新年あけましておめでとうございます。本年も少しづつブログを更新して、正しい不妊治療の知識が広まるお手伝いが多少なりとも出来ればと思いますので、お付き合いいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。

 

 

 

前回胚培養には、胚盤胞培養または初期胚培養の2種類があるとを書かせていただきました。何れの培養を選択した場合でも次のステップは新鮮胚移植または胚凍結(融解移植)となります。新鮮胚移植とは採卵周期と同一周期に胚移植をする方法で、胚凍結融解移植とは一旦胚を凍結して、次周期以降に子宮内膜を調整して移植する方法です。

 

 

 

新鮮胚移植は胚に凍結や融解というストレスをかけないというメリットがあり、以前は凍結融解胚移植より多くもちいられていましたが、ここ10年程度の間で融解胚移植周期が年々増加しています。治療法別の出生数では2008年以降、融解胚移植周期が新鮮胚移植を抜き、2015年の統計では体外受精での出生数の約80%を融解胚移植が占めています。(下図 日本産科婦人科学会 平成28年度倫理委員会 登録・調査小委員会報告より)

 

 

 

融解胚移植が増加している理由としては、以下のような点があります。

 

 

①妊娠率、出産率とも新鮮胚移植に比べて高い→このような報告は多数あります。(Roque M et al. Freeze-all policy: fresh vs. frozen-thawed embryo transfer. Fertil Steril. 2015 May;103(5):1190-3. , Murata Y et al. Reprod Biomed Online. 2005 Oct;11(4):428-33. Freeze-thaw programmes rescue the implantation of day 6 blastocysts.) 

この理由として

・採卵周期では卵胞ホルモン(エストラジオール)や黄体ホルモン(プロゲステロン)が非常に高値となるため、この非生理的なホルモンバランスが着床を妨げる可能性がある。(生殖医学会(編):不妊症の治療 胚移植. 生殖医療の必修知識. 日本生殖医学会, 2017: 310-314.)

・採卵周期では採卵前トリガー投与日(→採卵前トリガーについて【体外受精 採卵前編】)に黄体ホルモンが上昇しているケースが10~50%程度あると報告されており、(Venetis CA et al. Is progesterone elevation on the day of human chorionic gonadotrophin administration associated with the probability of pregnancy in in vitro fertilization? A systematic review and meta-analysis.  Hum Reprod Update. 2007 Jul-Aug;13(4):343-55. ) この時点で黄体ホルモンが上昇していると、その後新鮮胚移植をおこなっても子宮内膜と胚の同期が上手くいかず着床率が低下する(Bosch E et al. Circulating progesterone levels and ongoing pregnancy rates in controlled ovarian stimulation cycles for in vitro fertilization: analysis of over 4000 cycles.Hum Reprod. 2010 Aug;25(8):2092-100. ) 

といった理由が考えられています。

 

 

②多胎のリスクを低くすることができる→以前は胚移植の個数に制限はありませんでしたが、体外受精の普及に伴い多胎といわれるふたごや三つ子の増加が問題となったため、2008年日本産科婦人科学会が「移植する胚は原則として単一とする。ただし35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」という会告を出し、出来るだけ1個移植(単一胚移植)を推奨しています。凍結を行うことで、仮に新鮮胚移植を行ってもその他の余剰胚を凍結し、その後1個移植を行うことで多胎リスクを下げることが出来ます。

 

 

③卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を回避することができる→OHSSは体外受精を中心とした卵巣刺激をする際に、最も注意しなければならない副作用の一つです。(→採卵前トリガーについて【体外受精 採卵前編】) 妊娠の成立はOHSSの発症や増悪のリスク因子ですので、新鮮胚移植で妊娠が成立すると、その後にOHSSを発症したりさらに悪化したりする可能性があります。このため一旦胚凍結を行い、一旦月経を起こした後に融解胚移植を行った方がOHSSを回避できる可能性を上げることが出来ます。

 

 

おそらく①の治療成績が良いという点が、融解胚移植周期数がこれだけ増加している一番の要因であり、これに②や③というメリットがこの傾向に拍車をかけているのではないかと思われます。

 

 

 

では融解胚移植周期のデメリットはどんな点になるでしょうか。これに関しては、

・治療が1周期遅れる:一旦凍結して、次周期に融解移植をすると、移植は約1か月遅くなります。

・融解後の胚の変性:約4%の胚に融解後変性が認められるという報告があります。

・コストの発生:凍結・融解が必要となるため、これに対するコストがかかります。

(堤治(監修) 受精卵の凍結 山王病院 不妊診療メソッド 金原出版 211-212. )といった点があります。

 

 

これらのデメリットももちろん無視はできませんが、①の治療成績というメリットを考えると融解胚移植が第一選択であると自分は考えており、当院受診の患者さんにもこのようなご説明をさせていただいております。

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

・胚培養後には新鮮胚移植 または凍結融解胚移植という2つの方法がある。

・融解胚移植の最大のメリットは妊娠率、出産率とも新鮮胚移植に比べて高いという点である。デメリットは移植が次周期になるといった点である。

 

 

 

 

当院では凍結融解胚移植周期を第一選択としてお勧めしておりますが、採卵前に黄体ホルモンが上昇していない(院内のホルモン測定器で1時間程度で結果が判明します)、卵巣過剰刺激症候群またはこれに準ずる状態でないことが確認された場合には、新鮮胚移植も選択可能です。