Thu 080717 山鉾巡行 鴨川べり 京都駅前講演会 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 080717 山鉾巡行 鴨川べり 京都駅前講演会

 朝9時に起きて、四条河原町に向かう。山鉾巡行が9時過ぎにスタートして、四条烏丸・四条河原町・河原町御池と回ってくるというのである。せっかく京都に泊まっていて、それを見に行かない手はないだろう。


 去年もちょうど同じ時期に京都に来て、お昼過ぎの四条烏丸で疲れきった山鉾巡行に偶然出会った。長刀鉾、月鉾、鶏鉾、去年はそういう鉾たちや山たちが京都を一周し終わって、もとの街に帰り着いたところを目撃したのである。疲れきってはいても、扇子を表にしたり裏にしたり、いかにも京都の祭りらしい優雅な山と鉾の行列を見て心から楽しかった。だから今年は、スタートを切ったばかりのまだ生き生きした山と鉾を間近に見よう、まだ生きもよく威勢もいい辻回しを見たらもっと嬉しいだろう、そう考えて京都に来た。
 

 今日の京都は猛暑だった。宿泊先のホテルからタクシーに乗って、河原町二条の交差点まで来たところで交通規制に引っかかった。そこからは、徒歩。まだ朝早いのに、直射日光を浴びると簡単に汗が吹き出る。河原町御池あたりにはもう場所取りを終えた見物客が鈴なりになって、山鉾の辻回しを見ようと待ち受けている。私は短気なので、待ち受けるのは厭である。どうしてもこちらから迎えにいきたい。河原町三条からのアーケード街は、見物客も増えて歩きにくくなったから、木屋町通りにそれて(それでも十分歩きにくかったが)四条に向かった。
 

 四条河原町に着くと、まさにちょうど先頭の長刀鉾が到着して、辻を左に回るところ。生きがいいはずの鉾だけれども、何しろ辻を回るのはこれが最初だから、もったいぶってなかなか回ろうとしない。日陰になったアーケードの下は、人が鈴なり状態。鉾に近いところは三脚持参の(だから当然三脚の上に登ってカメラを構えたままの)セミプロ・カメラマンで完全に占拠された状況。去年の四条烏丸でとは全く違って、鉾のてっぺんの長刀ぐらいしか見えない(下の写真は「函谷鉾」)。

 

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 それでも数メートル下がれば視界がよくなって、四条通りを一列になってやってくる山と鉾がズラリと一望できる。もちろん私が立っているところは後ろから直射日光が照りつける。山にも、鉾にも、四条通りにも、鉾の上のお囃子の男たちにも、梅雨が明けて2日目の容赦ない真夏の直射日光が照りつけ、風景は熱気と陽炎の中でゆらゆら揺らめいている。オバサマズは鉾がよく見えないことに不満を述べ立てているし、パステルカラーの安物の浴衣を着こなした欧米人観光客は嬉しそうにはしゃぎ回っているし、子供は泣き、男たちはむくれ、パラソルは揺れ、汗が滴り落ちて、まさに日本の夏祭りである。


 2番目に来た函谷鉾の辻回しを見た後、暑さに耐えかねて四条河原町を離れた。木屋町通りを北上、そのあと御池通りをわたってその先で左折。空いている押小路通り経由で山や鉾の先回りをして、見物客の少ない高倉御池あたりでゆっくり行列を見物しようという作戦である。
 四条大橋から三条大橋まで、鴨川べりに降りて炎天下を歩く。南の方から中高年のオジサマズ&オバサマズが気が遠くなるほど大量に歩いてきて、私を追い越していく。「歩け歩け会」である。この殺人的な炎天下(京都は35.1℃まで上がった一日だった)、長袖シャツに長ズボン、帽子からはタオルやらスカーフやらで首を被い、白手袋、リュックサックまでほぼお揃いである。リュックと背中の間がどれほど汗ビッショリであるか、想像しただけで気が遠くなりそうだ。

 

 なぜこんな暑苦しい格好をするのか、さっぱりわからない。ほとんど会話もなく、黙々と、苦しげに、希望の光などまるで見えない灼熱地獄の中を、それでも歩くことにしか微かな望みを見いだしえないかのように先へ先へと急いでいく。鴨川の流れの中で、シラサギとアオサギが首を傾げて彼らを見送っている。

 
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 流れの中をよく見ると、カラスぐらいの大きさで、しかしカラスではない藍色の鳥が、エサを探してじっと流れの中に立ち、じっと流れの中を睨みつけている。睨みつけたまま決して動かない。2分、3分、5分。鳥は流れの中をひたすら睨みつけている。真剣であり、誠実であり、迫力に満ちている。私の横に欧米人観光客が立って、愉快そうにその鳥を見つめている。よほどこの鳥が気に入ったらしい。今度は彼がその鳥を見つめている。いつまでも眺めている。夏の炎天下の京都では、誰も彼もみな真剣なのである。
 

 三条大橋で上に上がり、いったん河原町御池まで行ってみる。長刀鉾が辻回しに入っている。意外なほど速い。ここもまさに黒山の人だかりで、状況は四条河原町よりも悪いぐらい。やっぱり先回りすることに決め、押小路通りを西に向かった。
 

