Tue 081014 高田馬場講演会 宮川幸久氏死去 英単語集の過去・現在・未来 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Tue 081014 高田馬場講演会 宮川幸久氏死去 英単語集の過去・現在・未来

 昨日は東進・高田馬場校で講演会があった。この時期の講演会は高校1年2年の父母を対象にしたものだから出席者はそれほど多くないが、盛り上がりの面では何の問題もない。校舎改装中で講師控え室もない状況、仕方がないから開始直前まで会場のあるビルの中のコーヒー店に隠れていた。こういう時には最初のうちあまり調子が出ないのだが、冒頭の一言でもう笑いがもれるほどに聴衆の反応がよかった。それに救われたこともあり、90分間絶好調で話を進めることができた。このところ話のバランスもうまくとれていて、ついつい延長しがちなクセが見事に抑えられている。延長が多くなるときはむしろ調子が悪いのだ。今日は15時10分開始、16時40分終了。話したい話題を全て盛り込んで、お手本のように予定通りの90分で締めくくった。

 

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(箱入りニャゴ姉さん)


 宮川幸久氏が死去。旺文社「英単語ターゲット1900」の著者である。私の世代は「赤尾の豆単」が徐々に廃れて、森一郎「試験にでる英単語」(通称「でる単」)派が急激に増加していった世代だから、その後の英単語集がどんな変化と進化を遂げていったのかリアルタイムでは経験していないのだが、今30歳代の人々の受験時代は「ターゲット」に彩られていたのではないだろうか。優秀な受験生は「速読英単語」、普通の受験生は「ターゲット」という2強時代がしばらく続いて、10年ほど前にDuoその他が出版されてもう一世代若返るまでは、この2強が支配していたように思う。
 

 私などは自分自身が「手を動かしたり音読したりしなければ記憶できない」という甚だ凡庸な頭の持ち主であるから、単語集を作るにもついいろいろ余計な工夫を凝らしてしまう。3年ほど前に東進ブックスから出版した「英単語熟語トレーニングドリル2100」は、工夫を凝らしすぎて上下巻合計500ページに近いものになってしまった。CDが2枚もついているは、書き込み式のドリルがいくらでもついているはで、「たかが英単語や英熟語にそんなにたくさん時間はかけられない」という普通の読者から見たら、まさに「余計なお世話」というぐらいバカ丁寧な本を作ってしまったと思う。
 

 もちろん「基礎基本が全て」という私の発想から、英単語熟語という基礎にこそ、このぐらいの手間をかけてしっかりじっくり力をつけてほしいと願った本なのだ。しかし、そういう考え方は、まだ一般に浸透してはいない。「英単語ぐらい、電車の中で済ませてしまいたい」「英熟語ぐらい、学校の休み時間にちょこっとやれば足りる」「机に向かうときは、英単語なんかではなくて、数学の難問集をやりたい」。そういう考えにたてば、単語集は「コンパクトな新書判で最大300ページぐらいにまとめてほしい」という需要にキチンと応えた本でなければいけないだろう。その意味では、「ターゲット」に代表されるコンパクトな単語集が一世を風靡してきたのは当然だっただろう。

 

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(箱入りニャゴ姉さん2。証明写真的な表情で)


 若い世代の人は知らないだろうが、「ターゲット」や「速読英単語」の登場は、実に画期的だったのだ。昭和40年代までは、英単語集といえば「赤尾の豆単」以外には考えられなくて、他のものは全て泡沫。その泡沫まで含めて、ほぼ全てがアルファベット順の配列。「頻度順」「重要度順」という発想さえなかったのだ。昭和50年代に入る頃に青春出版社から森一郎という先生が「試験にでる英単語」を出して、初めて「頻度順」というアイディアを実現。それまでのアルファベット順の単語集がabandon「あきらめる」から始まっていたのに対し、「でる単」ではintellect「知性」から始まるあたりも、当時の受験生を引きつけたものだった。しかし、それでも単語集は「一覧表」タイプ止まり。派生語や関連語句などの記述が申し訳程度にくっついていることを除けば、「覚えやすくする」という工夫はほぼ皆無で、だからこそほとんどの受験生は最初の20ページか30ページで諦めてしまったのだった。
 

