Sun 080615 マントヴァ「パラッツォ・ドゥカーレ」 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Sun 080615 マントヴァ「パラッツォ・ドゥカーレ」

 午後3時から、横浜で講演会。明治神宮前の駅から昨日開通したばかりの副都心線に乗り、渋谷から東横線の特急で横浜まで。ちょうど1時間ほどで着いた。講演会開始時刻を1時間間違ってしまい、講師控え室で2時間まるまる待たなければならないはめになったが、講演会は大成功。横浜東口・崎陽軒ビルの8階が会場で、対象は生徒の父兄。会場は完全に満席になった。横浜・藤沢地区ばかりでなく、渋谷・石神井・稲毛などからも参加者があった。校舎スタッフにおおいに感謝する。


 講演会終了17時。暑い一日で、昼間の移動で大汗をかいたものだから、どうしても、意地でも、何が何でもビールを浴びるほど飲みたくなり、新宿の京王デパートへ。デパートの屋上で、鶏唐揚げ・ポテトフライ・タコ・チャーハン・揚げたチーズなど、チープさではいずれ劣らぬ油っぽい奴らを大量に並べ、おそらくは昨日の客がこぼしたビールのせいでベトベト粘るアルミのテーブルにビール・黒ビール・日本酒も並べて、この上ない幸せに浸る。


 周りの客も、少なくとも無駄にお金をたくさん持っている高級そうな客は皆無であって、間違ってピッチャーで注文してしまった、気の抜けた生温い大量のビールを嫌々ながら飲み干している。明らかに健康に悪い、油でギトギトの食べ物の助けを借りて飲み干すビールが、いかにもまずそうである。それでも何故かみんなそろって赤い顔を見合わせて笑い、大声で語り合い、よせばいいのに安い食べ物をもっともっと注文して、また後悔する。それがまたいいのだ。1年に一度は、こういう場所でこういう幸せを味わうのも悪いことではない。
 

 日が暮れると、風が出て、外でビールを飲み続けるには少し寒くなったが、まあ何だかこの上なく豊かな気分であり、講演会もうまくいったし、たいへんおめでたい。帰ると、ニャゴロワはテレビの前で熟睡中。

 

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 5月11日、マントヴァの火事騒ぎが収まったのが午後3時過ぎ。湖畔を離れて、パラッツォ・デュカーレにはいる。フェラーラから嫁いできたイザベラ・デステが、夫のフランチェスコ・ゴンザーガとともにたくさんの芸術家を招いて花やかに芸術サロンを主宰した宮殿、ということになっている。外観は、ごく地味、ごく平凡。入場料8ユーロを支払って中に入ってみる価値があるかどうか、外観を見ただけではちょっと迷うところである。

 

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 ところが、宮殿内部は、まず驚嘆に値する広さである。次から次へと現れる部屋は、いったいどこまで続くのか、果てることがない。その一つ一つの部屋の装飾が、ほとんどすべて一級の芸術品ばかりである。どれも皆、日本の美術館で展示すれば、その美術展の目玉になり、その前に黒山の人だかりができること請け合いの絵画と彫刻。歩いても歩いても次々に現れる部屋の片隅に、どこまでも続く回廊の一郭に、庭園の噴水の脇に、舞踏会場の天井に、寝室の壁画に、完全にさりげなく配置されている。


 ルーブルとかウフィッツィとかシスティーナならば、こんなに驚くことはないのだ。どこまで世界遺産級の名画が並べられていようと、天才の彫刻が果てしなく林立していようと、そういうことなら、まあそういうことだろうと納得がいく。当たり前なら、当たり前だろう。
 

 しかし、話がマントヴァとかフェラーラになると、そう簡単に納得がいくものではない。ルネサンス期に都市国家としてちょっとだけ花開いたかもしれないが、要するに規模の小さな地方都市にすぎない。ミラノ・フィレンツェ・ヴェネツィアに挟まれて、常に存亡の危機にあった地方の中小都市であり、ましてや植民地経営で搾取した富が溢れていた帝国ではないのだ。それなのに、なぜこれほど豊かなのか。イタリアを旅していて、ESはおろかICさえ停車しない小都市の豊かさに驚かされることが多いが、マントヴァはその最たるものかもしれない。
 

 もちろん、領主による領民搾取の歴史があれば、この豊かさに説明がつかないことはない。そういう歴史があったのかもしれない。しかし最近私は、むしろこの豊かさはイタリアの人々の勤勉さの印ではないのかと考えるようになった。朝の電車で車掌の勤勉さ・熱心さを見直した。クレモナの博物館では、おそらくドイツ人やスイス人も顔負けの、職人たちの執念深い作業ぶりを見た。それよりも何よりも、イタリアの農業の充実には目を見張る。北イタリアばかりでなく、ローマからナポリに向かう電車からも、古代からの穀倉地帯・シチリア上空を飛ぶ飛行機からも、プーリア州を走る私鉄の車窓からも、豊かに実った小麦の畑がどこまでも続く美しい情景を目にするのである。
 

 気候に恵まれ、土地の豊かさに恵まれ、歴史に恵まれた、偶然の側面はもちろん無視できないにしても、「底抜けに陽気で人なつこい」「仕事より人生を楽しむことを優先する」といった、イタリア人についての我々の固定観念と枕詞を、訂正する必要があるように思う。少なくともイタリアの中小都市の多くは、強大な多くの敵国による侵略と圧迫の連続に対して、領主・領民が協力し合いながら真剣に麦を作り、誠実に技術を探求し、豊かに生き延びてきたのである。ただし、そういう難しいことを言って聞かせても、ニャゴロワは聞いてくれない。ただ熟睡するばかりである。

 

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1E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.1
2E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.2
3E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.3
4E(Cd) Solti & Chicago:BRAHMS/SYMPHONY No.4
5E(Cd) Menuhin:BRAHMS/SEXTET FOR STRINGS No.1 & No.2
6E(Cd) Baumann:MOZART/THE 4 HORN CONCERTOS
7E(Cd) Solti & Wiener:MOZART/GROßE MESSE
10D(DvMv) DEAD POETS SOCIETY
total m127 y127 d127