第1部 堕天使と洪水伝承
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3章 ②『第一エノク書』とその概要
つづき
■(5)夢幻の書:83~90章(前164年)
〔滅びの幻〕83~84章
エノクは、自分の見た二つの幻をメトシェラへ語ります。
その一つが、ここで語られる洪水による滅びの幻です(83章は61章と106~09章に並行し、84章は9章に並行します)。
エノクは、「天が崩れ、ばらばらにちぎれて地上に落ちてくる」のを見ます。
すると口から「地が滅びた」という叫びがでます。エノクの祖父であるマラルエル(マハラルエル)は、孫のエノクに、その夢と幻は「地の全ての秘密にかかわることだ。
地はやがて亀裂の中に沈み、完全に滅びる」と言い、「地上に一部を生き残らせてもらうよう」神に懇願するよう告げます。
そこでエノクは、太陽の運行を定めた「裁きの主」を崇めて祈ります(83章)。
エノクの祈り。
「全地は永久にあなたの足代。知恵であなたの目につかぬものはありません。
あなたは全てを知り、見通される方です。
あなたの天使たちは過ちを犯しました。
あなたの怒りは裁きの日まで、人の肉(ヨブ12章10節参照)に臨むでしょう。
人の肉をすっかり抹殺せず、義と公正の肉は、永遠の種の木としてたててください。」(84章)。
〔牛と獣の幻〕85~90章
次の幻は動物の寓喩によるこの世の歴史です。
先の幻を受けて、ノアの洪水が寓意として語られますが、これもエノクがメトシェラに語ることになっています。
白い(罪がないこと)雄牛(アダムのこと)と牝牛(エヴァ)がでてきます。
続いて黒い(罪人でカインのこと)雄牛と赤い(アベルの血)雄牛が来て、黒牛が赤牛を殺します。
先の牝牛は、別に白い雄牛(セツ)を産み、多くの雄牛と黒い牝牛を産みます。
白い雄牛(セツ)も多数の白牛を産みます(85章)。
すると天から星が一つ(堕落天使アサエル)落ちてきて、牛たちの間に混じります。
大きな黒牛が見えます。
すると多くの星が天から落ちてきて、先の第一の星のところへ集まった。
彼らの陰部は馬のようで、牝牛(人間の女たち)と交わり、象やらくだやろば(巨人たちを獣にたとえる)を産みました。
彼らは互いに角で突いたり、かみつき合ったりしました。
大地はこの争いで叫び始めました。すると天から白い人が3人に伴われて現われました。
3人はわたし(エノク)を地上から引き上げて(創世記5章24節参照)、そびえたつ高い塔を見せて、象やらくだやろばや星や牛たちを見終わるまで、そこにいるように告げました。
すると4人の一人が、天から落ちた最初の星を縛って恐ろしい谷に投げ込みました。
象とらくだは互いに斬り合いを始めて、大地全体が大きく揺れます。
先の4人の一人が、性器をぶらさげた巨星を集めて大地の裂け目に放り込みました(大洪水による人類の滅亡)(88章)。
4人の一人が先の白い雄牛に告げると、その雄牛は人間になって箱船を造り、他の雄牛も一緒にそこに住みます。
天の七つの水門が開いて、水が囲いにあふれると、囲いの牛は全部水で溺れました。
すると別の幻で、水門が取り払われて、箱船は地上に止まり、闇は退き光が現われました。
人間と他の雄牛たちは箱船をでましたが、1匹は白く(セム)、1匹は赤く(ハム)、1匹は黒(ヤフェト)でした(皮膚の色で人類を三種に分けること)。
彼らから、獅子、虎、犬、狼、ハイエナ、猪、狐、ウサギ、豚、禿鷹(異邦の諸民族のたとえ)などが産まれました。
