限り、どんどん転塾してしまっているのである。一番可哀想なのは、取り巻きになってしまった生徒たちである。彼ら彼女らは、別に悪いことをしたわけではないのだ。最前列を確保しようと早い時間から塾にきて列を作り、講師の質問にもよく答え、よく反応し、そのためには予習にも時間をかけ、準備もしっかり(メイクまで含めてだが)して、実に真面目に努力を続けてきたのだ。それなのに、模試の成績は全然上昇せず、気がつくと教室後方はガラガラで、自分たちだけが盛り上がっている。成績のいい子は、みんな他の先生の授業や他の塾に移動してしまっている。これほど大きな疎外感というものも珍しいかもしれない。
 

 経営者や監督者の問題もあるだろう。見る目があれば、目立たないけれどもマジメにコツコツ授業の準備をして、確認テストもキチンと作り、教室内は満遍なく埋まり、男女比もほぼ半々(ひどい場合だと、男女比1:9などというのもあるのだ)、模試のクラス平均点も着実に上昇している、そういう先生がたくさんいることに気づくはずだ。しかし、少子化が進んで経営が厳しくなったり、数字があがらなくて本部からキツいことをワイワイ言われている支部長なんかだと、ついつい目先の数字をあげたくなってワラカシタイプや熱血タイプを重用したくなるのである。

 

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(背面跳び4 成功を確信した瞬間)


 「ファン」になるような生徒の意見が通りやすい、という事情もあると思う。特定講師のファンになるような生徒というのは、その塾ではおそらく非常にコアな存在なのである。毎日のように塾を訪れ、ファンである先生の噂話を声高に語り、仲間も多いし塾長先生とも仲がよかったりする。ついつい塾長先生もそういう生徒の意見ばかり聞きたくなり、塾全体の方向性がおかしな方に傾斜し、いかにもミーハーなイベントやミーハーな掲示物ばかりが目立つようになって、真剣な生徒たちは皆いつの間にか不快そうに眉をひそめている。それではいけないのだ。他のどんなことよりも生徒全体の成績向上の阻害要因になってしまうからである。
 

 塾は、硬派が一番。掲示物では、成績上昇者が表彰されていたり、確認テスト受験率の高い者のランキングが示されていたり、自習室や講師室が静粛で、教師も生徒もみんな夢中で何かを書いたり、低い声で音読していたりするのが理想。反対に、ポスターばかり派手だったり、講師室でキャーキャー騒いでいる様子があったり、派手な身なりの先生に長い列が出来ていたりするのを見たら、そういう塾や講師には近寄らないでおくのが賢明なのである。

1E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 1/5
2E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 2/5
3E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 3/5
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