不妊治療保険適応が2022年4月にはじまって、約1年となります。

 

 

1年の間に不妊治療を取り巻く環境には色々な変化がありましたが、この間のまとめとして体外受精での治療周期数を中心にどのような変化があったのかを書かせていただきます。

 

 

 

 

保険適応化までの体外受精周期数

 

 

まず最初に保険適応前の2022年年3月までの間体外受精数はどのように変化していたのか確認していきたいと思います、

 

 

現在得られるデータが2020年までのものです。(図1)(出典:日本産科婦人科学会:ART データブック2020)

 

治療周期数は2019年の458,101例がピーク2020年には449,900例と減少しています。出生数も同様に2019年60,598人に対して2020年は60,381人と微減となっています。

 

 

この理由については色々な分析ができると思いますが、1つは2016年から特定不妊治療の助成(体外受精に対する補助金)対象が40歳以上43歳未満は通算3回までといった条件が加わったので、その影響が数年遅れて出てきた可能性があると思います。
 
 
また2016年に40歳となった方は1976年頃の出生となりますが、日本の出生数の推移は第2次ベビーブーム(1971~1974年)以後ずっと減り続けているので、そもそも治療を受ける対象の方自体が減っていることも影響しているかもしれません。
 
 
 
 
保険適応化後の体外受精周期数(予測)
 
 
日本産科婦人科学会が体外受精治療周期数について毎年データを公表していますが、
分娩経過なども集計するため、公表されるのは2年後になります。例えば最新である2020年のデータは2022年の8月に発表されています。
 
したがって2022.4月以後に関して、2022年のデータは2024年に、さらには通年で保険適応となった2023年のデータは2025年に発表されます。
 
最終的にはこの発表を待つこととなりますが、不妊治療の現場では保険適応後の体外受精数の変化をどのように体感しているか、あるアンケート結果を引用させていただきます。
 
 
体外受精65施設を対象に、保険適応後の採卵数、胚移植数、外来患者数の増減等についてアンケートしています。(出典 不妊治療保険適用研究会 アンケート結果 Vol.1)
 
この結果では
 
採卵数は―10~+10%で著変なしが最多で40%、次いで10~30%増えたが33.8%
 
胚移植数は10~30%増えたが43.1%、次いで―10~+10%で著変なしが36.9%
 
外来患者数は―10~+10%で著変なしが最多で49.2%、次いで10~30%増えたが33.8%
 
 
となっておりアンケートからは、治療数は増加傾向であるものの劇的な変化ではないという結果のようです。
 
 
一方で、体外受精を受けられる患者さんの平均年齢は低下している(1~3歳低下したという回答が56.9%)ことや、全体の業務量が増えた(10~30%以上増えた:81.5%)という結果も報告されており、患者さんの年齢層の変化がある一方で、保険適応に伴う業務負担増という問題も起こっています。
 
 
このデータから推測すると、2022年以後の体外受精数も劇的に増加するといったことはなく、周期数ではピークであった2019年と同等の4万5千周期程度、出生数も6万人に程度に落ち着くのではなるのでは?と考えています。(個人の感想です)
 
 
 
 
当院でのデータ
 
 
全国的なデータは先ほど書かせていただきましたが、当院で保険適応前後での治療数がどのように変化したかを検討しました。
 
 
当院は2017年6月に不妊治療部門を立ち上げ、2018年から本格的な体外受精治療を開始いたしました。
年別の採卵、移植周期数は年々増加傾向にあり(図2)、その中での保険適応開始となったという背景があります。
 
 
月別で分析しますと、採卵数(図3)は15%、移植数(図4)は10%程度増加しています。
ただしこれが保険適応だけの影響なのが、先述したように例年の増加傾向の影響なのかは今後の治療周期数の推移を確認していきたいと考えています。
 
 
 
 
保険適応後の課題
 
 
保険適応となり、患者さんの経済的負担が減り、比較的若年の方にも治療の窓口が広くなっているという良い傾向があるのは確かだと思います。
 
一方で課題もあるといわれていて
 
新しい技術が導入しづらい・・・保険適応の範囲で体外受精をおこなう場合、先進医療以外の自費診療を併用ができません。このため、これまで海外の最新の研究成果を積極的に採り入れ,人員・機器・研究などに投資してきた不妊症専門クリニックにとっては多くの制約が加わることとなり、難治性不妊症の治療や研究が滞ることも危惧されています1)。
 
 
年齢制限がある・・・体外受精の場合保険適応となるのが満43歳未満の方が対象となるなどの年齢制限があります。ただしこのような制限は、日本が国民皆保険制度であるという観点からは検討や改善の余地がある1)という意見もあります。
 
 
 
当院でもこのような課題を感じる点もありますが、先進医療を積極的に導入保険と併用できる新たな技術を導入することや、43歳以上の方にも保険適応とはならないものの、治療には制限をもたずその方に適した治療を提案させていただく方針です。
 
 
 
 
☆彡まとめ☆彡
 
 
・2022年4月より体外受精を含めた不妊治療の保険適応がはじまっている
 
 
・体外受精施設へのアンケートでは治療数は劇的ではないが増加傾向にある
 
 
・当院でも治療数は採卵数で15%程度増加している
 
 
・新しい技術の導入が困難であったり、年齢制限があるなどの課題もある
 
 
 
 
 
 
 
 
【文献】
1)髙井 泰  不妊治療の保険適用による変化 臨床雑誌内科 131巻1号 (2023年1月発行)