久しぶりの更新となります。

 

季節の変わり目ですが、皆さまお変わりありませんでしょうか?

 

 

ネットニュース等で目にされた方もいらっしゃるかと思いますが、2023年4月4日にWHO(世界保健機構)が不妊症に関して「不妊症は世界的な問題だ」という報告を発表しました。

 

 

今回この研究報告について少し詳しく解説させていただきます。

 

 

 

 

成人の6人に1人が不妊症

 

 

今回の発表では「全世界的で成人の17.5%

6人に1人が不妊症であり、早急に適切な費用でかつ高い質の不妊治療が求められている1)」としています。

 

日本における不妊症の頻度は、挙児を希望するカップルの10~15%が不妊であり、健康な夫婦の1割以上が不妊に悩んでいると考えられており2)WHOの報告とほぼ同様のデータになっています。

 

ちなみにこの発表では不妊症を「1年間避妊をせず性交渉にて妊娠しない症例」と定義していて、この定義は日本と同じです。

 

 

 

 

所得による差がない

 

 

不妊症の頻度を一人当たり国民総所得(Gross National Income (GNI))で比較したところ、高所得国で17.8%、中・低所得国で16.5%所得による差を認めなかった1)としています。

 

ちなみに一人当たりの国民総所得が $12,745より多い国を高所得国、$1,046から12,745までの国を中所得国、$1,045以下の国を低所得国と定義していて、 日本は2019年の報告で$41,513なので高所得国に分類されます。

 

 

 

不妊症に対する提言1)

 

 

この報告では不妊症に対していくつかの提言をしています。

 

 

まず不妊症が「ストレス、偏見、経済的困窮につながり、精神的な悪影響を与え、心理社会的な幸福を妨げている」としており、不妊症を肉体的だけでなく、精神的また社会的な問題として捉えるべきとしています。

 

 

 

また体外受精についても触れていて「不妊症が重大な問題であるにもかかわらず、不妊の予防、診断、体外受精を含む治療が、国の財源不足、高額な治療費や社会の偏見などの理由で患者さんが手に入れることが難しい現状がある」苦言を呈しています。

 

 

 

日本では2022年4月より体外受精などの保険適応がはじまりましたが、国によるサポートが手薄であることも問題であるとしていて「多くの国では不妊治療は大半が自費(out of pocket=直訳すると自腹)であり、高額な治療は不妊治療の回避や、治療の継続による貧困につながる」としています。

日本でも自費診療されている方もいらっしゃるので一概には言えませんが、昨年よりスタートした日本の不妊治療保険適応化はこのような問題を解消できる可能性があり、保険適応に動いていただいた方や制度をつくっていただいた厚労省の方には感謝すべきと思います。

 

 

 

最後に今後の全世界的なデータ収集の重要性について書いてあり「今回の報告は世界規模の不妊症の割合(有病率)を明らかにする高いエビデンスのある発表だが、一方で多くの国や一部の地域での不妊症に関するデータが不足しており、これらのデータが収集出来れば、不妊症の罹患率やどういった人が不妊治療を必要とするかや、不妊のリスクを下げる方法などについて更に有益な情報が得られる」としています。

 

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

 

2023年4月4日にWHOが不妊症について以下のような報告をした

 

・約6人に1人が不妊症

 

・国別の比較では所得による不妊症の頻度に差はない

 

・不妊症は肉体的だけでなく、精神的かつ社会的な問題

 

・世界的に経済的また社会的偏見などが理由で十分な不妊治療を受けられていない

 

 

 

 

普段は群馬県でひとり一人の患者様の治療に集中していますが、今回の報告を受けて不妊治療は世界的な問題であるという認識を持つ必要があると感じました。また不妊症が社会的な問題であり国レベルでのサポートが必要であることを、時に声を大にして訴えていきたいと思います。(診療中も声を張るように心がけますが。)

 

 

1)1 in 6 people globally affected by infertility: WHO 4 April 2023 News release Geneva, Switzerland 

2)生殖医療の必修知識2017 日本生殖医学会編