 その頃に流行したのが「コンピュータで分析」というフレーズだった。頻度順や重要度順を名乗る以上は、「コンピュータで分析」してその重要度を測る必要があったのである。今はもう、コンピュータを使わないほうが不思議という時代になったが、当時は「なんと、ぜいたくにも、コンピュータを使って単語集を使ったのだ」というスタンスであって、本の帯にデカデカとビックリマークをつけて「コンピュータで分析!!!」と赤い活字で印刷されていたりしたものだ。ほとんど「飛行機で海外旅行!!」「電子レンジで料理!!!」「冷蔵庫で保存!!!!」みたいな滑稽さも感じるが、「コンピュータで分析」したばかりに、いろいろ悲劇的喜劇的な単語集も出ることになった。つまり、データを生のままコンピュータにぶち込んだせいで、どこかの大学の長文問題で連発された単語が、別に重要でも何でもないのに「頻度第1位」「重要度第1位」の栄冠に輝いたりしたのである。例えば、beaver「ビーバー」を「最頻出単語1位」に据えた単語集もあったのだ。東京都立大(名前は変えられてしまったが)の長文問題で連発されていたのがその原因と思われる。

 

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(眠るナデシコ。立派なヒゲは眠らない)


 それに対してその後の2強は、全ての単語に例文をつけて、史上初めてユーザーのために覚えやすくする工夫を試みた。「速単」が優秀な受験生、「ターゲット」が普通の受験生、という棲み分けになったのは、その例文の長さと難しさのせいだったと思う。速読英単語のほうは、めくってみると長文読解の問題集のような印象を受ける。例文は全て長文で、相当の学力がなければ読みこなせない。ターゲットのほうはすべて1行の短文。これなら、ごく一般の受験生でも苦労せずに読めるし、「単語を記憶する」という本来の目的から逸脱することもない。著者が亡くなった直後だから義理で言うのでもなんでもなくて、私はずっとターゲット支持者、生徒には(自分の本は別として)ターゲットを推薦していたものだった。


 単語集の世界はその後もいろいろに様変わりして、いろいろ新しい本も出ているようであるが、それでも「どんな単語集を使っても、結局単語を記憶できない」という生徒たちの悩みは変わらない。「頻度順」「例文付き」「CD付き」と、どんなに工夫を積み重ねても、やはりコンパクトな新書判300ページの本を1冊、それもただ単に眺めているだけで、どんどん記憶できるほど人間の脳は記憶媒体として優れてはいない。生徒たちの真剣な悩みを聞いていると、どうしても様々な作業を通じ手や口や肉体全体を使って記憶するほうが遥かに効率が高いことに気づくのである。手前味噌になるが、私は「トレーニングドリル2100」をそういう意図のもとに作ったし、東進の「高速マスター」などというのも意図は同じだと思う。


 どんどん進化する単語学習が今後どういう方向性を持つかはわからないが、とにかく「眺めているだけ」という方法が終焉を迎えようとしていることだけは確かである。英文法はどんどん問題を解いて英文法をオモチャにして遊ぶのが最高の学習法。単語についても、単語をオモチャにして単語まみれになって遊ぶのがいい。そういう教材を探してどんどん遊びまくりたまえ。今はまだ新書判単語集を眺めているだけが主流でも、これから20年後30年後には単語をオモチャに遊びまくる方法が主流に変わっていると確信していいぐらいである。

 

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(眠るナデシコ2。しましまシッポは眠らない)


 もう20年以上前、書店で偶然見つけてかなり楽しく遊んだ本があった。出版社は忘れてしまったが「単語レモン」という書名だった。今も売られているかもしれないし、さらに進化を遂げたかもしれないが、当時としてはまだ珍しい、いくらか遊べる単語集だった。レベルとしては英検準1級から1級ぐらいか。私としては珍しくどこかになくしてしまったが、友人たちにも相当推薦して回ったのを記憶している。当時東京大学大学院の博士課程に在籍した政治学者の男で、シカゴ大に留学しようと日々努力し、かつ日々私と酒ばかり飲んでいた男は、日々「単語レモン」をめくってはニタニタ際限なく遊んでいたものだった。彼はその後シカゴ大への留学を果たし、今はコロンビア大にいる。彼も猫好き。猫好きと単語集好きには、面白い人物が多い。カラオケで私が英語の歌を歌うと、横に立って日本語に同時通訳していく、そういう男である。

1E(Cd) Jennifer Lopez:J TO THA L-O! THE REMIXES
2E(Cd) Brian Mcknight:BACK AT ONE
3E(Cd) Bill Evans:GETTING SENTIMENTAL
4E(Cd) George Duke:COOL
5E(Cd) Joe Sample:RAINBOW SEEKER
6E(Cd) Joe Sample & Lalah Hathaway:THE SONG LIVES ON
7E(Cd) Marc Antoine:MADRID
10D(DvMv) PIRATES OF CARIBBEAN
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