
「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)12月12日(火曜日)
通巻第8045号
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イーロン・マスクの[X」。アレックス・ジョーンズの口座復活にOK
民主主義と表現の自由は守らなければならない
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毎日のようにメディアを賑やかにしているのはドナルド・トランプとイーロン・マスクの二人。反ユダヤ主義と取られかねない意見に賛同したため、イスラエルに呼びつけられたが意気軒昂である。
そしてマスクが買収した旧ツィッターを「X」と改称し、数々の批判を浴びながら、しかもディズニーなどの広告主を失いながら、使用者を増やした。
そればかりか、過去にツィッターが永久凍結した論客たち、ドナルド・トランプ、テイラー・グリーン下院議員らの口座を解除し、復帰を認めた。FOXを馘首されたタッカー・カールソンはXへの投稿で高い人気を保った(近く独自のタッカー局を開始、毎月7ドルの由)。
Xは先頃アンケート調査を行った。アレックス・ジョーンズの復帰に賛成か反対かを問うと、200万人のユーザーから回答があり、140万人が賛成した。
アレックス・ジョーンズとはそもそも何者か? テキサス州でラジオ局を経営し、ネットではインフォウォーズという発信母胎で盛んに超保守的な発言を繰り出した。物議をかもす発言で知られ、反ユダヤ、陰謀論を展開してきたため、ツィッターばかりかユーチューブで過去のアーカイブを削除された。フェイスブックも永久凍結となった。
左翼メディアが非難攻撃すればするほどに番組の人気が高まり、ラジオのゲストにはロンポール議員、パット・ブキャナンらも出演した。数々の不正スキャンダルで起訴されているハンター・バイデンはアレックス・ジョーンズの復帰を「民主主義と言論の自由を踏みにじるもの」として、マスクを批判した。
アル・ゴア元副大統領は「(Xのような)ソーシャルメディアが「代議制民主主義をよりうまく機能させるために存在していたバランスを破壊した」と発言した。
ゴア元副大統領は、機能する民主主義は「集団で推論するための基礎となる共有知識基盤」に依存しているが、「アルゴリズムに支配されたソーシャルメディア」がこのバランスを崩していると述べた。
ゴアは「こうしたネットは禁止されるべきだ」と暴言を吐いた。事実は逆さまである。
「宮崎正弘の国際情勢解題」
令和五年(2023)12月12日(火曜日)弐
通巻第8046号
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台湾軍高官らのスパイ事件が相次ぎ、最新鋭武装ヘリなどの機密漏洩か?
中国のスパイ勧誘集団はタイやベトナムで秘密交渉を工作
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あと一ヶ月に迫った台湾総統選。12月12日時点で、民進党の頼清徳候補が優勢だが、国民党の候宣義が猛追、三位の何文哲との差を広げている。
民進党と国民党とは僅差である。
この台湾で政治課題として大きく争点となったのがスパイ摘発とハイテクの輸出規制。両者の関連である。
「経済スパイ」と「国家中核技術の企業秘密の域外使用」に対する厳罰を課す国家安全法(國家安全法)の改正案が発効した。
骨子は中国、香港、マカオ、または外国の敵対勢力が、窃盗、不正行為、強制、または許可なく複製するなどで台湾の中核的主要技術の企業秘密を取得、使用、または漏洩の支援をした者に対して、厳しい罰則を課す。違反者は5年から12年の懲役、500万台湾ドルから1億台湾ドルの罰金に処される。
台湾の法制化は欧米の制裁措置に呼応した流れだが、一方で米国インテルやマイクロンなどはバイデン政権の制裁強化に反対しており、現実問題としては日米欧の半導体ならびに製造装置メーカーは、規制すれすれの製品を中国に輸出し続けている。
なかでも米国AMATは中国に売り上げの44%を依存しているが、米司法省は米AMATが、輸出許可を受けずに中国のSMIC(中芯国際集成電路製造)に製品を輸出した疑いがあるとし、連邦検事局の捜査を受けている。
台湾でも、この法律改正を背景に「国家科学技術会議」は漏洩を防御すべき、喫緊の22のハイテク技術リストを発表した(12月5日)。
すなわち14ナノ以上の半導体に加えて、国家安全保障にとって重要な技術や戦略的に重要な技術などが含まれ、具体的にはドローンやミサイルで使用される軍事グレードの3Dアクティブ・ フェーズド・アレイ・レーダー技術から宇宙航空、農業、サイバー防衛技術、量子コンピューターによる暗号解読技術。サイバー攻撃に対抗するポスト量子暗号技術にまで及ぶ。
同評議会は24年4月までにさらに追加リストを発表する予定だ。
