FB木村正治氏投稿  医師の家庭物語(26) | imaga114のブログ

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 医師の家庭物語(26)

 

大藪市は町内行事が活発な地域性があり、

年に3回は町内対抗ソフトボール大会

が催される。

老若男女が混ざっての和気あいあいと

した草野球ならぬ草ソフトボール大会

である。

藪病院内科医の夫も町内のメンバーの

都合で駆り出されて参加する。

 

色とりどりのユニフォーム姿で賑わう

大藪市市民グランド。

内科医の町内チー厶はいつも内科医の

ふがいないプレーや女の子よりも打てない

打撃センスの無さが試合を壊し、常に初戦敗退

を重ねてきた。

いくら親睦目的の町内対抗とはいえ、見事な

までの運動神経の無さが応援している町内の

方々の不評となり、時に近所の奥様の怒りをも

誘う。

今回もまた野球経験のあるご主人や若者が

仕事の都合や私用と重なり参加できず、メンバー

編成ギリギリの中で内科医の夫が駆り出される

運びとなり、会場で内科医の顔を見るなりまた

初戦敗退が濃厚だと露骨に不機嫌な顔をする

近所の奥様もいる。

 

関係者

「間もなく開会式を始めますのでご整列ください。」

近所の奥様

「あら、やだわ。また医師のご主人さんよ。

たまには良いプレーして頂きたいわ。」

近所のお年寄り

「こりゃあまた初戦敗退じゃな。」

近所の奥様

「洋子ちゃんよりバッティングセンスが無い医師

がどうしてメンバーで出るのよ!いつも試合が

壊れるのよ、あの医者のせいで。」

近所のお年寄り

「まあ他のメンバーが参加できないんだから

仕方ないの〜。ま、今回も諦めようか。」

近所の奥様

「PTA会長をしていたくせに、打てない守れ

ないって、はっきり言いますけど迷惑ですわ。」

近所のお年寄り

「どうせヤブ医者じゃろう。ま、奥様、こんな

大会くらいでムキになりなさんな。」

近所の奥様

「毎回毎回あんなぶざまなプレーを見ると腹が

立ちますわよ。」

 

開会式には大藪市の市長や来賓の方々がテント横

に整列している。

 

関係者

「それではこれより大藪市希望ヶ丘町内対抗

ソフトボール大会を開会致します。先ずは市長

よりご挨拶を。」

 

誘導されて大藪市市長がゆっくりとマイクの前に

歩んでいく。

 

大藪市市長

「え〜、皆さん、おはようございます。今回も

晴天の中、恒例の希望ヶ丘町内対抗ソフトボール

大会が開会されますこと、心よりお祝い申し上げ

ます。え〜、何よりも先ず皆さんの親睦と健康、

これが大切でございまして、試合の勝敗はそれは

それで大切ではありますが、何よりもお怪我の

ないよう、また何よりも皆さんが楽しんで頂く、

これが大切でございます。」

近所の奥様

「たまには勝ちたいですわよ。程度がありますわ。」

大藪市市長

「え〜、我が大藪市は皆様の健康増進に力を入れて

おりまして、このようなソフトボール大会を通じて

皆さんが活き活きとする事も促し、更には健康診断、

定期検診、予防の観点からの予防医学の推進、

またグランドの片隅には予防接種コーナーや医療

相談ブースも設けておりますので、会場にお越し

の皆さんは試合観戦だけでなく大藪市の健康増進

プログラムにもご関心を持って頂ければと思います。

それでは皆さん、良い試合を、また良い一日を

お過ごしください。」

 

そうして大藪市市長はまたゆっくりとテント横

に戻っていく。

 

関係者

「え〜、会場の皆さんには協賛企業のモンスター

バイオ様より無自覚無症状の感染対策としての

飲薬を特別に無料配布しておりますので是非、

お試しください。」

 

こうして開会式は終了して市民グランドのA面と

B面とを使いながらそれぞれの試合に向けて各町内

のチー厶が移動していく。

グランドの一角にある医療相談ブースには藪病院

の小児科女医の後藤が入っていた。

 

女医の後藤

「あら先生、おはようございます。先生は試合

に出場されるのですね。」

医師の夫

「あ、後藤先生。昨夜は大丈夫でしたか?随分と

酔っておられましたが。」

女医の後藤

「あら、あの後どうしたのかしら?確か途中まで

先生とご一緒していたのですけど。気がついたら

自宅にいたわ。」

医師の夫

「後藤先生、全く何も覚えていないのですか?」

女医の後藤

「私、疲れてたのかしら。よく覚えていないのよ。

先生ごめんなさいね、何か昨夜は途中で放ったら

かしにしたみたいで。」

医師の夫

「いや、私から逃げ出したのですが。」

女医の後藤

「ん?何かしら?」

医師の夫

「後藤先生は日本酒は飲まないほうが良いですよ。」

女医の後藤

「あら、大丈夫よ。私ってお酒には強いのよ。

先生、またお勧めの良い店がありますからまた

行きましょうね。」

医師の夫

「いや〜、ちょっと考えます。」

女医の後藤

「酒も適量飲めば健康に良いですから。趣味の

サークルで日本酒研究会を作ろうかと思うの。

先生も是非入ってみませんか?」

医師の夫

「いや〜、ちょっと遠慮しておきます。」

女医の後藤

「先生ご遠慮なく。」

医師の夫

「遠慮しておきます。」

 

