Wed 080806 予備校講師のお仕事 原稿執筆の進捗状況 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 080806 予備校講師のお仕事 原稿執筆の進捗状況

 予備校講師の仕事で最もつらいのは「毎年が同じ繰り返しだ」ということである。特に英文法などを担当した場合「何月ごろにどんな単元を扱っているか」までおそらく一生変化がない。4月には動詞、5月には準動詞、6月には仮定法。夏休みをはさんで9月には関係詞、10月には名詞と代名詞、11月には形容詞・副詞と比較表現、12月には倒置と省略。それを毎年繰り返して一生が終わる。それ以外の月には何があるかといえば、「人気がなくなったらどうしたらいいだろう」という不安との戦いだったり、最悪の場合は、お互いの脚の引っ張り合いと中傷合戦だったりする。
 

 幸いなことに、東進に移籍してからは「脚の引っ張り合い」「中傷合戦」で心身をすり減らすことは全くなくなった。私が経験したどの予備校よりも講師同士のチームワークがよくて、講師としては安心して真面目に授業と講演会に取り組むことが出来る。あくまで硬派の講師として「キチンと単語を覚えなさい」「キチンと英文法を理解しなさい」「丹念に基礎を徹底させなさい」と発言できるのである。「最も効果的な正しい学習法を指導できる」という自信は、教師としてこれほど嬉しいものはない。
 

 だからこそ東進の生徒はみんな安心して学習に専念できるのであり、だからこそ確実に成績も向上するのである。このブログでも7月後半の10日間に詳しく実況中継したが、いまどきの高校生で、あれほどの熱意を持って学習に熱中できる生徒たちは珍しい。それを可能にしているのは「講師とスタッフが正しい方向へ導いてくれている」という深い信頼感であり、こういう信頼感は、何よりもまず講師たち自身が「自分たちは正しい効果的なことをやり続けている」という自信に満ちていない限り、生まれるものではない。
 

 東進に移籍する以前の「中傷合戦」は、「常軌を逸していた」という表現がピッタリだったように思う。「単語は覚えるな」「文法は勉強するな」「熟語を覚えようとするのはバカだ」「音読、音読、と音読をすすめる講師がいるが、あれはバカのやることだ」、とにかくまともな学習法の全てがバカ呼ばわりされ、ではどうすればいいかというと、どの講師もみな「オレの講座をとれば全て解決」ということになっていた。どの講師がどの授業でどんな発言をしたか、他の講師たちは生徒を通じて即座に知り尽くし、翌日どころかその日のうちに、他講師の発言の全てを、否定し非難し中傷しなければ気が済まないという有り様。「自分は天才で、他講師はすべてアホ」というのが最も多いスタンスで、そういう講師には「熱狂的なファン」がぞろぞろついて回り、アイドルのファンとほぼ同じ行動をとる。自分が好きなアイドルのためなら、他のアイドルを追い落とすためにありとあらゆる手段をとる、というのである。


 私が授業中に「音読がいい」と発言した直後、生徒が2~3人心配そうな表情で質問に訪れる。「先生は音読をすすめていましたが、○○先生は音読するのはバカだ、試験会場では音読できないんだから、と言っていました。どっちが正しいんですか」と言うのである。「キチンと単語集を1冊やりなさい」と発言すると、翌日の朝に生徒たちがやはり心配で張り裂けそうな表情で「××先生は、単語集をやるのはバカだと言っていました。どっちが正しいんですか」と質問しにきていた。A講師が板書した英作文を、生徒がB講師に見せたところ、B講師は「これはバカの書く答案だ」と言ってさんざんにケナシまくり、赤ペンで思いっきり添削した。C講師の授業内容を録音してD講師に聞かせた生徒がいて、D講師は翌日の授業中に「C講師がどれほどダメでどれほどアホか」を力説し、それをまた生徒が録音してC講師に聞かせにいった。その結果、講師室内で講師どうしが怒鳴りあいの大喧嘩。こういう例はいくらでもあって、それこそ枚挙に遑がないが、生徒まで巻き込んでの中傷合戦の真っ只中で、生徒の成績が向上する可能性など全くないのである。


