Sun 080928 相互乗り入れほど、非効率なものはない 「有機的連関」の欠陥について | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 080928 相互乗り入れほど、非効率なものはない 「有機的連関」の欠陥について

 昨日は「相互乗り入れ」について書きかけて、この話ならいくらでも長くなるから、今日に半分持ち越したのである。首都圏の鉄道事情についての話だから、首都圏以外の人にとっては関心のない話題かもしれないが、まあ、そう言わないで読んでもらいたい。鉄道の問題に留まることでもないのだ。ちょっと頭を切り替えれば、貿易の話、国内経済の話、予備校の授業の話、金融工学の話、「歌舞伎とジャズの融合」とか「浮世絵と現代芸術の融合」とか融合ばやりの芸術の話、生き方の話、ストレスのない生き方の話、そういういろいろな方面の話にすぐに応用可能である。


 どうも鉄道関係者たちは、東京の地下鉄を利用して千葉・埼玉と神奈川を結び、首都圏各県の県民の交流を盛んにする、そういう夢をいだいているようである。たいへん結構なことで、その夢自体は誠に素晴らしい。しかし、そういう夢の実現は、マトモに鉄道を運行し続ける能力があって始めて可能なことである。毎日どこかでドアが開かなくなり、毎日どこかで信号が故障し、毎日どこかで人身事故や踏切事故が発生し、そのたった1件の事故の影響で首都圏の鉄道が皆ストップするような状況では、夢を語っても空しいだけである。毎朝NHKニュースで「首都圏の鉄道の運行状況」を報告しなければ住民が安心して通勤通学できないありさまは、明らかに「無理しすぎ」であることを示している。

 

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(写真上:眠るニャゴ姉さん。このカギ目がいい)


 つないでも意味のない地図上の2点をつなぎ、つなぎすぎたせいで、ひとたび何か事故が起これば(しかもその事故は連日発生するのだ)にっちもさっちも身動きがとれなくなる。計画立案者が、デスクの上に首都圏の地図を広げ、片手に定規をもって、定規とペンで線を引きながら、楽しげに鼻歌を歌いながら仕事している様子が見えるようである。それがPC画面なら、線引き作業はいっそう容易である。そうやって線を引いては消し、引いては消し、住民の要望や幸福は度外視して、机上の作業だけで計画が出来上がっていく。たとえ住民の要望とか意見を吸い上げるために何らかの方策をとっていても、彼ら自身は「居酒屋タクシー」で帰宅するわけだから、要望も意見もファイルに綴じられたまま顧みられることはない。「そういうファイルをよく研究して、住民本意で考えるように」と指示を出すべき彼らの上司のそのまた上司は、大臣執務室のイスに腰を下ろした途端に自分自身にブレーキが効かなくなって、言いたいことを洗いざらいぶちまけなければ生きていけないという病気にかかり、自分自身の運転を見合わせなければならなくなってしまう。こうして、住民本意などというお題目は冷たい秋風の間に間に舞うばかり、顧みる者もいなくなる。

 

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(写真上:続・眠るニャゴ姉さん。後ろの画面はNHK天気予報。まもなく9月が終わる。気温が急激に下がってきた)

 こんなふうにして、たとえば京浜急行と京成線が結ばれてしまい、三浦半島での事故のせいで船橋や津田沼や八千代台で電車が動かなくなり、逆に印旛沼付近でドアが閉まらなくなると、横須賀や金沢文庫で乗客が缶詰になるようになった。それでも、このカップル縁組については「羽田空港と成田空港を1本で結ぶ」という利点は十分にあった。その利点は必ずしも住民本意というわけではなかったが、まあ国民本意ではあったかもしれない。


