Thu 080626 とんとことん 京王線 ブレーシャへ | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 080626 とんとことん 京王線 ブレーシャへ

 最高気温が19℃だなどと、6月も下旬というのに非常識なことを言っている。外に出てみると確かにその通りで、雨が降るような降らないようなウジウジした中途半端な様子である。午後から東進・吉祥寺1号館で授業収録90分×2本。天気とは正反対のまさに絶好調で「高1用特別招待講習」の収録を終えた。高校1年なら誰でも無料で90分授業が5回受講できるという、いかにも塾にありがちな企画ものだが、他と明らかに違うのは内容の濃さである。仮定法・関係詞・前置詞・整序英作文・長文読解。うにゃ。それと講師の質の高さである。うにゃにゃ。もともと好調な私が、今回は特に絶好調だった。もともと東進はあまり宣伝をしないけれども、今回のこの企画については是非とも大いに宣伝してほしいと思っている。


 夕方から六本木に出る。まず、豚肉料理「とんとことん」。昨年夏から何度も足を運んだ店である。別に豚肉料理が好きだとか、ここの料理が旨いとか、店の雰囲気がいいとか、そういう積極的な理由があるわけではない。他が満員で入れなかったりしたときに「ここならまず確実に空いている」というところがいいのだ。何も無理して1番手にこだわることはない。常に2番手3番手につけていれば、しっかり客は来るし、経営も安定するだろう。今日は予定していた寿司屋に入れず、まあ仕方なしにこの店にすることにした。


 料理と酒について言えば「3番手役もやむなし」という感じか。最初に「豚肉」と決めてしまったところに無理があって、味に変化が少ないのである。どの料理も豚の脂が目立ちすぎてしまう。「アブラのあまみが絶妙」とか、オシャレなことを言っていられるのも最初のうちで、1時間も座っていればアブラのあまみが胃にもたれる。揚げ物が多すぎるということもあるかもしれない。ワゴンで運ばれてきてテーブルの横で切り分けてくれる「豚の自家製ハム」は、最初見たときは嬉しかったが、量が多すぎてこれだけで腹が膨れてしまう。大学生になりたてじゃあるまいし「ハム食って満腹」はいただけない。日本酒をいちいちワイングラスで出すのも、あまりいい趣味ではないかもしれない。


 店に18時に着いたせいで、1番乗りになった。席はいくらでも空いているのに、何故かカウンターの角の席に通された。「他は全て予約で埋まっている」とのこと、たいへんおめでたい。ナジミになった店長や店員がだいぶ入れ替わってしまったようで、私のことを記憶していない。1時間ほどいて店を出たが、それまでに訪れた客は3組ほど。10席あるカウンターも最後まで空っぽだった。本当に「予約で満席」なのか、ちょっと意地をはっただけのか、よくは分からないが、まあ六本木の夜はもう少し遅いのだということにしておけばよい。


 飲み足らず、食べ足らず、行きたかった寿司屋にも電話がつながらず、仕方がないので初めての寿司屋に入ることにした。「とんとことん」の入っているビルの1階に「大寿司」を発見。店構えもそれなりに立派だったから、少し高そうとは思ったが、思い切って入ってみた。職人をぐるっと取り囲む形で、カウンターのみ、16席。悪くない。寿司も旨かったし、ムツの西京焼は、いままで食べた全ての西京焼の中でもトップクラスというぐらい旨かった。ただ、職人が1人しかいないのが、さすがにつらそうである。寿司を1貫頼んで、出てくるまでに10分も経過するようだと、酒もすすんで(ここまでで日本酒5合ほど飲んだ)どうでもよくなっている私なんか「これ頼みましたっけ」ということになってしまう。女将に聞いてみたら、職人が1人やめてしまったのだと言う。思わずオペラ寿司の元店長を紹介してあげたくなったほどだった。
 

