Sun 080727 東進合宿第2期2日目 ヴェローナ紀行2 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 080727 東進合宿第2期2日目 ヴェローナ紀行2

 朝の河口湖はよく晴れて暑かったが、午後から厚い雲に覆われて薄暗くなり、やがて予報通りの雷雨になった。雷雨は5時ごろには通り過ぎ、冷気が流れこみ爽やかに晴れて、この1週間で一番綺麗な富士山が姿を現した。

 東進合宿は第2期の2日目。クラスの雰囲気が第1期より少しおとなしいのと、「確認テスト」についての緊張感がまだ足りないこととを除けば、ほぼ第1期と同じように進行中である(Tue 080722参照)。

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 さて、ヴェローナに戻ろう。ランベルティの塔に登ろうと思う。塔の入り口は、エルベ広場とその向こう側のシニョーリ広場にはさまれた細い道に面した建物の中にあって、中には従業員の姿も見える。しかし、明らかに様子が可笑しい。列が出来ていないのである。イタリア人のおだんごも見当たらないし、騒然とした空気も、喧騒も雑踏もない。チケット売り場の前には、きれいに誰一人いない。こんなことは、普段のイタリアの観光地ではありえないのだ。

 従業員が私に気がついてニコッと微笑む。ありゃりゃ、という感じ。イタリアの従業員がニコッと微笑むことなど、正直な話、目撃したことがない。イタリアの従業員というものは、土産物屋だろうと美術館だろうと名所旧跡だろうとバールだろうとジェラート屋だろうと、とにかくいつでも不機嫌。場合によっては客を見下していやそうに肩をすくめたりする。私はそういう正直で無愛想な従業員が好きである。のべつ幕なしニコッとしているなんて、腹に一物あるに違いないのだ。

 でもまあ、そうやってニコッとされてしまえば、何もしないで逃げていく訳にもいかないだろう。仕方がないから「入れるのか」と聞いてみる。「もちろん入れる」と答える。そうか、何かの拍子に観光客が誰もいなくなる「逢魔が時」みたいな一瞬があって、私はそういう一瞬にランベルティの塔を訪れたわけだ。それなら大チャンスである。

 こういう一瞬を逃してはならない。ジェラートを買うのでも、トイレに入るのでも、美術館に入るのでも、イタリアではこういう瞬間的なチャンスを逃してはならない。一瞬の遅れが死を招く。ちょっとでも躊躇すれば、あわわわ、あわわ、あわ、とか言っているうちに、目の前にはおだんご状の大きな大きな重たい列が出来て、もう取り返しがつかなくなる。

 さっそく塔に登ることにして、ヴェローナカードを水戸黄門の印籠のように掲げて見せると、従業員がニコッとして「あと5ユーロ必要」という。それはおかしい。このヴェローナカードさえあれば、この塔には登れるはずである。

 「このカードが目に入らないのか」と助さん格さんのようなセリフをイタリア語で言ってみる。「あと5ユーロ必要」という答えがまた返ってくる。うーん、先の中納言・水戸光圀公はすっかり困り果ててしまって、印籠をしまいこむ。ここで躊躇していては、イタリア人がおだんごになって窓口を占拠してしまう。急がなければならない。一刻の猶予もなりませぬ。

 この際、悪代官に5ユーロの上納金を納めてさっさと関所を破ってしまおうと決意。ポケットに手を突っ込んで、もうボロボロでホントに5ユーロ札かどうか分からないようなヤツを腹いせに選び出して、上納金を手渡す。すると魔法のように関所が開いて、3階までのエレベーターに通じる通路を指差される。

 こうやってワイロを手渡せば、こちらも立派な悪人である。こそこそ人目を逃れて、他のイタリア人の目に触れないようにエレベーターでスルスルと3階に上がる。

 うにゃ、うにゃにゃ。3階に上がれば、そこから塔に登る秘密階段に抜け道が開かれているはずでござる。ひ、ひ、ひ。光圀どの、拙者もワルでござるのお。イタリアの民を謀って、オノレのみ悪しき利益を得んとするとは、スミに置けませぬ。

 ところが、である。エレベーターを3階で降りても、秘密の抜け道も何も見当たらない。3階で全てが終わり。入れるのは、左側に広がる美術館だけである。そこから先に塔に上る手立ては御座いませぬ。

 おお、謀らんとして、返って謀られたか。ぅぅう。かくなる上は、突進あるのみである。我に続けえぇ。と言っても、もう続くイタリア人はいない。その先の美術館には余り高級とは思えない絵画がどこまでもどこまでも並んでいるばかり。しかも、全く訳のわからない抽象絵画である。

 イタリアの、しかもヴェローナまで来て、現代抽象絵画の展覧会を見せられても余りありがたくはない。謀られた。しかも水戸黄門と違って風車の矢七は助けに来てくれない。おとなしく抽象絵画の美術館を見て回るか、5ユーロは「捨て金」と思ってすぐにここから逃れ出るか、その2者択一である。

