Thu 080612 クレモナの塔に登る | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Thu 080612 クレモナの塔に登る

 疲労がたまっているらしく、夜の時間帯に予定している参考書執筆がなかなか進まない。生活時間帯も昼夜逆転して、朝5時まで頑張ったあげく、本日の起床は8時半。ちょうど眠っていたその3時間半のうちに東京各地で豪雨があって、小田急・京王などで午前中少しダイヤの乱れがあったのだという。早朝からちょっと強めの雨が降っているのには気づいていたが、豪雨のことは全く記憶にない。
 

 これではまるで一昔前の大学学部生の日々である。昼と夜が少しずつ少しずつ、ずれて逆転して、最後にクルリと1回転して元に戻りそうな勢い。幸い明日は1日休みだから、ちょっと遠くまで遊びに出て、それをきっかけにして正常なスケジュールにクルリと戻りたいと思う。
 

 午後1時から5時まで、吉祥寺で授業収録2本。「B組」夏期講習の第1講と第2講である。出来は最高で、授業についてはこのところ絶好調。この夏期講習はおそらくこの10年で最高のものになりそうである。いろいろ不毛な議論をせずに、長文を素直に読むことに集中。ごく真面目に1つ1つを丹念に解説。1996年までの駿台時代に戻って、ひたすら読解の基礎をじっくり語る手法が、やはり私には一番いいようである。2008年版の夏期講習は、出来るだけ多くの生徒に受講してほしい、と心から言える私の代表作になりそうだ。
 

 帰宅6時。1日気温は上がらず、最高気温22℃程度だったという。日の入り19時。さすがに夏至が近いのだ。夕暮れからぐっと空気が冷え込んで、窓を開けると寒いぐらいになった。ニャゴロワが待っていて、「あなた、なまけちゃダメですよ、参考書は進んでますか?」と言いながらじっと顔を睨んでくる。いいだろ、ちょっとぐらい酒飲んでも、授業は最高にうまくいってんだから、と答えて、よく冷えた日本酒(一の蔵)4合をあっという間に空にする。

 

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 5月11日、クレモナのミサが一通り終了したのが10時半ごろ。一息ついてからDuomoを出て、さんざん迷ったあげく、塔に登ることにする。
 

 もともと塔は、下から仰ぎ見て、その偉容にため息をつくべきものであって、いちいちわざわざてっぺんまで上がってキャーキャー騒ぐべきものではない。登ってしまえば、高層ビルからの眺望になれた我々にしてみれば、塔からの眺望は平凡なものだ。小学校や中学校時代の恩師との関係のようなものである。恩師とは、常に当時の気持ちに戻って、子供の目・少年の気持ちで振り仰ぐからこそ尊い存在で居続けるのであって、大人になった今の自分の基準から見下ろしてはならないのだ。
 

 だから、私は塔には登らない主義である。イタリアの中世・ルネサンス期に数えきれないほど建てられた塔は、すべて下から振り仰いで、讃嘆の対象にすべきもの。ピサの斜塔にも、ボローニャのガリゼンタ・アジネッリの塔にも登らなかった。シエナのマンジャの塔も、その前のホタテ貝の形の広場から眺めただけだった。
 

 それよりも、塔から離れたり、近づいたり、真下から振り仰いだり、いろいろ角度を変えて眺めながら、この塔の下で静かに流れていった500年の歳月のことを思うのがいい。その歳月を生きた人々の生活のこと、彼らの人生を満たしたさまざまな幸福・不幸・不満・涙・裏切り・嘘と真実のこと、彼らの心を占めたおびただしい感情のこと、塔が見守ってきた街の喧噪、夜の静寂、その静寂の中の囁きや祈りや罪、そういうことに思いを巡らせていれば、時はあっという間に流れるのである。

 

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 しかし、クレモナのこの塔には登ろうと思った。まあ、そんなに気難しいことばかり言っていなくても、という思いもあったし、日曜日の昼近く、街のあちらこちらから、教会の鐘の音が余りにも鮮やかに花やかに響き始めて、このいろいろな鐘の音の錯綜を、街で1番高い塔の上から聞いてみるのも悪くないと考えたのである。街で1番であるばかりではない。ガイドブックによればヨーロッパで1番高いことになっている。実際、登り始めてみると、狭い階段はどこまでもどこまでも続き、上に登るにつれて階段は狭くなり、息は切れ汗は流れて、これがもし7月や8月の暑い時期なら、確実に途中から引き返していただろう。
 

 15分ほどの苦闘の後、教会の巨大な鐘を間近に見ながら、塔の頂上に到着。クレモナの街、北イタリア独特の赤い屋根がどこまでも広がるクレモナ、クレモナ郊外の緑の麦畑、春の潤んだ風の向こうに微かに浮かぶ山々。塔に登ってよかったと思ったのは、ヴェネツィアのサンマルコ広場以来である。強い風が吹き荒れていたけれども、それでも眼下の街では花やかな鐘の響きが入り乱れて塔の上まで届き、鐘の音は赤い屋根の連なりに溶け合って、音を色彩に変えた水彩画の趣だった。

 

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1E(Cd) Festival International de Sofia:PROKOFIEV/IVAN LE TERRIBLE
2E(Cd) Schüchter:ROSSINI/DER BARBIER VON SEVILLA
3E(Cd) Cohen:L’HOMME ARMÉ
4E(Cd) Vellard:DUFAY/MISSA ECCE ANCILLA DOMINI
5E(Cd) Philip Cave:PHILIPPE ROGIER/MAGNIFICAT
6E(Cd) Savall:ALFONS V EL MAGNÀNIM/
EL CANCIONERO DE MONTECASSINO①
7E(Cd) Savall:ALFONS V EL MAGNÀNIM/
EL CANCIONERO DE MONTECASSINO②
10D(DvMv) THE DAVINCI CODE
13F(Rr) 世界美術大全集19 新古典主義と革命期美術:小学館
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