当院では培養室月例会として、体外受精の月間成績報告や培養士や医師がオンライン講演会で視聴した内容や興味のある論文についての発表をしています。
今回その中で発表があった「透明帯欠損卵子」についての論文についてブログでも報告させていただきます。(論文に関する内容のため専門的な内容が多くて申し訳ありません。。)
月例会で発表があった論文は
①凍結融解した正常染色体の胚盤胞移植サイクルにおける透明帯の不在が生殖結果に与える影響(Impact of no zona pellucida on reproductive outcomes in vitrified-warmed euploid blastocyst transfer cycles)1)
②透明帯欠損卵子がみられた症例の分析と培養成績の検討
の2編です。
正常卵子の基本的な構造として、細胞質や核といったメインとなる部分とこの周囲を取り囲む透明帯(zona pellucida)という膜があります。(下図)
透明帯は胚の保護や精子の選別などいくつかの役割を果たしていますが、この透明帯を認めない卵子のことを「透明帯欠損卵子(zona-free卵子)」といいます。
今回の2編の論文はこの透明帯欠損卵子を用いて体外受精をした場合の治療成績について発表しています。
①の論文は2016~2021年のPGT-Aにて正数性(=染色体数に異常がない)を確認した凍結胚盤胞移植の1024症例について、卵子の由来により透明帯有(761例)と無し(263例)群に分類して、臨床的妊娠率、出生率、帝王切開率などを比較した後ろ向きコホート研究です。ランダム化試験(RCT)に準じる評価とするため、propensity score matching(PSM)という「条件をそろえて比較する」統計処理をしています。
結果は
PSM前 無し群vs有群
・臨床的妊娠率低値(51.71% vs. 63.73%)
・帝王切開率高値(81.03% vs. 70.30%)
PSM後
・臨床的妊娠率有意差なし(53.52% vs. 54.46%)
・出生率有意差なし(45.54% vs. 49.77%)
・帝王切開率有意差なし(80.41% vs. 74.53%)
多変量解析では
出生率予測に関してオッズ比(OR)が
・D6胚vsD5胚 OR:0.7
・非良好胚盤胞vs良好胚盤胞 OR:0.47 と相関を認め、
帝王切開率に関しては
・母体年齢(OR;1.09)、内膜厚(OR:0.83)と母体年齢が高いことや内膜厚が薄い場合に帝王切開率が上昇することが分かった。
となり、結論は「正数性胚盤胞凍結移植において透明帯の有無は妊娠率、出生率や帝王切開率に影響せず、胚のグレードや日齢のみがこれらの結果を左右する因子である。」としています。
つまり透明帯が無い卵子でも、良好胚盤胞となれば妊娠が期待出来るという内容になります。
②の論文は2018年8月から2022年3月までに採卵を実施しICSIの適応となった症例を対象とし、卵丘細胞除去の際にZF卵子(=透明帯欠損卵子)が確認された23症例をZF群、同期間のZF卵子がみられなかった2758症例を対照群として(ZF症例発生率=0.82%)、1)ZF群のうち透明帯を認めなかった卵子(ZF卵子) 2)ZF群のうち透明帯を認めた卵子(Intact卵子) 3)対象群の間で受精率や胚盤胞到達率などを比較し、またZF群の背景について検討しています。2)
結果は
・ZF群の背景として喫煙(OR:2.46)、PCOS(OR:2.34)がZF群となるリスク因子であり、高齢では発生しにくい(OR:0.37)
・ZF群におけるlntact卵子とZF卵子の比較では
ICSI後受精卵生存率:lntact>ZF(88.6%vs 70.8%)(P<0.05)
正常受精率:lntact≒ZF (74.1%vs 58.3%)(有意差なし)
胚盤胞到達率: lntact>ZF (71.4%vs 42.9%) (P<0.05)
良好胚盤胞率:lntact≒ZF(65.3%vs100%) (有意差なし)
・対照群とlntact卵子の比較;上記全て有意差なし
としています。
つまり透明帯が無いとICSI後の受精卵生存率や胚盤胞到達率は下がるものの、胚盤胞まで到達した場合には良好胚盤胞となる割合は透明帯がある場合と差がないという結果になります。
考察として、まず高齢でZF卵子が発生しにくかった理由として、加齢に伴い未受精卵子の透明帯は肥厚化しするため透明帯の損傷が防がれたのではないかとしています。またPCOSに関しては、ある種の遺伝子(ZP4遺伝子)変異が起きている場合があり、この変異が透明帯の菲薄化や脆弱性を引き起こしている可能性があるとしています。
2つの論文に共通するのは透明帯欠損卵子であっても、胚盤胞まで到達すれば十分妊娠が期待できるという点です。
☆彡まとめ☆彡
・月例会で「透明帯欠損卵子」についての2つの論文を報告した。
・透明帯欠損卵子であっても胚盤胞まで到達した場合には妊娠、出産は十分期待できる、という論文であった
となります。
今後も積極的に論文を読み解いたり、オンライン講演会を聴講することを通じて、最新の知識やデータを院内で共有するよう努めていきたいと思います。
文献】
1)Junshun Fang et al. Fertil Steril. 2026 Apr;125(4):650-659. doi:10.1016/j.fertnstert.2025.10.003. Epub 2025 Oct 10
2)水本茂利ほか J Mamm.Ova Res.Vol 47(7),27-33,2024