 しかし、東武伊勢崎線と東急田園都市線の相互乗り入れとなると、これはもう「どうしてつないじゃったの?」という溜め息しか出ない。東武線側も東急線側も、そのそれぞれの住民が大きな違和感を感じている、というのが正直なところである。東武線の利用者にとって「中央林間」「青葉台」「あざみ野」「二子玉川」などと言われても何の馴染みもない。もちろん逆に田園都市線を利用する人々にとって「久喜」「越谷」「草加」に、これからの一生で、果たして行かなければならない用件が1回でも発生するか、大いに疑問である。たとえカップル縁組みしたとしても、東武線からは渋谷まででOK。田園都市線からは大手町ぐらいまででいいのであって、押上や北千住に直通で行かなければならない人だって、それほどは多くはないのである。そのことは、朝でも昼でも、大手町辺りで乗客がほとんど入れ替わることでも判断できる。

 

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(写真上:眠るナデシコ姫。同じくNHK天気予報の画面の前で)


 「中央林間(ちゅうおうりんかん)発、久喜(くき)ゆき」。または「久喜発、中央林間ゆき」。東武伊勢崎線、地下鉄半蔵門線、東急田園都市線、この全く異質な3区間、お互い余り関係の深くない3区間を結ぶこの直通電車が、毎日次々と運行されている。しかし、この直通に、果たしてどんな意味があるのだ。おお。いったい何時間かかるのだろう。PCまたはケータイでちょっと調べてみたまえ。驚くべきことが分かるはずだ。「驚くべきこと」とは、「直通で行きなさい」という指示を出すPCもケータイも存在しない、ということである。時間帯によってはあり得るのかもしれないが、少なくとも私が使用しているソフトではPCでもケータイでも「渋谷でJRと東急線を乗り換えていきなさい」または「新宿で小田急とJRを乗り換えなさい」という指令が出る。そのどちらのルートでも所要時間約1時間40分、PCソフトに鼻も引っかけてもらえない直通電車での所要時間は、面倒なので調べないことにした。


 このカップルで最も不経済なのは、車内広告である。私鉄の車内広告は、その沿線の特徴を非常によく示すものであって、電車で郊外に旅行するというなら大いに楽しめる。東武伊勢崎線という電車は群馬や栃木まで通じているから、車内広告は地方色豊かである。年末になれば初詣に誘う車内広告が増えて「太田子育て呑竜さま」「佐野厄除け大師」「西新井大師」などが勢揃いするし、普段から「春日部秀和病院」「岩槻自動車教習所」「松原インドアテニススクール」などの額面広告がたくさん並んで「おお、いま自分は東武線に乗っている」という実感が嬉しい。

 

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(写真上:新聞が大好きなナデシコ)


 しかし、通勤通学に利用する住民にとって、例えば「青葉台から渋谷」「あざみ野から大手町」に通勤通学するものにとって「佐野厄除け大師」「太田子育て呑竜さま」に初詣に出かける日が、果たしてこれからの一生で訪れるだろうか。「春日部秀和病院」でインフルエンザの予防接種を受けたり「岩槻自動車教習所」で免許取得に励む日が、想像できるだろうか。広告主が高い費用を支払って、1ヶ月単位、半年単位で額面広告を出して、埼玉県民にみてもらうはずのその広告が、桜新町、多摩プラーザ、梶ヶ谷、そういう行ったことも見たこともないこともない街を空しく揺られているだけだなんて、経済効率の低さの見本である。もちろん逆も同じ、埼玉にも群馬にも校舎を1つも持たない神奈川の塾の広告が、無益に埼玉県東部を走り回りながら「青葉台校」「湘南台校」「相模大野校」のコマーシャルをしている有り様は、正直言って(お金を出した広告主の立場で言えば)許しがたい気がする。


 現に、これを書いている最中にも、「西武池袋線と地下鉄有楽町線の遅れ」の情報が入ってきた。原因は? 「東武東上線で車両点検があったため」である。加藤くんが学校に遅刻して、「原因は、向かいの中島さんちの夫婦ゲンカだ」と言い訳しているような、どうにも腑に落ちない話である。あるいは、ヴィットリオが大学入試に失敗して、「だって、親友のジョバンニが数学で30点しかとれなかったんだ」とパパに言い訳して、許されると思っている、そういう話である。