 客層は、まずまずというところか。私の正面に「いかにも六本木」という感じの30代半ばの男子3人組。斜向いが60過ぎのオジさん2人。みんなおとなしめで、いやらしく職人と話し込んだりしないのがなかなか気に入った。私の左隣には60歳手前と思われるスーツ姿の男性と、「わけあり」というか、いろいろあったらしいし、これからもいろいろありそうな中年のオバさま。おふたりとも海外勤務が長いらしく、「リトルイタリー」「トライベッカ」「ノーホー」「ソーホー」などニューヨーク・ダウンタウンに関わる固有名詞が会話から次々にこぼれでる。話はオランダに移り、アムステルダムを「アムス」ロッテルダムを「ロッテ」と呼び、「一番イモっぽいオススメの芋焼酎」を質問し、「このネタの他の食べ方はないのか」と聞き、男性の方がだんだん面倒な客に変身していく。焼酎の酔いが回るに連れて、ということだろう。その変化の様子を大いに楽しみつつ、ただでさえ忙しい寿司職人に、男性がお構いなしにしつこく話しかけるのが、何だかいやらしいなと感じ始めたところで店を出た。

 

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 帰ると、ネコたちがいつものようにだらけている。ニャゴロワさまは「おや、つきのわさん。今日もおさかなくさいですねえ。ほお、生のおさかなですか。そうですか」と言ってつまらなそうに目を上げた。ナデシコさまは、完全にお疲れのご様子。「今日はオモチャはないでしょうね。ああいう余計なものを買ってこられると、疲れちゃっていけません」と長く長く身体をのばしてみせた。

 

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 5月13日昼、ミラノチェントラーレからヴェローナ行きの各駅停車に乗る。目的地はブレーシャ。昨年ヴェネツィアからミラノに戻るICがヴェローナの次に停車したのがこの駅。ブレーシャの名前は知らなかったが、電車の窓からみた街の雰囲気がとてもよかったので、いつか行ってみようと思っていた。一昨日も書いたが、目的はロッジア。1500年代に建てられた、旧市役所の建物である。何故こんなカップケーキのようなものを建てたのか、見当もつかないが、私が気にいったのは窓。この窓の「どうだい、カッコいいだろ」と言っているような威張った様子が、塀の上からこっちを見下ろしているネコの気持ちと同じ感じで、いかにも可愛らしいのである。

 

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 ところが、ミラノチェントラーレから1駅目のMilano Lambrateを発車した瞬間に電車が急停車。ドアに人を挟んだか、電車くんが蹴つまずいて足をひねったか、急停車の原因はさっぱり分からない。車内放送など一切ないのである。ほぼ満員なのに、静まり返る車内。だれも語らず、だれも笑わず、だれも動かない。静寂の中を、ヘッドフォンから漏れる音楽のシャカシャカ音と、携帯電話で盛んに連絡をとる声が満たすばかりである。10分経過、15分経過、電車は固まったまま、車内もますます固まったまま。携帯でしゃべる人さえいなくなった。


 30分ほどして、またも何の前触れもなく、一切の説明も放送も謝罪もなしに電車は動き始めた。しかも、何にも言わずに30分も遅れたくせに、検札だけはしっかり回ってくる。遅れようが放送がなかろうが、彼らの仕事は検札であって、不正乗車がいれば意地でも罰金を徴収するし、緊急停車や遅れについて苦情を言われたら、大きく肩を竦めてみせればいい。実際、彼らには何の関係のないことなのだ。彼らの仕事は検札と罰金の徴収であって、定時運行や車内放送についての苦情は、その責任をもつ別の人に言ってもらわなければ困る。まあ、そういうことだ。


 少しひどすぎるような気もするが、そういうことならそういうことなのであって、やむを得ないものはやむを得ない。他の客はすっかり慣れたもので、苦情を言う者もいないし、ため息をついてみせる者もいない。クルマは走ればいいし、電車は最終的に動けばそれでいい。「何の説明もなし、車内放送での謝罪もなし」なのは、そんなことをしても事態は改善しないし、おざなりの謝罪なんかで幸せになる人は誰もいないからなのだ。


