"You'll be travelling all over the world to find your right guy" (あなた、運命の人に出会うために、世界中を旅することになるわ)


2010年、AustraliaのSydneyにスーツケース一つで降り立った私は、インターネットで見つけた、週100ドルで貸してくれるというElizabethというおばあちゃんのお宅のお部屋になんとか辿り着いた。携帯もない、地図に描かれてるのか分からない道をくねくね走るバスの中で、どんなに不安だったか、自分が5歳の子供になった様で、地図と窓の外の道を交互に一生懸命見たことを、今でもよく覚えている。

出発地点のシティ中心部から、North Sydneyと呼ばれる目的地に着くには、あのSydney Harbour Bridgeを渡る必要があって、大きな橋を走るバスからの眺めは、右手にOpera House、きらきらと東京よりもずっと眩しい太陽の光に照らされた青に輝く海が見えて、美しくて綺麗で息を飲んだ。嬉しくて、わぁっと小さく声をあげた。
ここが、私の来たかった場所

これから何が起こるかどうなるか分からない不安を、あの時初めて見たHourbor Bridgeからの眺めは私をあたたかく包んで、すっと消してくれた。

この日から私は約3年、Sydneyに住むことになるけれど、この後のどの日よりもこの日のBridgeからの眺めが一番美しかった。

眺めに勇気づけられて気を取り直した私は、隣に座っていたマダムに、この住所に行きたい、住所に一番近いWoolworthというSupermarketで停まるバス停を教えて欲しいと伝えて、どうにか目指していたバス停で降りた。バス停まで迎えに行くから!と電話で約束してくれたElizabethらしい人はすぐに分かった。白髪のショートヘアーのおばあちゃん。

「ごめんね、膝がわるいからここまでしか来られなかったわ!」

話す口調はバスで助けてくれたマダムよりもずっとゆっくりで、それが彼女の年齢を思わせた。私が辿り着けるかすごく心配していてくれたことが伝わって、それから膝が痛いのにわるかったなぁと思い私はごめんなさい、本当にありがとうと伝えた。

足を少しかばいながらElizabethは私を、バス停から数分のHayberry Street 19番のお家に案内してくれた。感じのいい、一階建てのピンクがかったレンガのお家。今はもういないPuppyというグレーの猫がその日は玄関で待っていた。

Puppyに挨拶を済ませて中に入ると、私はむかしおとぎ話か夢に見た、深いピンク色の壁にデッサンや油絵が飾られた、木のお家に心奪われていた。


すてき!


アンティーク調のランプが数個、程良い距離感で置いてあって、バラ模様の薄いピンクのソファーが主役のリビング。座って、と言われて夢心地で座りながら壁にかけられた作品たちに見入った。「わたしが描いたの」Elizabethが教えてくれた。自慢するわけでない、でも確かに自分のした仕事に誇りがあると彼女の瞳が言っている気がした。

隣のベッドルームは別の子が使っていて、空いてるのはこのお部屋、と言ってElizabethはリビングの角の小さなドアを開けた。むかし絵を描くのに使っていたんだけどと言って、4畳半くらいの小さいのだけど、かわいらしい、異様に背の高いデッサン用の作業机とマットレスしかない部屋を見せてくれた。

私のSydneyのお家が決まった。青いChina fineのお皿とティーカップが飾られたキッチン、キッチンの裏口からはElizabethが大切に育てている十数種類のハーブやお花溢れる、丁寧にお手入れはされているけれど自然に作られたと思わせる居心地のいいお庭。

私、ここでもとの私に戻れるのかな。

今滞在しているホテルが今週末までだから来週から入りたいと伝えて、ひとりバス停に戻った時は既に外は暗くなりかけていて、どれだけ長い間Elizabethのお家の魔法にかかっていたんだろうとバスを待ちながら浸った。