 

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(写真上:続・新聞が大好きなナデシコ)


 この「西武池袋線」「東武東上線」は既に「地下鉄有楽町線」に相互乗り入れしていて、それが2008年の夏から「地下鉄副都心線」にも相互乗り入れを始めた。池袋を中心に2本の私鉄と2本の地下鉄がエックスの文字の形に相互乗り入れするのだ。その組み合わせは4通り。池袋終点の電車も4通りあるわけだから、池袋付近の電車に乗る人は常に合計8通りの電車が頭に入っていなければならない。見分ける客もたいへんだが、運行する職員の苦労やストレスもたいへんなものである。そこへ、地下鉄副都心線が、渋谷から先の東急東横線にも相互乗り入れする。その東急東横線は既に東武伊勢崎線と相互乗り入れしていて、しかもその東武伊勢崎線はさっきまで話題にしていた東急田園都市線とも相互乗り入れしている。そこへさらに東急目黒線だとか都営三田線だとか、そういうものも参戦してくる。まさに組んず解れつの状態であって、ここまで有機的連関を進めてしまえば、もう滅多に理解できる人はいない。要するに、何でもかんでもつながり放題つながったタコ足配線そのものであって、ちょっとしたことで大きな火災につながるのは必定なのである。


 有機的連関を進めれば進めるほど、一カ所の欠陥が全体のマヒに直結する。そんなのは当たり前のことであって、通路などというものは全部つないでしまうより、互いに独立した通路を複数個、出来るだけ確保する方がいいに決まっている。頭のいい人たちが皆で集まって、効率的な経営を目指す時、最も陥りやすいワナがここに見えてくる。効率的につなげば、一カ所のホコロビで全てが倒れる。まさに当たり前のことであるが、こういう当たり前のことは、私のような、余り優秀でない人間の方がよく見えるのかもしれない。金融工学などというものが、いったんほころびを見せるときわめて脆弱に全体があっという間に崩壊するのは、6つも7つも鉄道をつないだ結果、2時間も離れた場所で運転士がクシャミするとその衝撃で全ての鉄道が止まってしまうのと同じことである。

 

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(写真上:新聞が大好きなナデシコ。そのしっぽ)


 だから、鉄道でも経済でも学習計画でも、お互いに独立して何の影響も与えあわないようなルートを複数個同時進行して、他人にその非効率を指摘されてもケロリとして、耳を貸さずにいるのがいいのだ。努力を集中すればするほど、下らないことで全てがストップする。全部バラバラ、予備校で英語を教えていたかと思えば、スペイン語にイタリア語をかじり、酒を飲んで口を開けて寝ていたかと思えばブログに熱中し、風呂で文学全集を読んでいたかと思えばバッハを聞いて昼寝し、バッハのCDが終わるとガバっと起きて参考書の執筆を始め、CDをバッハからRuther VandrossだのAnita Bakerだのにかえ、アリャリャ、文楽を見に国立劇場へ行ったぞ、と思うまもなく長瀞だの三崎だのに姿を現して酔っ払い、酔っ払っていると油断させておいてまた本を書き始める。


 こういうイヤらしいヤツほど、長生きして、踏まれても死なないし、叩かれても動じない。初夏にはカエルとともにケロケロし、真夏にはセミとともにミンミンし、秋にはコオロギとともにコロコロし、冬には北風とともにピープー鼻息をたてて冬眠すればいいのだ。


1E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 5/10
2E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 6/10
3E(Cd) Böhm & Berliner:MOZART 46 SYMPHONIEN 7/10
4E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 1/5
5E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 2/5
6E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 3/5
7E(Cd) Eschenbach:MOZART/DIE KLAVIERSONATEN 5/5
10D(DvMv) THE GODFATHER partⅡ 1/2
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