Sun 080629 代々木上原カーサ・ヴェッキア 北千住講演会 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 080629 代々木上原カーサ・ヴェッキア 北千住講演会

 明け方から1日中強めの雨が降り続いた。午後3時から北千住で父兄向けの講演会。強く降り続ける雨の中、雑居ビル4階の会場なのに、たくさんの参加者があって会場はほぼ満員。そうなると私は今日もまた絶好調で、参加者は100分間ほぼずっと連続して爆笑の状態。さすがにお疲れになったかもしれないが、大成功といっていいだろう。終了5時。


 帰りがけに代々木上原のイタリア料理店Casa Vecchiaに入る。この店に通うのは、もうこれで6年目になる。前回は5月の連休明け、イタリア旅行の直前だったから、ほぼ2ヶ月ぶりである。この6年、デコボコはあるにしても、ほぼ月1回のペースで通っている。その程度のペースだから、連日のように訪れる「おなじみ」とか「常連」とか、そういう客ではない。もともと性格が内気なので、そういう特別な客にはなかなかなれない。


 しかしその内気な私でも、この店に入ると不思議なほどくつろげる。雑誌やTVで紹介されたことも何度かある有名店でもあり、何を食べても確実に旨いとうなずける店だが、高級グルメさま向けとか、気難しい食通さま向けとか、そういう感じではないから、私が大好きなロゼワインを注文しても決して怒られない。接客はアットホームだが、決して内輪臭のするデレデレしたものではなくて、落ち着いた穏やかな気持ちで旨い料理をゆっくり楽しめる。目立ちすぎない店構え、控えめなインテリア、余計な音楽など流さない落ち着いた雰囲気、すべて代々木上原の街にぴったりの店である。
 

 他のテーブルの客ももの静かで落ち着いた人が多く、好感がもてる人ばかりである。魚を口に入れた瞬間「あまい!!」などと絶叫する客はいないし、パスタをかき回しながらウットリ「麺にスープがよくからむ」とか言ってもだえる客もいない。出される料理が「とにかく旨い」ということを皆よく知っていて、だから「なぜ旨いか」「どう旨いか」が食卓の話題になることはない。旨いから、旨いのだし、旨い料理なら、いちいち「何故どんなふうに旨いのか」を話し合う必要はない。
 

 日本のグルメ文化が貧しいのは、旨いものを旨いといって食べないで、ウットリいつまでもかき混ぜながらいろいろ騒がしくしているからであって、旨い料理を口に運んだら「おいしいね」とポツリと一言つぶやき、静かにうなずいてみるだけでいいのである。Casa Vecchiaの客は、その意味ではおそらく理想的な人が多い。「おいしいね」と言い合った後は、心から楽しそうに自分たちの話題に戻り、その話題に熱中しつつ料理と酒を堪能している。「いっちゃっていっちゃって」「どうなのよどうなのよ」「あまい!!」「さくっとした食感」「とろーり」「ぷりっぷり」「ふわっふわ」「じゅわーっ」みたいな騒がしいことには決してならない。テーブル6つか7つの小さな店の中に一緒にいて、これ以上うれしいことはない。
 

 だから、ビア・モレッティ1本を飲み干したあとは、安心して大好きなロゼワインを注文する。ロゼが大好きになったのも、この店で紹介されてからだ。きょうの1本はGRAYASUSI。よく冷えている。なんだか「ヤスシ君みたいですね」などとくだらないことを言っても、この店ではちゃんとうまくあしらってくれるし、迷惑がられることもない(と思っている)。前菜に「桃の冷製パスタ」。パスタなのに桃の味がキチンとのっていて「おお、モモっぽい。とてもモミーですね」などとまたくだらないことを言ってしまうが、まあ許してもらえる。私は本当に内気で、よほどリラックスしないとダジャレなど言わないから(ということは授業中は100%リラックスしているのだ)、この店の良さが分かろうというものである。
 

 今日、特に旨いと思ったのは、「ズワイガニと枝豆のリゾット」「山菜・ミズとホタテ貝のパスタ」。その旨さについて「なぜ旨いか」を語る資格も趣味も私にはなくて、要するに食べてみるしかない。「ズッパ・ディ・ペッシェ」も旨い。
 