「入れますか」「入れます」の簡潔きわまりない問答だけで中に入ってしまった私が悪いのだ。ここは一気に問題を解決することにして、美術館を一気に駆け抜ける。それも、普通の駆け抜け方ではつまらない。

 この際、中1男子800m走ぐらいのスピードで駆け抜けることを選択。美術館の入り口から出口まで、約2分で完走。エレベーターで一気に1階に降りる。さっきの従業員が爽やかにまたニコッと笑って、勝負は終わった。

 謀られたのは私だけではない。美術館の中では、困惑しきった表情のイタリア人が少なくとも20組ぐらい、所在なさそうに彷徨いながら私の疾走に拍手をおくってくれていたように記憶する。

 外に出た後で分かったのは、ランベルティの塔が工事中で立ち入り禁止になっていたこと。塔の入り口は、いま謀られた美術館の入り口と同じだったこと。エレベーターも塔に登るエレベーターと同じだったのだが、3階からの乗り継ぎエレベーターが閉鎖になっていたこと。でも美術館になら「入れます」だったこと。うーん、口惜しや、口惜しや。全てに謀られて、半日しかない貴重なヴェローナ滞在の時間を無駄にしたのである。

 こうなれば、遠慮してはいられない。次々と見るべき場所をメッタ切りにしていく「地球の歩き方」方式を採用。残った時間で見られる場所を「遠慮なく成敗してくれる!!」という勢いで北に向かった。下の写真は「スカラ家の廟」。ゴシック様式の尖塔のあるこの巨大な墓は、シニョーリ広場の出口にあった。

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 街を北上していくと、大きな河に出た。アディジェ河、その向こうには「テアトロ・ロマーノ」の姿が見える。川幅も広い大河だが、流れは急で、水音が爽やかである。

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 よく見ると一艘のカヌーが浮かんでいて、中学生か高校生か、とにかくそんなに年の行かない男の子が必死でカヌーを操っている。何とか流れを遡って上流にある橋に向かおうとするのだが、なかなかうまくいかない。

 彼はわざわざ急流を選び、勢いをつけて急流を乗り越えようとし、あとわずか、あとほんのわずか、というところで力尽きて元の淀んだ流れに押し流される。いったい何度チャレンジを続けたことだろう。何度チャレンジしてもあと少しのところで押し流されてしまう。

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 こうなると、周囲の反応は洋の東西を問わない。彼と同じ年頃のイタリア人中高生がいつの間にか集まってきて、私のそばの河岸からも、上流の橋の上からも、彼に罵声を浴びせ始める。罵声、というよりも、囃したて、冷やかし、彼の努力を踏みにじろうとする。遠足だか修学旅行だかでヴェローナに来ただけくせに、そうやって他者の真面目な努力を踏みにじる。

 私は「負けるな一茶これにあり」の気持ちになって、彼の成功を祈り続けた。罵声が高まれば高まるほど、何故か私が泣きそうになって「頑張りたまえ、成功するまで応援するから」と握りこぶしを握り締めた。それでも彼は失敗の連続。カヌーは、本当にあと数十センチというところで持ちこたえられなくなって、何度でも押し流され、橋に集まった中高生はそのたびに大喝采。自分では何の努力もしていないクセに他人の失敗に大喝采するとは、何事であるか。

 私は怒りに任せて、上流の橋(ピエトラ橋Ponte di Pietra)まで移動。ここからならカヌーの姿がよりしっかりと見え、応援もしやすく、にっくきイタリア人中高生を蹴散らせるかと考えたのである。

 もちろん私の応援なんか彼にはどうでもいいのだが、ランベルティの塔に入れなかった腹いせになるなら、こっちだって別にどうでもいいのだ。そして15分後、ついに彼は成功。急流を遡って、ついに橋の下に行き着いた。

 ほーら、見たまえ。努力は実り、努力は実を結び、努力は裏切らず、努力はウソをつかない。予備校講師なら誰でも口にしそうなアドヴァイスを胸に抱えてイタリア人中高生のほうを振り向き、勝ち誇った笑みを浮かべようとすると、既に彼らの姿はない。逃げたのだ。

 ふん。もちろんこの場で私が果たした役割なんか完全にゼロなのだが、罵声を浴びせるヤツほど逃げ足だけは速いのである。しかし、私は何をやっているのだろう。「地球の歩き方」のペースで貪欲にヴェローナを見て歩くはずが、それをすっかり失念していた。ここから、時間を取り返さなければならない。


1E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 1/5
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3E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 3/5
4E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 4/5
5E(Cd) COMPLETE MOZART/THEATRE & BALLET MUSIC 5/5
8D(DvMv) OCEAN’S TWELVE
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