洗面所で歯磨きをしている最中、鏡のなかの自分と目が合って手を止めた。

もちろん気が狂っているわけではないけれど、デニーロのあの時の気持ちが若干わかったような、わからないような。

戦争を経験したわけじゃないから、種類は違ったとしても、いち「オトコ」として生きるうえでの義務に揺蕩う境遇は、同じじゃないかって。


俺はまだまだ俺じゃないんだな、と。素直にそう思えた。
鏡は割らなかった。手を怪我したら嫌だし。小市民。



日々を悔いなく、駆け抜けるように活き活きと過ごしている「つもり」になってはいまいか。

早急に何か証を残すことなんかできないから、ゆっくりと轆轤(ろくろ)を回して、形どっていく。

なんちゃって、口で言う(文に記す?)なんざ、簡単か。



むかし安室奈美恵が「夢なんて見るもんじゃない、語るもんじゃない、叶えるものだから」て歌ってた。
高校の時、合コンでアムラー女子も歌ってた。

その時はイエーイなんて言って、何も考えていなかった。

今になって、なんだか判る気がした。





歯を磨き過ぎて、歯茎に傷がついた。
まさか俺、気が狂ってんのか?