Elizabethの家での生活が始まった。Elizabethの家にはインターネットがなかったから、実際会話をするのはTVを見ていないときのElizabethか、隣の部屋に住んでいるBinneyという女の子だった。

BinneyにはElizabethの家に越した日に挨拶したのだと思う。Nepalから来たBinneyは、国の教育プログラムの一環か何かで今はcollegeに通っているらしい。ものすごいインド訛り、というかNepal訛りでこれまたものすごいスピードで話す。言いたいことがすらすら出てこない私をいじらしく思ったのか、「こういう意味?」「こういうこと?」とますます私は話せない。あまりにも頼りなく思ったらしく、その時28の私のことを後で聞いたところ、18、19だと思ったらしい。

当のBinneyは深い掘りの顔だちに大きな瞳、細かな黒の肩下までのカーリーヘア、背丈は私と同じくらいで小柄だった。しっかりした子という印象だったが、直感で、私より年下なのはすぐに分かった。Binneyが私を年下だと思ってるのも私たちのやりとりから明らかだった。

出会って一週間くらいでお互いの歳を知るのだが、私が28と言うと、これ以上驚けないというくらいに大きな瞳を更に見開いて、また年下扱いしてごめん!という気持ちも見てとれて、なんだか私頼りなくてごめん、とこちらが少し反省した。「Binneyは?」と聞くと、23歳、と答えて、でもまだ私を信じられないと言った様子で驚いたまま見つめていた。

シティ中心部より南に位置するBondi Beach近くにある家に引っ越すことになるまでElizabethの家には半年ほど住んだ。その半年の間Binneyと一緒に住んだのはたった1、2ヶ月だったと思う。はっきりした物言いと態度が歳をとったおばあちゃんElizabethには少し強すぎて、ある日二人は言い合いになって、Binneyは追い出されてしまった。

彼女が追い出されてしまう一週間くらい前に、一緒に料理をしながら「Binneyって23だったよね?」と聞いたら「うん、23か、24」という答えが返ってきた。どういう意味?と聞くと、「出生届けなんて出したのか出してないのか、ママだって記憶が定かじゃないの、23年前のことか24前のことか」え、どういう意味?!「私のママは私が生まれそうになって馬だっけ牛だったか、が引く台に運ばれて先生のとこまで行ったの」「荷台?馬車ってこと?!」私は初めてBinneyが育った、Nepalのヒマラヤ山脈に近い方と彼女が説明するその村が頭に描かれた。私の全く知らない世界。「女の子が外を歩くなんて論外、こんな格好(といってノースリーブの黒のトップスに黒のスキニージーンズを指差して)なんて誰もしてないわ」と教えてくれた。

一度Binneyに「何かで成功したいと思う?」というような質問をしたことがある。彼女は考える間もなく、こう答えた。「私はNepalからここに来た。それが私にとってはすでに成功。だから私は成功したんだと思ってる。」collegeに通いながら、美容院のアシスタントとマクドナルドのアルバイトで稼いだお金を毎月Nepalの家族に送るBinneyは、どの点をとっても私よりずっとmatureだった。彼女の前でやっぱり私は、彼女の感じた通りせいぜい18か19だった。

Binneyが追い出されて寂しくなったが、彼女とは外で頻繁に会った。「あの子は一人で死ぬほどさみしいんだから!」と当時のBinneyのボーイフレンドと会うときにBinneyは私を連れて行った。実際そんなにさみしかったわけじゃなかったけど、後でボーイフレンドに前もってそう伝えていたことを知って、私はBinneyが私の親友になっていくんだと感じた。

ある日Binneyが「未来を観てくれるって!」と言って半ば強引に、私を彼女の働く美容院が入っている地元のショッピングモール近くの占いに連れて行ってくれた。といっても私は乗り気でなくて、バスの中で「まだ着かないの?」とふてくされていた。Binneyは付き合っているボーイフレンドのことを聞くつもりだったから、そわそわして、一人では行く勇気がなくてだから私を誘っていた。

占い、と思って向かった場所は占いという響きには似合わない、なんとも素敵な、感じの良さそうな黒髪のストレートボブの女性が私たちを迎えた。

ここで初めて私はヒーリング、スピリチュアルという世界に触れることになる。

Binneyの番が終わって、私はひとりそのオーストラリア人の女性の前に座った。Sydneyに来たばかりで仕事を探したいんだけど、とあまり相談する内容を決めて来なかったので、これだけ聞ければいいかと他には何も聞くつもりがなかった。彼女は、私の興味のあった、ギャラリーの仕事はいいわよ、と言って彼女の知っているギャラリーを教えてくれた。それに満足している私に彼女は急に、こう尋ねた。



「貴方のためにドアを開けたり閉めたりしている、このジェントルマンは誰?」