▼不安心理につけこみ軍人を外国に招待してスパイ行為を強要
くわえて厄介なのが台湾軍高官らのスパイ事件である。
軍高官の機密漏洩事件が相次いで摘発されている。直近でも陸軍航空特殊部隊司令部の謝某中佐が、退役軍人の陳某が率いる中国スパイ団からバンコクに招待された。
「中台戦争が発生した場合、謝家族をタイに避難させ、月額20万台湾ドルを提供する」という条件と引き換えに、CH47Fヘリコプターを海峡の中国の空母まで飛ばすことを提案したという、
台湾国防部の邱國正部長(国防相)は「台湾人をスパイ活動に参加させようとする中国政府の試みは相当深刻な程度にある」と記者会見で述べた。
すでに小誌は12月4日付けで次を報じている。
「11月27日、台湾検察庁は退役ならびに現役軍人の十人を中国スパイ容疑で起訴した。高等検察庁は「国家反逆罪」であり、容疑者らに終身刑を求刑した。なかには台湾北部の防衛を任務とする攻撃ヘリコプター飛行隊と精鋭戦闘部隊で構成される航空特殊部隊第601旅団の隊員が含まれる。
また一人の容疑者は東海岸防衛の花東防衛司令部に勤務後、金門防衛司令部、金門と馬祖の防衛を担当。ほかの一人は桃園に拠点の陸軍化学物質・バイオハザード・放射線訓練センターで化学兵器や生物兵器に対する防御を任務とした。
「現役兵士が中国共産党に忠誠を誓うのは極めて悪質な行為だ」とした高等検察庁は「容疑者のうち3人は「中国向けのネットワークを構築する」ために軍事情報を収集するために現役軍人を募集したと述べた。彼らが徴兵した4人の将校は、金銭と引き換えに「複数の軍事機密」を中国政府に引き渡した罪で起訴された。別の容疑者は職場の金庫から軍事機密を盗んだ疑いで起訴された。「個人的な貪欲さのため、彼らは軍事機密や国家機密に関連する多数の文書や資料を漏洩、伝達することで国家と国民を裏切り、国家の安全に重大な損害を与えた。これらの容疑者
が反逆罪を犯して現役の同僚兵士を裏切った経緯を指摘するのは痛ましいことだ」と検察庁は見解を述べた。
十月にも退役空軍大佐が中国政府へのスパイ行為と国家安全保障の機密情報を渡した罪で懲役20年の判決を受けた。8月には、台湾の漢光軍事演習に関する中国向けの情報収集に協力したとして、父親と息子の2人組が兵士2人を徴用した疑いで起訴された」
また桃園地方検察庁は元中佐で軍事通信社副局長の孔繁嘉(音訳)を国家安全維持法(國家安全法)違反で起訴した。孔は中国スパイ組織の結成に協力し、その見返りとして1万1700米ドルと6万元(8361米ドル)を受け取ったとされる。
これらスパイ事件、禁輸リストなどが台湾総統選にどのような影響がありのかは不明である。
暗号通貨は犯罪に利用されている。厳格な規制が必要
バイナンスに6400億円の罰金。CEOは辞任へ
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12月11日、リズ・ウォーレン上院議員は「マネーロンダリング、麻薬密売、制裁回避などを理由にビットコインなどの暗号通貨が違法行為に悪用されており、これに対処するための規制法案」を提出した。
市場ではビットコイン相場が10%近く下落した(12月11日)。
法案は上院銀行委員会が超党派で賛成している。
ビットコインなど暗号通貨の取引監視と規制の強化が目的であり、とくにウォーレン上院議員は悪用リスクを問題視したうえ、「暗号通貨はテロ集団、ならず者国家、麻薬王、ランサムウェアを悪用するギャングどもや詐欺師たちが資金を洗浄し、巧妙にタックスへブンなどを利用して制裁を回避し、違法武器プログラムに資金を提供し、サイバー攻撃からも利益を得ている」と指摘した。ウォーレンは極左で知られるが、国家安全保障では超党派の立場に立つ。
二つの裁判があった。
22年11月にFTXトレーディングが経営破綻、民主党の金融関係議員などに巨額を献金していたサム・バンクマン・フリードは拘束され裁判を受けている。かれは一時期、ビジネス界の英雄とまで言われた。
11月21日には司法省がバイナンスに対して、6400億円という天文学的罰金を課した。CEOでドバイ、シンガポールを渡り歩いた中国人の趙長鵬にも個人的に73億円の罰金が課せられた。
暗号通貨取引の最大手として知られるバイナンスは不法取引、マネーロンダリング防止のプログラムが有効に機能させず、イランやシリアなどの敵性国家が米国民と取引できるようにしたと不正行為を挙げた。
とくにバイナンスは、ハマスのランサムウェアに関与する取引を検知しながらも、当局に報告を怠った。このためバイナンスは今後五年間、監視をうけ、また創業者でCEOだった趙長鵬は辞任に追い込まれた。
判決に当たり、ガーランド司法長官は「世界最大の暗号通貨交換所バイナンスの背景は犯罪だった」と言明し、またイエレン財務長官は「法律遵守を確実とする監視対英の確立は暗号通貨業界にとって画期的な出来事だろう」と述べた。
つまり米当局は暗号通貨を敵視していることがわかる。