そうして時間は流れ、市民グランドの片面を

使って医師の夫が属する希望ヶ丘5丁目チー厶

と薬師町チー厶の試合が始まった。

老若男女混成チーム同士の試合である。

それぞれの応援に近所や町内の人々が駆け付けて

観戦している。

 

先行は希望ヶ丘5丁目チー厶。

先頭の佳奈ちゃんがセカンドゴロ。

2番のタバコ屋の柳沢さんがセンターフライ。

3番の息子の健二が左中間を破る2塁打を放ち、

4番の寿司屋の森さんがライト前ヒット。

2アウトランナー1塁3塁となり希望ヶ丘5丁目

チー厶は先制点のチャンスを迎えた。

ここで打順が5番の医師の夫に回ってきた。

 

息子の隆

「お父さん、バットを短く持って!コンパクトに

振れよ!」

近所の奥様

「どうしてチャンスにまたあの医者に回ってくる

のよ!最悪だわ!打順の組み方に問題があるわ!」

近所のお年寄り

「まあまあ奥さん、そうムキになりなさんな。」

近所の奥様

「腹立つのよ毎回毎回。あの医者が試合に出な

ければ初戦は突破するのよ、いつも。」

 

薬師町チー厶のピッチャーはOLの恭子ちゃん。

か細い腕からゆっくりと下から投げてフワリと

した投球である。

1球目、ボール。

見送って素振りをする医師の夫。

 

息子の隆

「お父さん、よく見て振れよ。芯で捉えて!」

近所の奥様

「うちの主人が仕事が入らなければあの医者の

代わりに出るのに。見ちゃおれないわ。」

 

ピッチャーの恭子ちゃん、第2球を投げる。

フワッと緩い珠が山なりに浮かぶ。

医師の夫は踏み込んでバットを振る。

空振り。

相手チー厶の応援席が盛り上がる。

 

近所の奥様

「何やってるのよ!どうしてあんなフワフワした

球をバットに当てれないのよ!」

 

3塁上から息子の健二が声援を送る。

「しっかり打てよ。」

 

ピッチャーの恭子ちゃん、第3球目を投げる。

フワッと緩い球が山なりに浮かぶ。

医師の夫は見送った。

「ストラ〜イク!」

審判の声が高々とグランドに響く。

カウント2ストライク1ボール。

 

近所の奥様

「打て!なんであんなボールを見過ごすのよ!」

近所のお年寄り

「まあまあ奥様、抑えて抑えて。」

息子の隆

「甘い球は積極的に打ちに行けよ!」

 

ピッチャーの恭子ちゃん、第4球目を投げる。

フワフワッとひときわ緩い球が山なりに放たれた。

医師の夫は踏み込んだ。

空振り三振。

3アウトチェンジ。

ため息が漏れる希望ヶ丘5丁目チー厶の応援席と

ベンチ内。

拍手と歓声が湧き上がる薬師町チー厶の応援席と

ベンチ内。

怒りを露わにする近所の奥様。

ため息をつく近所のお年寄り。

「信じられないわ。どうしてあんな緩い球が

バットに当たらないのかしら!」

近所の奥様が不満を剥き出しにする。

近所の奥様は携帯を取り出し夫に電話をする。

今からでもグランドに来てと催促するが夫は仕事中

だから無理だと返事をする。

冷ややかな視線で近所の奥様が医師の夫を

見つめる。

 

と、グランドに大藪市の市議が現れた。

支持者も出場しているソフトボールの試合を見学

に訪れたのだ。

5期目の市議は街頭や駅頭で567液体接種の

問題点をまとめたチラシを配布している事から

賛否両論が生じていた。

医師の夫は藪病院院長の藪武男から指示された

内容を思い出した。

市議がゆっくりと歩いてくる。

守備が下手な医師の夫は守備にはつかない。

ベンチに腰掛けつつこちらに歩いてくる市議を

見つめた。

話しかけるなら今だ。

医師の夫はベンチを立ち応援席の人混みの中に

現れた例の市議に向かって歩き出した。

 

果たして医師の夫は藪病院院長からのミッション

を無事に果たせるのだろうか。

 

つづく。