☆第十四章 北アイルランド | imaga114のブログ

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宮崎正弘氏の情報ですが、新たな連載が始まったので転載します。

知らない世界を文章で知る

 

 

第三部 暴走老人、地球の裏側へ(その14)

第十四章 北アイルランド

 ▼名物は牧畜と蒸留ウィスキー。世界中から飲んべえの観光客が結

 アイルランドは南北を問わず古代からのケルトの文化、文明が色濃く残る。

 

キリスト以前に自然崇拝の土着的信仰があり、輪廻転生がひろく信じられていた。

 

 その地盤のうえにキリスト教が重なったため独自のクロスの十字架、ユニークな宗教解釈が積み重なった。

 

マリア信仰が稀薄なのが特徴的である。

 

 

 

それなら北アイルランドとアイルランドは、いったい何が違うのか

 

 現地ですぐに差違が認識できるのは通用する通貨だ。

 

北アイルランドでは英国ポンド、アイルランド共和国はユーロと、決定的な差である。

 

 

 宗教はおなじキリスト教だが、前者はプロテスタント系、後者はカソリックという違いも重要な区分けである。

 

文化的にケルトの伝統が色濃く残り、牧畜と農業が主体であり、国民はビール好き、ウィスキー大好きというあたりは両国に区別がない。

 

 

 ケルト民族は古代に中央アジアからおこり、東へ渡ったのが縄文時代を北日本に築き、西へ流れた集団もローマに追われ、グレートブレテン島へ膠着したとされる説がある。

 スコットランドやウェールズにも我が国の縄文文明と比較される遺跡が夥しい。

 

とりわけストーン・ヘンジやストーン・サークルは縄文時代の日本人の信仰に酷似している。

 

 すなわち「物理的な生産活動ではなく心理的な精神活動のために働く建造物を生み出す」(松本武彦『縄文とケルト』、ちくま新書)

 

 

 さて筆者は最も近道となるロンドン乗換の航空券を手配したところ満員。しかたなくアムステルダム経由となった。

 

 オランダのスキポール空港で乗り換え待ちが五時間。

 

すぐの便が満席だったので致し方なく、ラウンジでビールを飲みながら日本から持参した新書を読んで過ごした。

 

ビールはハイネッケンだけ。

 

ワインは安物しか置いてない。

 

 このラウンジには意外なことに台湾の自由時報、工商時報などが置いてあって、台湾の利用客が多い事態をあらわしている。日本語の新聞はなかった。

 

 アムステルダムからダブリンへ飛ぶ。僅か一時間半。東京から鹿児島の距離だ。

 

ここからバスで三時間かけて、北アイルランドの首都ベルファストにはいった。

 

ホテルに旅装を解いたのは午前一時だった。

 

 

 

 ベルファストと言えば年配者にとって「爆弾テロ多発地区」の記憶が甦るだろう。

 

 とくに東ベルファストはビクトリア通りのオペラ座と隣のヨーロッパホテルが狙われた。殺風景な、荒廃した街だった。

 

 IRA(過激武装集団)との和平が成立し(1998年、ベルファスト合意)、すっかり治安が回復すると、ベルファストの再建が急ピッチで進められた。

 

いまでは「テロがあったって、本当?」というほど落ち着いた街である。

 

 

 

 ベルファストの中心は市庁舎で、古めかしくも、いかめしい白亜の殿堂という風情を誇り、一偶に「タイタニック号」の記念碑が建っている。

 

 タイタニックはサザンプトンを出港した筈だから「何故?」と訝しんだ。

 

すぐに了解できたのはタイタニックはベルファストで建造されたのだ。

 

ベルファストは造船業が栄えるという意味で愛媛県の今治と似ている?

 

 

 

 

 

▼「テロがあったって、本当?」というほど落ち着いた街に様変わ

 そういえば北アイルランドと日本の姉妹都市はないが、鎌倉市に「日本ブッシュミル協会」があって、毎年、ベルファストの北郊外にあるブッシュミルの桜祭りに参加している。

 

 そこで筆者もブッシュミルを訪問した。

 

バスで一時間半ほど。スコッチと並ぶ蒸留酒はアイリッシュ・ウィスキーだ。

 

 

 その一つ、ブッシュミル工場で大麦の醸造から次の工程が蒸留、つまりビールからウィスキーへの変化の工程を見学した。

 

葡萄を醸造すればワイン、それもさらに蒸留し直すとブランディになるように、ビールが蒸留されるとウィスキーになる。

 

 

 

 驚いたのは世界中から工場見学のツアーがあることだった。

 

そういえば観光ブームに沸く欧州でも二・三倍増の観光客増が北アイルランドを訪問した。

 

 試飲したウィスキーはまろやか、琥珀色の酒色は格別の味だ。

 

 サントリーがウィスキー生産を2割増やしたほど日本でもブームが起きている。

 

本場のアイリッシュ・ウィスキーも俄然人気沸騰で、日本では品薄だという。

 