しかしその中に、白い牛(アブラハム)がいて、それが野ろば(イシュマエル)を生み、ほかに白い牛(イサク)を生みました。
この白い牛から、黒い猪(エサウ)と白い羊(ヤコブ)が生まれ、猪は多数の子を生み、羊は12匹の羊(イスラエルの12部族)を生みました。
12匹の中の1匹(ヨセフ)は、野ろば(エジプト人)へ渡されました。
狼(エジプト王)は、羊たちを恐れ始めて、河にその子らを投げ込んだので、主は狼の手を逃れたあの羊(モーセ)を呼び出して、狼と語らせますが、狼はいよいよ辛く羊を扱ったので、主は狼どもを殴り、羊たちは狼から逃れました(出エジプト)。
狼は羊たちを追跡しましたが、海が割れて、羊たちの後を追った狼たちは溺れ死んだのです。
主は羊たちを養い、水と草を与えて、あの羊が彼らを導きました。
しかし、あの羊が岩山の頂きに登った時に、羊たちが道を踏み外したので、主はその羊に怒られたのです。
羊たちはその羊を見て恐れ、もとの囲いに戻りたいと願いました(出エジプト24章12節)。
指導してきた羊が死ぬと、2匹の小さい羊(ヨシュアとカレブ)が代わりに立ちました。
やがて別の羊たち(士師たち)がやってきましたが、犬や狐や猪(異邦の諸民族)が、羊たちを食い始めたので、別の1匹の羊(サウル)が立てられました。
この雄羊は、犬や狐や猪を突きまくりましたが、別の雄羊(ダビデ)を見ると、その羊をも突き始めたのです。
主は、この別の雄羊を指導者としました。
その家(エルサレム)は大きくなり、高い塔(神殿)が建てられました。
ところが羊たちは再び迷いだしたので、主は羊の中から何匹かを召して(預言者たち)、羊たちのところへ遣わしました。
そのうちの1匹(エリヤ)は、殺されませんでしたが、主は彼をわたし(エノク)のところへ引き上げたのです。
ついに羊たちは、自らに殺される運命を招いて、獅子、虎、ハイエナなど、あらゆる獣たちに、餌食として投げ与えられました。
主は70人の牧者たちを召して(世界の諸民族を司る天使たちのこと。
エレミヤ25章11~12節参照)、羊たちを管理させたのです。
しかし主は、別の牧者に命じて、牧者たちのすることをきちんと書き留めるように命じました。
獅子(アッシリア)と虎(バビロニア)と猪(エドム)は、羊たちを食い荒らしました。
羊たちは決まった数だけ殺されていったのです(イスラエルが犠牲の民とされたこと)。
牧者たちのしたことは、すべて主の書に書き留められて、その書が、主の御前で読み上げられました。
それから12時間経って(捕囚の期間が終わること?)、3匹の羊(エズラ、ネヘミヤ、ツァドク)が戻ってきました。
彼らは倒れた塔を建て直したのです(エルサレムの神殿が再興されたこと)(89章)。
ここからは、ギリシアの時代に入ります。
このようにして35人の牧者たちが羊を牧しました(先にでてきた70を12+23=35として、前半の35と後半の35に分けて、ここからは後半のギリシアの時代、すなわちアレクサンドロス大王の時代に入る)。
すると鷲(マケドニア)と禿鷹(エジプトのプトレマイオス朝)と鳶(パルティア王国?)と烏(シリアのセレウコス朝)などの空の鳥たちが来て、羊たちの肉を食らったのです。
羊たちは骨だけにされたけれども、それから23人の牧者たちが58期間を牧しました。
さて白い羊たちから仔羊が生まれると(ハシディーム派のユダヤ教か?)、烏がその中の1匹を引き裂いて食べました。
するとこれらの仔羊たちに角が生えて(マカベア派の戦士たち)、その中の1匹の角が大きくなり(ユダ・マカバイのこと)、羊たちに呼びかけます。