 もちろん告白して置かなければならなのは、私自身そういう渦の中にかつてドップリ浸っていたということである。そういう場所にいれば、こちらも同じようなことをせずにはいられない気持ちになり、いつでも追い詰められ追い立てられている状況にある。自分がやらなければ、おそらくどこかで同じことをされている。ならば、やらないほうが損である。生徒たちは、面白がって次から次へと情報を持ってくる。「先生について、A講師がこんなことを言っていましたよ」「B講師が…するヤツはアホだと言ってましたが、それって先生のことですよね」など、朝から列を作って質問に訪れる生徒たちの口から、そういう情報ばかりがもたらされると、もう授業なんかする気になれない。


 講師の中には、胃腸を悪くしている人が多く、大きい方のトイレはいつでも満員だったが、あの状態では致し方なかったかもしれない。私もそれなりに同じ症状が出て、日に3度でも4度でも、ほとんど授業が終わるのを待ちきれずにトイレに駆け込むことが少なくなかった。全国同時生中継しているような授業中に、チャイムが待ちきれない状況に追い込まれたことも何度かあった。私だけではない。マイクのスイッチを切り忘れるほどにせっぱつまってしまい、たいへん悲劇的な物音が「全国同時生中継されてしまった」という逸話さえ残っているほどである。


 東進に移籍して3年半、私もすっかり健康を回復して、胃腸の具合もすっかり大丈夫である。恐るべき「全国同時生中継」の恐れも(もちろんその逸話は私のことではないのだが)、もう全くありえない。繰り返すようだが、東進の講師はすばらしいチームワークの中で仕事をしており、合宿も講演会も楽しいことこの上ない。この夏の合宿が終了してしまい、次の講演会は8月17日の佐賀・武雄温泉と18日の高松・屋島までないから、ぽっかりあいてしまうこれからの10日間をどう過ごしたらいいのか、少々モテアマシ気味である。今や私にとって、予備校の仕事が楽しみでならないほどなのである。


 旅が多すぎて、7月中で家にいたのは5日だけだった。ナデシコどんのシッポのシマシマがどんなシマシマだったか忘れるほどである。

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 ニャゴロワどんは今ごろ大いに心配して「ねえ、つきのわさん。参考書、忘れていませんか」とただでさえピンクの耳をますます真っ赤にして、参考書原稿の進捗状況を聞きたがっていらっしゃるころである。そして今こそ、ニャゴロワどんのお耳をグッと引っ張って、私の奮闘のあとを言い聞かせてやりたい。


「おお、ニャゴロワどん。私の参考書原稿のことを、忘れずにいてくれましたか。いいですか、よく聞きなさい。8月に入って、私は生まれ変わって原稿を書き続けています。上巻の原稿完成まで、あと5講ぶん。残り30ページに迫りました。8月15日前後には、上巻原稿が完成しますよ。ニャゴロワどんにも心配かけましたが、何しろ絶好調ですから。」

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「ははあ。」
「いやな感じですね。何ですか、ははあ、とは?」
「ははあ、は、ははあ、です。わかりました。今度はそれで、ブログの更新が遅れたりしてるんですね。読書もあんまりしていないみたいですね。結局、つきのわさん、あなたは1回に一つのことしか出来ないんですね」
「仕方ないだろ。ほめてもらっても、いいころだと思うがねえ。」
「ほめるのは、ネコの仕事じゃ、ありません」
「なんだそりゃ。俳句か川柳でも始めたの?」
「川柳も、ネコの仕事じゃ、ありません」
「じゃ、何が仕事なの」
「ネコに仕事はありません」

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というわけで、ニャゴロワもナデシコも、私をほめてくれることはないが、ネコにほめてもらいたくて仕事をしている私としては、いつかニャゴロワでさえ耳を真っ赤にし、ナデシコでさえシマシマの尻尾で天を指して、「これは素晴らしい本を書きましたねえ」と叫んでくれる日を夢見て、今日も参考書執筆に励むことにする。

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