新幹線で帰京するときは「響」や「余市」のポケット瓶を飲むこともあるが、日本では「白洲」が品切れと聞く。

 

 ブッシュミルのブランドを誇る工場では樫の木の樽、芳しいアルコールの薫り、陳列には5年、10年、20年と寝かせた原液の展示もあって、「一年に2%蒸発するので、年期が重なるほど味が濃厚になるのです」とウィスキー好きのガイド嬢が説明した。

 

 

 見学が終わると敷地内のパブへ。ここで世界中からの賓客の写真パネルを見ながら、3年物、5年物、10年物のうちから一種、試飲ができる。

 

もちろん10年物にトライした。なみなみとコップに注がれたので、隣の売店でクラッカーを買いサイドウォーターと共にコップを干した。ブッシュミル・ウィスキーの小瓶が土産だった。

 

外に出ると寒さを吹き飛ばすほどに身体が温まっていた。

 

 

 次に北のジャイアンツ・コーズウェイという名勝地へ足を運んだ。

 

ベルファストから三時間のバスの旅だ。

 

 途中、ダークヘッジスという景勝地があって、最近テレビ映画のヒットにより降って湧いたように観光客であふれ出した。

韓流ドラマのロケ地・北海道の辺鄙な場所にどっと外国人観光客があふれ出したように。

 

 

 こんもりと木の陰に日光が隠れ、暗いユートビアのような、鬱蒼とした印象を抱いた。荒涼とした風景はブロンデの『嵐が丘』の舞台のようだ。

 

 英国人、アイルランド人の次に多いのは西欧からのツアーだが、ここでもダントツに目立つのは中国人である。お喋りと一眼レフ。大股で歩くからすぐに識別ができる。 

 

  ジャイアンツ・コーズウェイというのは奇岩と大岩の畳が自然現象で産まれた海岸の?一帯を指し、世界遺産として登録されているのは六角形の石柱群だ。

 

乗り入れはエコバスだけで、殆どの観光客はかなりの距離を歩く。

 

ここへは鉄道も繋がっているが、もっぱら観光用。オフシーズンには予約しないと運行休止である。

 

 コーズウェイには古城、要塞が随所にあり、断崖絶壁に建てられている。

 

その設計思想はバイキングの攻撃を追い返す軍事要塞であり、一番有名なのがダンルース城だ。

 

 

 

 

 ▼ガリバー旅行記の初版本は、ここにある

 アーマーという古都がある。

 

 ここがアルスター神話の舞台である。

 

この神話はケルト民族の勇敢なる戦士たちを称える物語が多く、伝承文学の一種だ。

 

 アーマーには「聖パトリック教会」が二つあってミニ・ダブリンのような風情。

 

メインストリートには陶磁器、家具、スーパー、眼鏡屋、アイスクリーム、ネットカフェとそれぞれが特有のインテリアを誇示している。

 

 

 「聖パトリック」は実在の人物で建国の父として尊敬されている。

 

 ぶらぶら町歩きしていても飽きない。

 

 小さな街なので、二回メインストリートを往復し、スーパーでじっくりとアイリッシュウィスキーの土産を選んだ。

 

 

 

 二つの「聖パトリック教会」のうち、アイルランド教会のほうは西暦445年に聖パトリック自らが石つくりの教会を工事した。

 

十三世紀になってゴジック・スタイルに改装された。緩やかな坂の上にあっていかめしく聳え、街を見下ろしている。

 

 もうひとつの聖パトリック教会はカトリックで、規模も大きく、尖塔が二本。

 

 入り口には多くの聖人の彫刻があり、前庭も広い。

 

おりからミサをやっていて地元のひとたちが静かに集まってくる。

 

老人が多いのも、若者たちは都会へ出るか、外国へ出稼ぎに行ってしまったからなのだろう。

 

アーマー市も過疎なのである。

 

 

 カトリック教会のほうは百年もかけて建造された。

 

途中、大飢饉があって資金が途切れ、ようやく1904年に完成した。

 

 北アイルランドの大飢饉ではジャガイモさえ払底し夥しい餓死者がでた。

 

生き延びた多くの困窮者は、心機一転、移民となってアメリカ大陸へ渡った。

 

当時のアメリカは安い労働者としてアイルランド系を歓迎した。

 

 

 

 そのあとドッとやってきたシナ人クーリーのほうが低賃金だったため、職を奪われ、かれらが反漢、そして反日運動の原動力となった

 

アメリカでは当初、アイリッシュ移民は英独仏系移民から差別を受けていた。

 

 街には古い図書館(アーマー図書館)があり、そこにスイフト『ガリバー旅行記』の初版本が展示されている。

 

同市は天文台でも有名だが、見学する時間がなかった。

 

 北アイルランドは政治的にはいま珍しく静謐に囲まれている。

 

けれども英国の構成国である以上、EU離脱後の波乱に備えていた