 そもそも日本の鉄道のほうが、車内放送がうるさすぎるのだ。毎日乗っているからかもしれないが、京王線と東京メトロは特にひどい気がする。駅と駅の間、のべつまくなしに放送しまくっている。車掌はマイクを構えて、ほとんどカラオケ状態。明らかに自分の声に酔ってしまっているようなのもある。私は電車の中で本を読みたい。神経質なので、周囲がうるさいと読書が出来ない。ぜひ、ぜひ、車内放送を減らして、もっと静かな環境を作ってほしい。何度も何度も鉄道会社にお願いしたが、例外なく変人扱いされてそれで終わりである。


 たとえば京王線の急行に乗って、新宿を出ると、まず「おまたせいたしました、この電車は急行橋本行きです」と、電車の自己紹介から始まる。大学生の合コンじゃないんだから自己紹介なんかいらないし、定刻に発車しているのだから「おまたせ」などしていない。この「おまたせしました」あたりに、放送する者のカラオケ意識というか、演歌歌手意識がすでに垣間見えている。


 放送は続いて、終点・橋本までの停車駅をすべて紹介し、逆に停車しない駅もすべて紹介し、だからどの駅で各駅停車に乗り換えるべきか、どの駅で特急に抜かれるからどこで特急に乗り換えたらいいかの紹介がある。携帯電話を使ってはならないし、タバコを吸ってはならないし、ヘッドフォンステレオのボリュームは小さくして使用しなければならないし、駆け込み乗車をしてはならない。その理由もしっかり説明される。「他のお客様のご迷惑になる」からだ、というのである。「駆け込み乗車」についてはもっとずっと詳しい。「思わぬ事故につながるばかりでなく、急停車などの遅れの原因となり、他のお客様のご迷惑になるから」してはならない。うーん、これではグーの音も出ない。
 

 その詳しい説明を聞いているうちに、電車は最初の停車駅・笹塚に接近。「どちらのドアが開くか」「ドア付近の客は気をつけなければならない」「各駅停車はホーム反対側の高尾山口行きに乗り換え」「ドアが開く際には開くドアに手を挟まれないように注意」などのほか、別の駅では「雨でホームが滑りやすいから注意」「エレベーター工事中でホームが狭くなっているからそれも注意」などというのも入る。もちろん理由説明も怠らない。「あぶないですから」というのである。後頭部を激しく殴られたような衝撃が走る。おお、おお、してはならないのは「あぶないですから」なのだ。おお。感動しているうちに、やがて電車はスピードを下げ始め「ご乗車、ありがとうございました」。ほとんど演歌歌手が最後に唇をふるわせながらする深々としたお辞儀と同じことである。それでも終わらない。「お待たせいたしました、笹塚、笹塚に到着です」が残っている。しかもそれがフェードアウトなのだ。ささづか…ささ…づか…で…す。これは余程感動して、涙を浮かべ立ち上がって拍手喝采でもしなければならない場面なのかもしれない。


 その意味では「JR湘南新宿ライン」の放送も、なかなかスミにおけないが、これについては今日は書かずにおく。夜も更けたし、今日の分もずいぶん長くなった。このままでは、私の乗ったヴェローナ行き各駅停車は、いつまでもMilano Lambrateから動けない。実際には電車はもう動き出して、ポピーの真っ赤な花が咲き乱れる見渡す限りの小麦畑の中をブレーシャに向かっている。明日こそ、電車をブレーシャに到着させなければならない。実際、ブレーシャには、ロッジア以外にもいろいろ見るべきものがあったのだ。少し先を急いでもいいだろう。

 

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1E(Cd) Maria del Mar Bonet:CAVALL DE FOC
2E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 1/11
3E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 2/11
4E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 3/11
5E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 4/11
6E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 5/11
7E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 6/11
8E(Cd) COMPLETE MOZART/DIVERTIMENTI・SERENADES 7/11
11D(DvMv) THE MUMMY
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