すると雄羊たちがそのもとに集まりました。エノクが見ていると、牧者や禿鷹や鳶がやってきて、雄羊の角を砕くようわめきます。
先の記録する者は、最後の12人の牧者たちが殺した人たちを記録した文書を開きました。
すると主の怒りが燃え上がって、主が怒りの杖を手にして大地をたたくと、地が裂けて、獣たちと鳥たちとは大地に飲み込まれた。
王座が麗しい地に設けられ(ダニエル11章16節)、羊たちの主がこれに坐り、封印された書が開かれました。7人の白い色の者が呼ばれて(トビト記12章15節参照)、堕落した星たちが連れ出され、その星たちは、裁かれて火の柱の中へ投げ込まれました。次に70人の牧者たちも「預けられた羊を勝手に殺した」ために火の谷へ投げ込まれ、また同時に、目のくらんでいた羊たち(背教のユダヤ人)も火の谷へ投げ込まれました。
生き残った全ての羊たちと動物たちと空の鳥たちは、ひれ伏して羊たちに従いました。先にわたしを引き上げた白い衣の3人が、わたしを白い羊たちの中に坐らせました。
彼らの毛は豊かで、清潔で、目の見えない者はいませんでした。
すると1匹の白い雄牛(メシア)がうまれました。
その角は巨大で、野の獣も空の鳥も恐れます。すると彼らの全ての種が変化して、いずれも白い家畜になるのを見ます(創造の初めに戻り、ユダヤ人と異邦人との区別が消える)。
その最初のものは指導者になり、大きな獣になり、真っ黒な巨大な角が生えました(90章)。
■(6)エノク書簡:91~105章(前100年頃)
ここからは知恵文学の形式に従うエノクによる教訓と諭しの書になります。
91章11~17節は、93章の後につながるほうが内容的に適切です。
したがって、93章が、91章の10節と18節との間に挟まりこむ形になります。
また、ギリシア語版では、104章は106章に続いています。
105章がどうなったか不明ですが、クムランの文書では、104章に105章が続いています。
以下この順序でまとめます。
エノクは「わたしの口の言葉に耳を傾けよ」という知恵文学の諭しのスタイルで始めます。
教えの内容は「公正を愛する」ことと「義の中を歩む」ことです。
暴虐、罪、涜神、不法がはびこっても、必ず天罰が下るからです。
その時に不法は根絶やしにされ、異教徒は火の裁きに投げ込まれるのです。
エノクはこれから「義の道と不法の道」について、また「将来起こるべきこと」について語るのです。
エノクは書物に基づいて、「義の子ら」、「この世から選ばれた者たち」、「義と公正の木」のことを語ります。それから世界の歴史を10週に分かち、各週を七つの時期に分けます。
1週目は、裁きと義がまだ行なわれていた時代で、エノクはその七日目に生まれます。
2週目は、欺瞞が生じて、最初の滅亡が訪れ、罪人に対して法が定められます。
3週目は、その終わり頃に、正義の裁きの木となる人(アブラハム)が現われます。
4週目は、その終わり頃、聖人と義人の幻が顕れ、法の囲い(モーセの律法)が定められます。
5週目は、その終わり頃に、栄光の家と王国が建てられます(イスラエル王国)。
6週目は、この時代の人たちが、皆、盲人になる時に、一人の人(エリヤ)が顕れて、王国の家は焼け、全ての者は散らされます(イスラエルの分裂と捕囚)。
7週目は、背教が起こり、義の選民は、永遠の義のひこばえ(イザヤ11章1~5節参照)から報いを受け、彼の創造について教えを受けます。
ここでエノクは、「およそ人の子の中で、聖なるお方の声をおののかずに聞ける人があろうか?」と問いかけ、霊あるいは息を見ることができるか? それについて語ることができるか? と問います。
