
元旦に生まれた近所の林業農家のおじいちゃん。90歳。
90歳を記念して軽トラを新車に買い替えたと嬉しそうに見せてくれた。
ワシ「おー、なかなかいい色っすね!白じゃないところがカッコええです」
じいさん「あたりまえよ。こないだ○○のじーさんが白の新車(同じ軽トラ)買ったけ、同じ色にワシがする訳にゃいかんわい。あのジジイと同じセンスじゃ思われたら困るわ」
(…軽トラでもそういう意地の張り合いがあるんかい!(笑)…てか色がちょっと違うだけで、あとは同じダイハツの同じモデルだと思うけど…)
「なるほどー。そりゃそうですねー!…で、アレですか?やっぱり最新のクルマだから急アクセル予防装置とか、自動ブレーキとか、そういう気が利いた装置もついてるんですよね?!いや〜さすがです」
「いいや。そんなもん一切付いとらん」
「え?そうなんですか?大丈夫なんすか?あ、そうですよね。お父さん運転上手いからあんな装置要らないっすよね?すいません。失礼しました!」
「いいや。ワシも90になったけ、いつヘマするか分かったもんじゃない。人様に怪我させるワケにゃいかんからの。そうかと言って、最近のナンタラ装置なんざ、まだまだあてにならん。じゃけ、ワシはオートマやめてマニュアルにした」
「マニュアルですか。あ!ホントだ!よく見たらギアとクラッチあるじゃないっすか!」
「そうよ。マニュアルならアクセルとブレーキ踏み間違えて急発進しようとたら、あっちゅー間にエンストして急発進できんどころかエンジン止まるじゃろ。これが1番よ。年寄りになったらマニュアルに乗るのが1番。年寄りから免許やクルマ取り上げるとか、色々いざという時アテになるかどうか分からん装置つけるより、年取ったらマニュアルしか乗っちゃいかんと、そういう法律にすりゃ事故は減るわ」
そう言ってカラカラ笑うと、まだ雪が深く残ってガチガチツルツルに凍った林道の急坂をスリップひとつせずにガンガン登って山に入って行った。
深い田舎の山の中に住み、今も元気に毎日山で林業を営む彼からクルマを取り上げたら、生活すらできなくなる。
そんな高齢者が地方の中山間地域には山のようにいる。
中学校しか出てないこのじいちゃんには、東大出て重大人身事故を起こした元高級官僚のような学はないかも知れない。
でも、自分の老いをちゃんと分かって、人様を傷つけないようにマニュアルトラックを新調する彼には、何より人として大切な他人に対する思いやりと己に対する謙虚さ。そして知恵があるのだ。
元旦早々、森を守るために見回りに雪山に入って行かれた、じいちゃん。
カッコええですね。マジでいつもリスペクトしてます。
くれぐれも安全運転で。今年も頑張って下さいね。
ピカピカの新車の軽トラの後ろ姿が、なんだかひと回り大きく見えた一瞬だった。