Thu 081023 ミラクル君になるな 冷静に戦術を検討せよ 計画表を変更するな | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 081023 ミラクル君になるな 冷静に戦術を検討せよ 計画表を変更するな

 模擬試験の結果が返却された日には、「ミラクル君」が大量発生する。大学受験に限ったことではない。資格試験でも、高校入試でも同じことである。返された模試の成績表には、普通は書かれていてはならない成績が書き込まれている。早稲田志望なのに、偏差値49。医学部志望なのに、偏差値53。旧帝国大学志望なのに、偏差値45。志望校判定は第1志望E、第2志望E、第3志望E、第4志望E。第5志望まで来て、やっとのことでD。こういう悲惨な状況に追い込まれれば、「もう奇跡でも起こすしか助かる道はない」と思い込むのも仕方ないだろう。彼ら彼女らは、まず友人に「ミラクルを起こすぜ」「今日から奇跡を起こすぜ」と宣言しまくる。家族にも「今日から死にもの狂いでやってみる。奇跡を起こす!!」と告げる。
 

 ママだってパパだって、息子や娘が目に涙をためコブシを握りしめてミラクルを誓えば嬉しいことこの上ないから「よし。頑張れ。お父さんも応援するぞ」みたいなことになるのは当然である。だから、中学入試の場合だと本人よりもむしろ親のほうが「ミラクル君」になることが多いようである。思わずお弁当づくりなどに力が入って、書店でお弁当特集の雑誌を購入しては「次の模擬試験こそは」ということになるのであるが、あんまりママに力が入ったりすると、子供にとっては返って精神的につらいかもしれない。少なくとも、お弁当でミラクルは起きないことは確かである。

 

0761
(ニャゴロワの思考)


 予備校の側からみても、こういう「ミラクル君」は素晴らしいお客様である。追い込まれたミラクル君たちは、奇跡を起こすためなら少しぐらいお金がかかっても、いくらでも講座を申し込んでくれるからである。折しも、冬期講習や直前講習の申し込みもたけなわ。人気講師の講座なら、10月の下旬にもなればもうとっくに満員で閉め切られているはずだが、中堅講師の講座はまだガラガラである。ガラガラは困るから、経営側が大いに気を揉んでいると、この時期から大量のミラクル君たちが大挙して窓口を訪れ、不人気講師の講座でも、構わずどんどん申し込んでお金を払ってくれるのだから、まさに「ミラクル君さまさま」である。
 

 講座の名前にも、ミラクル君を呼び込むための誘蛾灯のような工夫が凝らされている。私のようなオジサン講師にはとても考えられないが、予備校によっては「奇跡をおこせ」「いま、キミは伝説になる」「土壇場で大逆転」のようなタイトルの講座が冬期直前講習には溢れていて、パンフレットをめくりながら、一体何事が起こっているのか理解できなくなるほどである。授業にも同様の熱気がこもる。ただし、熱気そのものはいいとしても、その熱気が見当違いの方向を向いていると、いろいろ問題が発生することになる。
 

 講師が絶叫口調で「いいかあ、クラス全員でミラクルを起こすんだあ」などと語りかけている姿は、滑稽を通りこして、むしろ哀れである。「ミラクル」でも起きなければ誰も合格できない状況にしてしまったのは、先生、あなたなのだ。第一、「ミラクルを全員で起こす」というのは言葉の遣い方も間違えている。ミラクルというのは、誰にも起こらないからこそ、ミラクル。100年に1度しか起こらないことだからこそ、奇跡と呼ぶのだ。200人もいるクラスの全員が奇跡を起こすなどということはありないし、それが毎年毎年訪れることもない。

 

0762
(ナデシコの思考)


 とんでもない成績をとってしまったり、いくら頑張っても成績が上がらなくて落ち込んでしまった時に、何よりもまず必要なことは「冷静になる」ということである。冷静になって戦術なり戦略なりを練り直し、作戦変更が必要ならその作戦をあくまで冷静に検討することである。「ミラクルを起こせえ!!」などと絶叫しているのが最も馬鹿げた対応であって、まず第一に「ミラクルは、決して起こらない」と肝に銘ずることである。出来れば、色紙を用意して「ミラクルは起こらない」と大書し、勉強机の前に貼っておくといい。10点リードされた9回裏に満塁ホームランが3本出て大逆転するようなことは、ありえない。残り10分から奇跡的なシュートが続出して5点差をひっくり返すようなサッカーは、ありえない。「あきらめるな」という掛け声、「あきらめなければ何でも出来る」という絶叫は、赤の他人だからこそできる無責任な激励であって、正確には「ミラクルは起こらない」であり、「だからこそ一歩ずつ進むしかない」「ならば、早く一歩を踏み出そう」「どこまでも一歩ずつ」「一歩ずつ進めば、とにかく前進は出来る」である。ミラクルがもし実際に訪れるとすれば、それはそういう冷静な一歩一歩の、そのまたはるか向こうである。そういう冷静な認識がなければ、一歩も前に進めない。