ここからが未来に関することになります。
8週目は、この週に剣が渡され、不法を行なう者たちに正義の裁きが下り、義人は永久に残ります。
9週目は、正義の裁きが全世界に啓示されます。悪人はいなくなり、世界は滅亡すべく記録されます。
10週目に、その7期目に永遠の裁きが行なわれ、天使たちが裁かれ、先の天は姿を消して過ぎ去り、新しい天が現われます。天の力は世界を7倍明るくします(イザヤ30章26節)(91章と93章)。
学者エノクは言い残します。
時勢に心を悩ませないがよい、聖なる方は、すべてのことに日を定められた。
義人は眠りから覚めて義の道を歩むであろう。
罪は永久に暗闇に葬られ、この日から永遠に現われることはない(92章)。
エノクは、わたしの子よ(智恵文学の言い方)と呼びかけ、平和の道を歩んで繁栄の日を送るように言います。
知恵をあしざまに言い、知恵の場が見あたらないようにする者たちがいなくなることはない。
わざわいなるかな暴虐と不法を築き、欺瞞を土台として家を建てる者、わざわいなるかな、富める者、あなたたちはその富を失う。
あなたたちは涜神と暴虐を行ない、暗闇の日、裁きの日にふさわしい。
あなたたちの創造者があなたたちを覆す。
あなたたちの創造者はあなたたちの滅亡を喜ばれる(94章)。
義人たちよ、罪人を恐れるな。
わざわいなるかな、隣人に悪をもって報いるあなたたち。
わざわいなるかな、偽りの証人となるあなたたち。
わざわいなるかな、義人を迫害するあなたたち。
あなたたちは滅ぼされ、迫害される(95章)。
義人たちよ、希望を持つがよい。
罪人の艱難の日に、あなたたちの子らは鷲のように高く登る。
あなたたちは、暴虐が来ると兎のように大地の裂け目や岩の割れ目に入り込む。
癒しはあなたたちのもの。
光があなたたちを照らす。
あなたたちは、天の安らぎの声を聞く。
わざわいなるかな、富のゆえに義人のように見える者、あなたたちの良心が、あなたたちを告発する。
わざわいなるかな、良質の麦を食い、下層の者を踏みつける者。わざわいなるかな、暴虐と欺瞞を行なうあなたたち。
あなたたちの滅亡が来る。
あなたたちの裁きの日に、義人たちには幸いな日が続く(96章)。
義人たちよ、信ぜよ。
罪人は恥をかかされ、暴虐の日にあなたたちは滅びる。
義人たちの祈りが聞かれる裁きの日に、あなたたちはどうするつもりか。聖なる方の前で、あなたたちの暴虐の記録が読み上げられる。
わざわいなるかな、銀と金を不正に手に入れて、富む者たち。
「銀は集めたし、藏は満ち、家には宝がどっさり」と言うが、あなたたちは騙された。
富はあなたたちの手には残らない(97章)。
わたしは賢者と愚者に誓う。
あなたたちは男なのに女のように化粧し、若い娘のように長袖をまとい、豪華、絢爛、権勢、金銀、威厳に浸り、ごちそうを食べる。
彼らは、その財産と栄華と共に滅びる。
彼らの魂は殺戮と赤貧のうちに火に投げ込まれる。
罪は地上に送られたものではなく、人間が自分で生み出したもの。全てが天の至高者の前に記録されている。
わざわいなるかな、あなたたち愚者は、その愚かさのゆえに滅びる。
罪人に助かる見込みはない。
贖いもなく、この世を去り、死に赴く。
わざわいなるかな、心のかたくなな者、あなたたちに平安はない。わざわいなるかな、暴虐を行なう者。
あなたたちは義人の手にわたされ、首を切られ、殺される。わざわいなるかな、義人たちの艱難を喜ぶ者、あなたたちの墓は掘られない。