 ナポリやポジターノで食べた「ズッパ・ディ・ペッシェ」は、きわめてワイルドだった。顔が洗えるような大きな器に驚くほどの量が盛られていて、運んできたウェイター(ポジターノ「le tre sorelle」のウェイターはガエターノという名前だった)も「さあ、きたぞ、どうだ、食べられるか?」とニヤニヤ笑っているし、周囲のテーブルの客もイスから腰を浮かしてこちらを見ながら「頑張れ」と声援と拍手を送ってくれる、そういう代物である。マルセイユのコキヤージュ、ドイツのアイスバインとともに、私は「イベント料理」「ビックリ料理」と呼んでいる。注文した客が、いわばその店のヒーローになり、料理が出てきた段階で店内には歓声があふれ、声援を浴び、拍手が起き、それこそ大食いコンテストの主人公になったようなものである。
 

 この店の「ズッパ・ディ・ペッシェ」はそういうビックリ料理ではない。その日のメインとして「そろそろちょっとお腹が苦しいかな」と思い始めた客にちょうどピッタリの控えめな顔をして遠慮がちに出てくる。そのぶん、1つ1つの具材が最高の形で溶け合って、とにかく旨いのである。
 

 いつもこの辺でワインが1本空になって、もう1本注文するかどうか悩むところなのだが、今日はもうだいぶオヤジギャグを言って迷惑をかけたから、少し遠慮して赤ワインをグラスで注文することにした。ちょっと濃いめの銘柄がいいかな、と思い私の大好きな「ペロット・ネッロ」をお願いする。この銘柄を置いている店は日本中探してもこの店だけである。舌が黒くなるぐらい濃い赤ワインで、「ペロット」は南イタリアの方言で「舌」、ネッロは「黒」である。もちろん本気にしてもらっては困るのであって、これはあくまで、すっかり気持ちよく酔っ払ったツキノワクマの冗談。こういう迷惑なダジャレを言う客がいても、上手に対応してくれるのは、さすがCasa Vecchiaである。
 

 最後のデザート代わりにグラッパを飲むのが私の最高の楽しみ。イタリアでも「最後にグラッパ」というと店の人が歯をむき出しにして「おお、なかなかやるじゃないか」と喜んでくれるが、この店はクリのグラッパ、柑橘系のグラッパ、カモミールのグラッパなど何種類ものグラッパを用意してくれるところがいい。写真は、目の前に並べてもらったたくさんのグラッパ。酒なら何でも飲み干すクマさんにとってはこういう光景は天国の光景に等しい。カモミールのグラッパを選び、カモミールのお茶よりも少し深い色合いを楽しみつつ、わがままを言って2杯飲み干した。

 
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 激しくなった雨の中を、傘をさし、少しだけ千鳥足で帰る。Casa Vecchiaで旨い料理を堪能した後の帰り道で必ず実感するのが、代々木上原の街のしっとりとした味わいである。3~4年前にちょっとした代々木上原ブームがあって、新しい店がたくさん開店したり、街のあちこちにわざわざ遠くからやってきた若者たちの長いの行列ができたりした。いまはもうブームは収まって、もとの落ち着いたしっとりした街に戻ったように思う。そのことを残念に思う人もいるかもしれないが、この街は、このしっとりとした感じがいいのだ。

 
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 帰宅21時半。ナデシコさま「おや、つきのわさん。またお酒ですか。代わりに私が勉強してましたが、本の執筆の方は、私には代わってあげられませんよ。もう少しまじめに取り組んだらいかがですか」とのこと。ニャゴロワさま「なまけるのはいいものですね。もうねちゃったら? 私も、ねようと考えてたところだし」「でもね、ブログに5月14日のトリノ旅行について書かなきゃいけないんだ」「ほお、ずいぶんまじめになりましたね。明日にしなさい、明日に。つきのわさんが起きてると、うるさくて迷惑なんだ。寝ちゃお、寝ちゃお。トリノのことは、今日は写真でごまかしちゃえば?」

 

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 というわけで、もう寝ることにした。トリノの王宮前広場に1ヶ月半前の私は置き去りにされることになる(写真はトリノのDuomo)が、ワインとグラッパとニャゴロワの怠惰な意見がいけないのだ。批判的に睨んでいるナデシコのまじめな視線は、見なかったことにすればいい。第一、外は雨。雨の夜は、眠るに限る。トリノのことは、また明日にする。

 

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1E(Cd) Alban Berg:BRAHMS/KLARINETTENQUINTETT & STREICHQUINTETT
2E(Cd) Backhaus(p) Böhm & Vienna:BRAHMS/PIANO CONCERTO No.2
3E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/EIN DEUTSCHES REQUIEM 1/2
4E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/EIN DEUTSCHES REQUIEM 2/2
5E(Cd) Jennifer Lopez:J TO THA L-O! THE REMIXES
6E(Cd) Joe Sample:RAINBOW SEEKER
9D(DvMv) FIGHT CLUB
14G(α) 塩野七生:ローマ人の物語17 悪名高き皇帝たち(一):新潮文庫
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