 

0763
(思考放棄・ニャゴロワ)


 ミラクル君は、とにかくやたらに生まれ変わる。「今日から、オレは、生まれ変わった」と宣言して回る。親にも、友人にも、ネコや犬にも「生まれ変わったぜ」と言ってみる。生まれ変わるには、生活のすべてを変えなければならないから、まず机に向かって「学習計画表」の変更を始める。一番多いのが「生活を朝型に変える」という決心である。「生まれ変わってミラクルを起こす」という決意でカッカしているから、早起きするということの難しさを忘れている。自分の今までの人生で「早起きする」という決意を何度繰り返し何度挫折したかも忘れてしまっているから、「毎朝4時に起きられる」という前提に立った明らかに無理な学習計画表が出来上がる。
 

 計画表が作成するのに2時間も3時間もかけて、完成するのが午後11時。プリントアウトして、「よし、これで完璧だ」。しかし明日から朝型で、朝4時に起きるのだから、「今日はそれに備えて睡眠だ。明日から頑張るぞ」。お父さんまで激励に訪れて「そうだ、睡眠も努力のうちだ」とか、つい余計なことを言ってしまう。で、目覚まし時計だけは極めて正直者で、律儀で誠実だから、午前4時にはキチンと作動する。「目覚ましが鳴らなかった」などということはありえないのだ。しかし、決意の翌朝だけは日本中の目覚ましが皆ストライキを起こすらしくて、受験生が目を覚ますのはいつもよりむしろ遅い時間である。それが運悪く日曜祝日だったりすると、10時とか11時とか昼過ぎとか、もう家族はみんな昼ご飯を済ませて出かけた後だったりする。
 

 ま、すべてこんなふうになる。「ミラクルを起こす」「朝型に生活を変える」などという決意が成功した試しはないのだ。そんな決意を持続できるような偉い人物なら、最初からミラクルが必要な立場に追い込まれたりせずに、悠々と最上位で合格していくのである。あくまで冷静になって、誰が見ても吹き出すほどの絶対無理な計画表なんか作らないことである。「計画表を作る暇があったら、単語集を10ページやれる。数学の問題集を3ページ進められる。そうやって1歩でも2歩でも前進するほうが、どれほどマシかわからない」というのが、授業中に私がよくするアドバイスである。

 

0764
(思考放棄・ナデシコ)


 私自身、かつて受験生だった頃に、志望校のすべてがE、偏差値43.9というのを経験している。そのときは、志望校を書く段階で既に諦めかけていたから、第5志望の欄に「フェリス女子短大」というのをふざけて記入して、「G」というのをもらった。東大文ⅠE、早稲田政経E、早稲田法E、東京外語大E、フェリスG。GとはgenderのGであって「性別が違うから受験できません」ということだったのだが、私の友人たちは「girlsのGだ」と言い張っていたものだ。それが高3の11月末だったのだから、その悲惨さは相当なものだ。
 

 あの時には私自身まさにミラクル君になって、正気を失った激しい計画表作成に夢中になって、無駄な日々を過ごしたものである。何しろ残り3ヶ月の段階で偏差値43、それでホンキで東大に行きたかったのだし、「最悪でも早稲田の政経」と考えていたのだ。11月いっぱいはミラクルのための計画表作成に励み、「日本史の問題集を3日で完成」「数Ⅰの参考書1冊5日完成」「英語は毎週1冊読解問題集完成」など、たいへん素晴らしい計画を立てて、よしよしこれなら大丈夫、睡眠時間は3時間とればOK、4月には東大生、ま、そんな予定になっていた。
 

 自分がそういう人間だったからこそ、こういうアドバイスが出来るのである。生まれ変わるな、ミラクルを起こすな、大逆転を夢見るな、その代わり1歩前進せよ。単語一つ覚えよ、目の前の問題集を1問解きたまえ。これほどウザイ冷静なアドバイスをする講師にはなかなか会えないはずだから、ぜひ大事に扱ってくれたまえ。

1E(Cd) Art Blakey:NIGHT IN TUNISIA
2E(Cd) Walt Dickerson Trio:SERENDIPITY
3E(Cd) Surface:SURFACE
4E(Cd) Surface:2nd WAVE
5E(Cd) Enrico Pieranunzi Trio:THE CHANT OF TIME
6E(Cd) Quincy Jones:SOUNDS … AND STUFF LIKE THAT!!
7E(Cd) Courtney Pine:BACK IN THE DAY
8G(Cd) 戸泉絵里子:スペインを旅する会話:三修社
9G(Cd) 戸泉絵里子:スペインを旅する会話:三修社
10G(Cd) 戸泉絵里子:スペインを旅する会話:三修社
20G(β) 戸泉絵里子:スペインを旅する会話:三修社
total m246 y1635 d1635