大変久しぶりの更新となりました。

 

最近自分が花粉症であることをやっと自覚しましたが、診療は日々頑張っております。

 

昨年9月に日本産科婦人科学会が、着床前遺伝学的検査のうちPGT-Aの適応を拡大し「35歳以上の不妊症のご夫婦も対象にする」と発表がありました。(→「不妊症および不育症を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)に関する細則」の改定について

 

実際「着床前遺伝学的検査」は「着床前診断」と表現されることが多く、この名前はお聞きになったことがある方も多いと思います。

 

先述したようにこの検査の適応が拡大するということは、この検査の有用性が認識され、かつ必要としている患者様が増えていることを示しています。

 

今回当院での今後の取り組みも含めて、このPGT(着床前遺伝学的検査)について書かせていただきます。

 

 

 

PGT(着床前遺伝学的検査)とは?

 

着床前遺伝子検査(preimplantation genetic testing:PGT)は,体外受精
により発生した胚の遺伝的状態を診断する技術
です。1)

検査のおもな目的は妊娠率の向上と流産率の低下であり、その具体的な方法は下図のように、将来胎児部分となる内細胞塊(ICM)から離れた栄養外胚葉(TE)の一部(5~10細胞程度)を採取し、この細胞塊から抽出したDNAを増幅して遺伝子解析するという手順になります。2)

PGT-Aであれば染色体数に異常がない胚=妊娠し易く、流産しにくい胚を選ぶことが検査の目的になります。

 

この技術は体外受精で得られた胚を使用するのが前提となるのと、ふりかけ法では精子のDNAが混入する可能性があるため通常は顕微授精(ICSI)で受精卵を作成します。2)

 

 

PGTの種類は?

 

PGTには

胚の染色体異数性(=染色体数の異常)を判定するPGT-A(preimplantation genetic testing for aneuploidies)

染色体構造異常を判定するPGT-SR(preimplantation genetic testing for chromosomal structural rearrangements)
重篤な遺伝性疾患の罹患の有無を判定するPGT-M(preimplantation genetic testing for monogenic/single-gene defects)

 

の3種類があります。3)

 

検査の内容と目的はそれぞれ以下の通りです。

 

検査名

検査内容

検査目的

PGT-A

染色体の数的変化の有無を見る

胚移植における妊娠の成功率を高める

PGT-SR

染色体の構造的変化(不均衡型転座など)の有無を見る

均衡型転座を有する夫婦において流産と不均衡型転座の児の出生を回避する

PGT-M

疾患原因となる遺伝子の変化の存在の有無を見る

重篤な遺伝性疾患を有する家系の夫婦において疾患を有する児の出生を回避する

 

このうち当院ではPGT-AおよびPGT-SRが可能な検査になります。

 

 


PGT-A/SRのメリットは?

PGT-A/SRの最大のメリットは移植あたりの妊娠率の上昇と流産率が低下し、妊娠までの期間を短縮することが期待できる点です。


実際2025年の生殖医療ガイドラインでも、以下のように記載されています。

CQ37 着床前胚染色体異数性検査は妊娠率や出生率改善に有効か?
Answer
1.反復する胚移植不成功例に対するPGT-Aを併用するARTは、PGT-Aを併用しないARTに比べて、移植あたりの臨床的妊娠率および臨床的妊娠率あたりの流産率を改善する(B)
2.反復する流死産既往例に対するPGT-Aを併用するARTは、PGT-Aを併用しないARTに比べて、胚移植あたりの流産率を改善する。(B)


3.ART実施症例全例に対してPGT-Aを併用することは、特に患者が高年齢で獲得胚が多い場合、PGT-Aを併用しない場合に比べて胚移植あたりの出生率を改善する。(C)

 

具体的な報告では

2019~2022年に行われた日本産科婦人科学会によるPGT-A/SR特別臨床研究では、胚移植6080件において臨床妊娠率 68.8%、継続妊娠率 56.3%、流産率 10.4%であり、妊娠率や流産率が母体年齢によらず比較的一定であり、PGT-A/PGT-SR は 胚移植あたりの妊娠率の改善 や 流産率の低下 に寄与する可能性が示唆されています。(下図)4)

 

 

 

PGT-A/SRのデメリットは?