 途中、腹が減ったので、市役所の裏で蕎麦屋に入る。「出石庵」。まだ10時半を回ったところだが、さすがに祇園祭の最終日だけあって、もうランチの営業を始めている。まず「出石ソバ大皿盛り」を平らげる。ただし「大皿盛り」といっても、「大盛り」とは違う。本来なら小皿に小分けしていろいろな出し汁を楽しんで食べるのが「出石ソバ」。しかしランチタイムに限り「店内が混雑するので、小分けしたものを大皿にまとめて出す」のだと言う。「小分けしたものを大皿にまとめる」という不可解な行動が、何度考えても納得がいかず、納得がいかないまま、シラサギのように小首を傾げたままで、「小分けして、それから大皿にまとめた」不思議なソバをあっという間に平らげてしまう。おそらく1分もかかっていない。それでもまだ腹が減っていたので「日替わり定食」も注文して「うなぎ丼とミニ出石ソバ」も食べることを決意。ところが今度のミニソバは全然ミニではなくて、さっき食べた大皿とほとんど違わない。そう書きながら、食べ過ぎを実感する。さすがに食べ過ぎたかもしれない。
 

 高倉御池に到着、11時半。鶏鉾がちょうど通過するところであった。いろいろ小さな「山」が続き、かなり長い間隔があいた後で、月鉾と菊水鉾が来る。菊水はちょうど私の目の前で休憩に入ったりしたが、12時半まで真夏の直射日光を浴びながらたっぷり山鉾巡行を満喫できた。

 
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 「辻回し」にこだわる必要はないのだ。鉾に乗った2人の男が扇子をヒラヒラさせながら、どこまでも優雅に、少し滑稽なぐらい真剣に、鉾を引く男たちを指揮する姿。祇園囃子の中で、おそらく例外なく二日酔いの男たちが、明らかに疲れきった表情で仕方なく鉾を引き続ける姿。囃子もつかず、歌もなくかけ声もなく、地味で飾りもほとんどない小さな山について歩く、全くやる気のない男たちのあきらめきった表情。

 
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 そういうものを汗を拭きながらいつまでも見送って、京都の夏祭りは終わる。信じがたいことだが、その2~3時間後には山も鉾も解体が始まって、祭りは跡形もなく終結するのである。
 

 ホテルへの帰り道、烏丸丸太町の路上で、何故か突然、テレビ朝日系「その男、副署長」に出演中の船越英一郎がクルマから降りてきたところに遭遇。今日のテレビ番組表を見ると「殺された男の胃の中から長ネギと九条ネギが出てきたことから犯人を割り出す」という画期的な捜査を展開することになっている。恐るべき人物との遭遇である。昨夜は祇園で安藤和津と遭遇したし、さすがは祇園祭である。遭遇の感動に酔いしれながら、イノシシを祭る「護王神社」に立ち寄ってからホテルに帰る。

 
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 講演会開始まで時間の余裕があったので、京都テレビで「隠し目付、参上」というタイトルの時代劇を(もちろん冗談で)見る。若き日の江守徹が主人公の「隠し目付」。沖縄の「姫」という激しい設定の女が、将軍への直訴状を背中に入れ墨して登場。しかもどう見ても悪役中の悪役という顔の悪役にまんまとダマされて、上半身裸になってその背中の直訴状を見せてしまう。突然、鉄砲隊がフスマの向こうから現れ、「姫」もその用心棒も、主役の江守徹もその家来も、悪代官の「うてえ!!」の一声で、一度に撃たれて殺されてしまう。ところが、悪役たちが何故か自分たちの悪企みを、死体の前で洗いざらい詳細に説明。それを全部聞いてから、死体だったはずの江守徹とその家来が、やおらスックと立ち上がり、不敵に笑いながら江戸時代ふうの防弾チョッキを誇示。「隠し目付、参上!!」。あとはおなじみの大量殺戮シーンで終わるのだが、さっきの鉄砲隊はどこに消えてしまったのか、二度と姿を現さず、悪いサムライたちはみんな真面目に刀を構えて、防弾チョッキの隠し目付に立ち向かう。もちろん、抵抗はすべて無駄に終わる。最後に「姫」とその用心棒が、驚きの冷めない顔で「ありがとうございました」というところで終わり。画面には夕陽のアップが映し出され、音声は「人生の非情」を唄う演歌にかわり、やがてテレフォンショッピングに切り替わる。納得でできないのは、なぜ「姫」とその用心棒が、防弾チョッキも着ていなかったのに鉄砲隊の銃弾で死ななかったのか。昭和40年代は、恐ろしい。今からプロデューサーに質問しようと思っても、すでに全ては忘却の彼方なのである。
 

 午後7時から、京都駅前「キャンパスプラザ京都」で講演会。出席者250名ほど。今日の講演は「講演」というより「授業」のタイプで、いつもほどの盛り上がりはなかったにせよ、大成功であることには変わりない。主催してくださった成基学園の皆さんに感謝する。成基学園の京都駅前校はもちろん、南彦根・大津石山・京都桂・新田辺など、会場から遠い場所からもたくさんの参加者が駆けつけてくれた。ぜひまた近いうちに講演会を企画していただきたいと考える。
 

 終了後、弱い雨が降り始めた京都駅前「酔心」で懇親会。大成功した後の懇親会はとにかく楽しい。京都の先生方4人と、京都の大学受験の現状などをじっくり話し合わせていただいた。アルバイト従業員の中に、かつて山口県・徳山の「東進徳山駅前校」で私の講座に出席していた元生徒がいたりして、その話も盛り上がった。今は立命館大学の学生なのだそうだ。もう20年近くも予備校講師を続けているのだ。どこに行っても元生徒がいる。みっともない行動は決してできないと今日もまた実感して、23時半まで。


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