わざわいなるかな、義人の言葉をないがしろする者、あなたたちに救いはない(98章)。
わざわいなるかな、偽りの言葉を褒めそやすあなたたち、あなたたちは滅び、救いも幸せも来ない。わざわいなるかな、真理の言葉を曲げるあなたたち、あなたたちは永遠の掟にもとり、自分は無罪だと思うが、あなたたちは地上で踏みにじられる。
義人たちよ、その祈りを通して、天使たちの前に、彼らの罪を提出して、至高者に訴えてもらうがよい。
その時もろもろの民は動揺し、その時、親は乳飲み子を放り出し、憐れみをかけない。
罪は、流血の日に向けて備えられている。
石を拝む者、木石粘土の像を拝む者、汚れた霊、悪霊、偶像を知識によらず拝む者、彼らは理性の愚かさのゆえに不敬虔になり、恐怖の夢と幻のゆえに目がかすむ。
その時、知恵のことばを受け容れ、これを悟り、至高者の道を行ない、不敬虔な者と交わらない者は、さいわいである。
わざわいなるかな、悪を隣人に広めるあなたたち、あなたたちは黄泉で殺される。
わざわいなるかな、他人の労苦で家を建てる者、それは罪の煉瓦と石ではないか。
義人と聖者たちは、あなたたちの罪を思い起こす(99章)。
その時、父は子と共に殺され、兄弟は隣人と共に倒れる。
血は河となり、人はわが子わが孫を殺す。
罪人は自分の兄弟を殺し、明け方から日暮れまで殺し合う。
馬は胸まで罪人らの血に浸って歩む。
その日、至高者は、全ての罪人に大なる裁きを行なう。
また聖なるみ使いによって、全ての義人を護る。
その時、賢者たちは見て、この書の全ての言葉を悟る。
わざわいなるかな、義人たちを苦しめ、彼らを火で焼く罪人たち、あなたたちはその行ないに対して報復を受ける。
み使いは、天上で、太陽から、月から、また星から、あなたたちの行状と罪を調べ上げる(100章)。
あなたたち天の子らよ(堕落天使たちへの呼びかけか)、天と至高者の業を観察せよ。
彼があなたたちに怒りを発したらどうするつもりか。
あなたたちは、彼の義について不遜なことをまくしたてたから、あなたたちに平和はない。
海と水とその運動は、至高者の業である。
彼がいさめると海は畏れるが、地上のあなたたち罪人は彼を畏れない(101章)。
彼があなたたちに火の苦しみを投げつける時、あなたたちはどこへ逃れるつもりか。
全ての光は大いなる恐れのゆえに揺らぎ、全地は振動して大混乱になる。
み使いたちは命ぜられたことを成し遂げ、大いなる方から身を隠そうとする。
地の子らはふるえおののき、罪人は永遠に呪われ、彼らに平安はない。
義人よ、義のうちに死ぬその日を望むがよい。
あなたたちの魂が黄泉に下っても嘆くことはない。あなたたちの肉体は、この世でふさわしい報いを受けなかった。
罪人は「見よ、義人たちも俺たちと同じに悲嘆と暗黒のうちに死んだ」と言う。
人の衣類をはぎ取り、略奪し、罪を犯し、人生を楽しむ者、義人たちの安らかな最後を見たか。
だがあなたたちは言う。
「彼らは滅び、この世にいなかったようだ。その魂は苦しみのうちに黄泉に下った」と(102章)。
さて義人たちよ、わたしは奥義を知っている。
わたしは天の書板を見、聖者たちの書(「聖なる書」という読み方もある)を見た。
義のうちに死んだ義人たちは、その霊魂が救われて喜ぶ。
彼らの霊魂は滅びることなく、大いなるお方によって、世々代々まで覚えられる。
わざわいなるかな、あなたたち罪人よ、あなたたちの同類はこう言う。
「幸いなるかな、罪人は、彼らは天寿を全うし、幸福と富のうちに死に、悲惨や殺戮に逢わなかった。
栄誉のうちに死に、罰を被ることもなかった。」
