Wed 080611 東北沢の床屋 クレモナへの旅 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 080611 東北沢の床屋 クレモナへの旅

 昨夜から今朝にかけて、少し無理をしすぎて疲労が蓄積。本日はゆっくり休むことに決めて、外出は床屋に行くだけにとどめた。何しろ最後に床屋に行ったのはゴールデンウィークの直前だったから、髪はもじゃもじゃに伸びてしまい(約2cmか)、ヒゲも長くなり過ぎてスープを飲むたびに邪魔になるほどである。
 

 いつも入る東北沢の床屋に珍しく他の客がいて、他の店を探さなくてはいけなくなった。下北沢まで歩く覚悟で駅前を右に曲がると、駅前の雑居ビルの中に「HAMAMURA」という床屋を発見。入ってみることに決める。
 

 だいたい、床屋なんかは地味で何にも取り柄がない方がいいのだ。インテリアは新しくもなく古式ゆかしくもなく、かかっているラジオもTBSかニッポン放送の昼番組で、あまり流行らない落語家か何かが千葉か埼玉のスーパーの特設会場から中継でオバサマズをいじりまくっているようなのがいい。もともと6mmの丸刈りにするだけなのだから、気軽なのがいいのだ。
 

 今日入った「HAMAMURA」は残念ながらそういう期待通りの店ではなくて、南側に大きく窓をとった明るい店内に、きれいな椅子が5~6脚も並んでいる新しい感じの作り。山形の尾花沢出身だというオバサマの床屋さんに、その弟子らしい20代後半のおねえさま3人ほどが助手でついていた。オバサマとの話もそれなりにはずんで、1時間ほど。バリカンの充電が不十分で、何度か髪を引っぱられたのは痛かったけれども、久しぶりに楽しい床屋体験だった。しばらくはこの床屋に通うことになりそうである。
 

 気温が上がって、27℃ほど。床屋から帰ると、ネコたちは熟睡中。私も昨夜の徹夜のせいで余りにも疲れていたから、参考書の執筆はあきらめて寝ることにした。

 

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 写真は、クレモナのDuomo。5月11日は朝7時に起きて、ミラノ・チェントラーレ駅からクレモナに向かう。日曜日朝の各駅停車はすいていて、一車両に3~4人の客が眠そうに新聞を開いているだけである。すいていると返って危険な感じがあるが、イタリア国鉄の車内はまあ安全で、駅構内はともかく、車内で事件を目撃したことは一度もない。確かに、車両の落書きは、処置なしである。唖然とするほど丹念に、窓から外も見えないほどてんこもりに描かれている。このしつこさは賞賛に値するぐらいで、下北沢の落書きの比ではない。この丹念さを何か別のことに向けたら、どんなに素晴らしい花を咲かせるか分からない、というぐらいである。しかし電車内は逆に意外なほどきれいで、ゴミも落ちていないし、椅子もゴミ入れも壊されていない。便座がはずれていることを除けば、トイレもきちんと機能している。
 

 イタリア人は、言われているほどいい加減な国民ではないのである。「陽気で人なつこい」というのがイタリア人についての決まり文句で、ほとんど枕詞のようになっているが、これは正確とは思えない。都会でも田舎でも「陽気で人なつこいイタリア人」などというものには、めったに遭遇しない。彼らの多くは、まじめで、愛想が悪くて、何事にも真剣に取り組む人々である。
 

 だから、どんなに眠い日曜の朝でも、国鉄の車掌はキチンと検札にやってくる。挨拶し、切符を確かめ、不器用に礼を述べ、不正乗車の客が見つかればどこまでも真剣に罰金を徴収し、罰金を払おうとしない客がいれば10分でも20分でも説得して、なぜ罰金を払わなければならないかを微に入り細をうがって説明し、客はまた客でその説得に真剣に耳を傾け、まじめに議論し、もし納得すれば納得して笑顔でその高額な罰金を支払い、最後には罰金を払わせた車掌と罰金を支払った客が握手し、互いに讃え合い、挨拶して別れる。
 

 だから、例えば警察官を呼んできて、あとはその警察官に丸投げしてしまうようなことは、彼らはしない。国鉄車内は自分たちの守備範囲であって、だから守備範囲の管理運営にはベストを尽くそうとする。だからこそ、守備範囲外のことには口も顔も手も出さない。他者の守備範囲に出しゃばることをプラス評価しないのかもしれない。そこだけ見て「イタリア人はいい加減だ、陽気で、わがままで、やるきがなくて、底抜けに明るい」という枕詞にしてしまうのは、観察も考察も足りないのである。
 

 車窓から見る田園風景も、イタリア人の勤勉さを象徴するものである。ミラノから東は小麦畑、ミラノから西にトリノ方面に向かうと意外なことに米作地帯らしく水田が広がっているが、そのどちらも実に整然と作付けが出来ていて、日本の田園に負けず劣らずの見事さである。むしろ、日本の方が、休耕田が荒れ地になり、水田の真ん中にホームセンターやパチンコ店やその巨大駐車場が散在して、見苦しいように思う。
 

 まあそんなことを考えているうちに1時間ほどでクレモナ着。ストラディバリウスで有名な街だが、日曜の朝だけあって閑散としている。駅から中心部まで徒歩で10分ほど、出会う人もなければ、開いている店もほとんどない。教会の鐘が盛んになるのが聞こえ、教会に入ってみると、お年寄りも子供たちもその両親たちも、みんなミサに集まって、神父さまのお話を聞き、共に祈り、聖歌を歌い、握手し、静かに涙し、ミサが終わると、この上なく清々しい笑顔を浮かべながら優しく囁き合い、遠いアジアの果てからジャマしにやってきた観光客にそっと視線を投げ、微笑し、苦笑し、やがて家族で手をつないで、ゆっくりと家路につく。そのたくさんの穏やかな背中を見送りながら、何だか申し訳ない気持ちになった。

1E(Cd) Nevel & Huelgas Ensemble:Canções, Vilancicos e Motetes Portugueses
2E(Cd) Sequentia:AQUITANIA
3E(Cd) SPANISH MUSIC FROM THE 16th CENTURY
4E(Cd) The Scholars baroque Ensemble:PURCELL/THE FAIRY QUEEN 1/2
5E(Cd) The Scholars baroque Ensemble:PURCELL/THE FAIRY QUEEN 2/2
6E(Cd) Corboz & Lausanne:MONTEVERDI/ORFEO 1/2
7E(Cd) Corboz & Lausanne:MONTEVERDI/ORFEO 2/2
total m82 y82 d82