体外受精保険適応1年となり、徐々に保険のシステムに慣れてきた印象です。

 

一方不妊治療は日進月歩の分野ですので、新たな技術については当院でもできるだけ導入していきたいと常に考えています。

 

 

今回ご紹介するのは、当院で新しく導入が開始となった「タイムラプス培養」についてです。

 

 

 

<タイムラプス培養とは?>

 

iPhoneなどスマートホンのカメラ機能に「タイムラプス」というものがあり、これは一定間隔で自動に写真撮影ができる機能です。

ですから皆さんの中でも、タイムラプスという言葉に馴染みがある方もいらっしゃるかもしれません。

 

 

体外受精では一般的な培養器に対して、胚を培養器に内蔵されたカメラで一定の時間間隔で撮影して観察が可能な培養器で培養することを「タイムラプス培養」と言います。

 

 

この培養器は一定間隔で胚の撮影可能という点と、胚を培養器から取り出さずに培養や観察が可能という特長があります。

一般培養ですと、受精や胚盤胞に至ったかの確認など一度培養器から取り出すため、外の環境に胚を曝露することになりますが、タイムラプス培養ではこのような胚へのストレスをかけないで培養が可能となります。

 

 

 

<タイムラプス培養のメリットは?>

 

 

タイムラプス培養のメリットは大きく分けて以下の2つがあります。

 

①胚の観察が培養器から取り出さずに可能→安定した胚の培養環境が得られる

 

②胚を継続的にモニター可能→胚の優劣などの評価が詳細に可能(AI=人工知能による胚のスコア化など)

 

 

生殖医療ガイドライン1)でもタイムラプス培養は

 

・胚発育を継続的にモニターすることで多くの形態学的な胚の情報を取得できる(推奨度B)

 

・タイムラプスインキュベーターによる胚の培養環境の改善と多くの形態学的な胚の情報に基づく高品質の胚の選択の双方により、体外受精による妊娠率、出生率が改善する(推奨度C)

 

と記載されており、学会でもそれぞれの推奨度でお勧めしている培養方法となります。

 

 

以下①②に分けてそのメリットについて詳しく説明させていただきます。

 

 

 

<メリットその①:胚に優しい環境で培養が可能>

 

先に書かせていただいたように、胚を培養器外で観察しないため、胚にストレスをかけない=胚に優しい環境での培養が可能になります。

 

この結果タイムラプス培養が妊娠率などの成績向上につながったという報告は多くあり、

 

・2420個の卵子についてタイムラプス一般培養で比較したところ、胚盤胞到達率(51.0% vs 46.6%)および継続妊娠率(41.4% vs34.4%)とタイムラプス培養で有意に高かった2)

 

・35歳以下、36~39歳、40歳以上の431症例で一般培養と比較したところ、8分割到達率、胚盤胞到達率、着床率ともタイムラプス培養が有意に高かった3)

 

 

・胚盤胞培養した689周期について採卵時成熟卵子の胚盤胞到達率をタイムラプス群と一般培養群で比較したところ、IVF胚(ふりかけ法)で71.7 vs 62.9%、ICSI胚
(顕微授精)で68.6 vs 61.8%の結果であり、媒精法によらずタイムラプス群で良好な成績が得られた4)

 

 

 

 

<メリットその②:胚の評価を細かくできる>

 

 

一般培養は受精確認、培養液の交換、胚凍結などの限られたポイントでしか胚の観察が出来ませんが、タイムラプスでは胚の発育を継続的にモニターできます。

 

このため多くの胚の情報を得ることが出来て、妊娠率が向上する高品質な胚を選択できる可能性があります。その一つとして、人工知能(artificial intelligence:AI)を用いて胚盤胞をスコア化して評価するシステムが開発されています5)。

 

この胚盤胞評価システムの一つにiDAScoreがあります(アイダスコアと読みます)。

 

今回当院で導入したビトロライフ社のEmbryoScopeという製品では、高品質の受精卵を自動判定してスコア化してくれるシステムがあり、このシステムをiDAScoreといいます。スコアは1.0~9.9までありスコアが高い胚の方が妊娠率が高いとされています。

 

このスコアの有効性について、従来の肉眼的な観察での評価(=Gardner分類、例えば胚盤胞:4ABといった評価)との比較をした報告があります。

 

iDAScoreとGardner分類での評価と妊娠率との相関を35歳未満~43歳以上で年齢別に検討したところい全年齢層でiDAScoreの方がより高い相関があり、35歳未満では有意に高かった(AUC 0.716 vs 0.640) 6)

 

こういった報告からは今までの肉眼的な胚の評価に併用してiDAScoreを用いることで、より妊娠率が高い胚を優先的に選択できる可能性が高まることが分かります。

 

 

 

<タイムラプスの今後の評価について>

 

これまで書かせていただいた通り、タイムラプスが妊娠率の向上につながる可能性がありますが、新しい技術ですので今後更なる評価が必要でもあります。

 

生殖医療ガイドラインでは

「タイムラプス観察で確認される胚の挙動と、胚の質に関しての基本知見は今後集積され解析される必要がある」1)としていますし、他の文献でも

 

「今後のデータの蓄積によりタイムラプスを用いた周産期予後等を含めたエビデンスを検証しつつ,着床前胚染色体異数性検査(PGT-A))やほかのバイオマーカーと組み合わせたさらなる技術応用も期待される」5)

 

としており、今後のデータ集積でタイムラプスの更なる評価が必要であると考えられます。

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

タイムラプス培養とは胚を培養器から取り出さずに培養が可能な方法

 

胚に優しい環境で培養が可能でかつ胚の評価を細かくできるというメリットがある

 

タイムラプス培養により妊娠率上昇などの成績向上が期待できる

 

・今後のデータ集積でタイムラプスの更なる評価が必要

 

となります。

 

 

 

当院でも2023年7月よりタイムラプス培養を開始しました。多くの患者様にこの新しい技術を用いた治療をご提供させていただきたいと考えています。

 

※当院のタイムラプス培養は先進医療の認可を得ています。(先進医療名:「タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養」)

 

 

 

1)生殖医療ガイドライン2021 生殖医学会編

2)Satoshi Ueno et al. Closed embryo culture system improved embryological and clinical outcome for single vitrified-warmed blastocyst transfer: A single-center large cohort study.Reproductive Biology Volume 19, Issue 2, June 2019, Pages 139-144

3)Yousef Alhelou et al. Embryo culture conditions are significantly improved during uninterrupted incubation: A randomized controlled trial.Reproductive Biology Volume 18, Issue 1, March 2018, Pages 40-45

4)越智梓 他 タイムラプスインキュベータ (TL) の使用による培養環境の安定化は胚の発育を改善する Journal of Mammalian Ova Research 39(1): S58-S58, 2022.

5) 竹島和美 他 胚培養・タイムラプス 産科と婦人科 90(4): 395-400, 2023.

6) Satoshi Ueno et al. Pregnancy prediction performance of an annotation-free embryo scoring system on the basis of deep learning after single vitrified-warmed blastocyst transfer: a single-center large cohort retrospective study.Fertil Steril. 2021 Oct;116(4):1172-1180. doi: 10.1016