彼らの魂は黄泉に引き下ろされ、悲惨な目に遭う。あなたたちの霊は、燃えさかる炎の中に入り、永遠の裁きが続く。
生きている義人たちと善人たちに向かってこう言え。
「われわれはあらゆる難儀を体験した。
精根尽き果て、気力も衰えた。われわれは滅びた。言葉と行ないをもってわれわれを助けてくれる者はいなかった。
救われる望みもなく、頭になるつもりがしっぽになり、難儀して働いても苦労は報われず、罪人の食い物にされ、乱暴者はわれわれの軛を重くした。
われわれは、自分を憎む者に頭を下げたが、彼らは情けをかけてくれなかった。
彼らから逃れたいと思っても、逃れる先がなかった。
悲惨の中から訴えても、訴えは無視され、われわれの声を聞いてくれる者はいなかった」(104章)。
義人たちよ、わたしはあなたがたに誓う。
あなたたちの名は、大いなる方の前で、覚えられている。
あなたたちの名は、栄光のまえに書きとめられている。
あなたたちは空の光のように輝き、みんなの前に姿を顕わし、天の門は、あなたたちのために開く。
あなたたちの叫びを、裁きを求め続けよ。
それはきっと実現する。
希望を持て。
希望を捨てるな。
あなたたちはみ使いたちのような大きな喜びに浸る。
義人たちよ、罪人が威勢をよくしても恐れるな。
彼らの不法から遠ざかれ。
天の軍勢にくみせよ。罪人たちの罪はすべて毎日記録されている。
心の中で不義を犯すな。
嘘をつくな。
真理の言葉を変えるな。
聖なる大いなるお方の言葉を虚偽だと言うな。
義人たちと賢者たちには、書が与えられ、喜びと真理と豊かな知恵のもととなるであろう(104章)。
その時、地の子らを呼び寄せて、知恵について教え聞かせてやるがよい。
あなたたちは彼らの道案内ではないか。
わたしとわたしの子らは、真理の道において、永久に彼らと一体となる。
あなたたちには平安がある。喜べ、真理の子らよ。アーメン(105章)。
■(7)ノアの誕生:106~107章
エノクの子メトセラは、その子ラメクに嫁をとってやった。
男子が生まれたが、体は雪のように白く、またバラのように赤く、髪の毛は羊毛のように白く、眼は美しく、目を開けるとそれらは太陽のように照らした。
そこで天にいる先祖エノクに、この子はどんな子かを尋ねると、エノクはこう答えた。
「主は地上に新しいことをなさろうとしている。
天使の中のある者たちは主の言葉に背いた。
彼らは女たちと交わり、霊のものではない肉の巨人を産むだろう。
地上に滅亡が臨み、大洪水が起こる。
しかしその子は、彼の3人の子と共に助かる。その子をノアと名付けよ」(106章)(107章もほぼ同じ内容)。
■(8)エピローグ:108章
エノクが、終わりの時に掟を守る者たちのために著わした別の書。
悪をなす者どもが消される日を待ち望むあなたがたに告げる。
悪をなす者の名前は、聖者たちの書から削られる。
彼らの霊魂は、赤々と燃える炎の中で叫び、泣き、激しく苦悩する。
しかし、天にその名前が記されている者たちは、悪人に辱められた霊魂で、彼らは神を愛して、この世のよいものを愛さず、その体を拷問に委ね、自分を過ぎ去る風と見なした。主は彼らを様々な試練に逢わせたが、その霊魂の浄さは証明された。
現世での命よりも天を愛する者であることが分かった。
主は彼らを輝く光の中へ導き出し、一人一人を栄誉の座に坐らせる。
彼らはいつまでも燦然と輝くであろう。
義人たちが輝く一方で、闇の中に生まれた者が闇の中に投げ込まれるのを見るであろう。
彼らは、その処罰の日と時とが書き記されている場所へ立ち去る(108章)。