 

PGT-A/SR の問題点として、どのような方にこの検査を推奨すべきか一定の見解が
得られていないこと、モザイク胚(染色体正常細胞と異常細胞が混在する胚)の取り扱いが定まっていないこと、検査を実施する際に高額な経済的負担が発生すること、受精卵・胚から細胞を採取する際にダメージを及ぼす可能性があることなどが挙げられています。5)

 

現実的に最も問題となるのは費用に関してです。現在PGT-A/SRが自費診療となるため、これに伴う採卵や胚移植などすべての診療が自費診療となります。体外受精の保険適応化がはじまって、各自治体の不妊治療助成金が減額されているため、PGT-A/SR実施するたには以前より個人負担が増えることになり、実際PGT-A/SR症例は保険適応前より減っているとされています。3)

 

以下がPGT-A/SRのメリット・デメリットをまとめた図になります。

 

 

 

PGT-A/SRがおすすめされる方は?

 

上記のメリット・デメリットを考えた場合、PGT-A/SRがよりおすすめされるケースがあります。

具体的には、以前のブログでも綴らせていただきましたが(→2025年 生殖医療ガイドラインが発表されました35歳以上で一定数胚が確保できる場合には、PGT-Aにメリットがあると考えられます。

 

例えば

獲得胚が5個以上の症例で、35歳未満ではPGT-A群と非PGT-A群との間で胚移植あたりの出生率に有意差がなかったが、38-40歳ではPGT-A群が妊娠率が高い(オッズ比1.55)6)

 

・38-41歳を対象とした研究では両群で累積妊娠率に差はなかったが、PGT-A群の方が出生に至るまでの胚移植回数は少なく(1.8vs3.7回)妊娠成立までの期間はPGT-A群で短かい(7.7週vs14.9週)。7)

 

逆に概ね35歳未満ではメリットが低いという報告もあり、

 

・2020年までに得られるPGT-Aに関する文献の系統的レビューでは、全年齢ではPGT-Aによる生児獲得率は上昇せず(相対リスク:RR 1.1)、流産リスクは低下した(RR 0.45)。生児獲得率を年齢別に解析すると35歳以上ではPGT-Aにより上昇し(RR 1.29)、35歳未満では上昇しなかった(RR 0.92)8)

 

といった論文が発表されています。

 

 

 

☆彡まとめ☆彡

 

・PGTとは胚の細胞を一部採取して、胚の遺伝学的検査をおこなうこと

 

・PGTにはPGT-A、PGT-SR,PGT-Mの3種類がある

 

・PGT-A/SRのメリットは移植あたりの妊娠率の上昇と流産率が低下が期待できる点

 

・デメリットは採卵・移植など治療に関する費用が全て自費となる点など

 

・35歳以上で一定数胚が確保できる方には特におすすめできる検査

 

となります。

 

当院も日本産科婦人科学会のPGT-A/SR認定施設であり、おすすめできる方また希望される患者様にこの検査を提供させていただきます。

 

 

文献】

1)佐藤卓ほか 着床前遺伝子検査 (PGT) の実際 産科と婦人科 92(2): 159-168, 2025.

2)佐々木愛子 着床前遺伝学的検査の進化 産科と婦人科 92(3): 298-302, 2025.

3)真里谷奨ほか 着床前診断を知ろう! 小児科診療 87(11): 1579-1584, 2024

4)lwasa T et al .Preimpiantation genetic tel ting for aneuploidy
 and chromosomal s tructural rearrangement:Asummary of a
 nationwide study by the Japan Society ofObstetrics and
 Gynecology. Reprod Med Bio12023122:e12518.

5)岩佐武 PGT (着床前診断) ペリネイタルケア 42(4): 320-321, 2023.

6)Benjamin S Harris et.al Success rates with preimplantation genetic testing for aneuploidy in good prognosis patients are dependent on age Fertil Steril
. 2025 Mar;123(3):428-438. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.09.043. Epub 2024 Sep 29.

7)Carmen Rubio  et al.In vitro fertilization with preimplantation genetic diagnosis for aneuploidies in advanced maternal age: a randomized, controlled study  Fertil Steril. 2017 May;107(5):1122-1129. doi: 10.1016/j.fertnstert.2017.03.011. Epub 2017 Apr 19.

8)Simopoulou M et al.PGT-A: who and when? alpha systematic review and network meta-analysis of RCTs.
J Assist Reprod Genet. 2021 Aug;38(8):1939-1957. doi: 10.1007/s10815-021-02227-9. Epub 2021 May 25.PMID: 34036455