キャリー
1976年 アメリカ映画
監督 ブライアン・デ・パルマ
脚本 ローレンス・D・コーエン
原作 スティーヴン・キング
出演 シシー・スペイセク
パイパー・ローリー
クラスメイトからいじめを受けていたキャリーは、とうとうプロムの夜に怒りと悲しみの念動力を発動します。
⚫︎あらすじ
女子高生キャリーは、内気な性格と冴えない容姿から学校で激しいいじめを受けていた
家庭では狂信的なキリスト教徒の母親から厳しく監視され、学校にも家にも居場所のない孤独な日々を送っていた
ある日、彼女は強い怒りや不安を感じると、周囲の物を触れずに動かせる念動力(テレキネシス)が自分に備わっていることに気がつく
そんな中、いじめを反省したクラスメイトの計らいにより、キャリーは学校の卒業ダンスパーティー「プロム」に誘われる
母親の反対を押し切り、美しいドレス姿で参加したキャリーは、奇跡的にプロムの女王(クイーン)に選ばれ、人生最高の幸福を味わう
しかし、それさえもいじめっ子が仕組んだ残酷な罠だった
華やかなステージの上で、キャリーは頭上から大量の豚の血を浴びせられ、会場中の笑い者にされてしまう
絶望と怒りが頂点に達したキャリーは、ついに秘められた超能力を完全に暴走させる
体育館の扉を閉ざし、炎と念動力を駆使して、いじめっ子や教師、同級生たちを次々と血祭りにあげていく
学校を地獄絵図へと変えたキャリーは自宅へ戻るが、狂乱した母親に襲われ、最期は母親を巻き込みながら家ごと崩壊し、悲劇的な結末を迎えてしまう
⚫︎感想
「キャリー」はオカルト映画だと認識していました。ですが実際は、周りに居る意地悪な女生徒たちのほうが、よっぽど怖い存在でした。
純粋で何も経験の無いキャリーは、他の誰よりも無垢で美しい女生徒に見えました。
高校生で初潮を迎えたキャリーは、シャワー中に血が流れ出し驚いてしまいます。
そんなキャリーをクラスメイトたちは馬鹿にしながら生理用品を投げつけます。
それを止めた先生がクラスメイトたちを叱り、罰を与えたことで、ますますキャリーをイジメようとエスカレートしていくんです。
最後にはキャリーの悲しみと怒りが爆発して、体育館内でテレキネシスが起きてしまいます。
⚫︎超能力少女キャリー
キャリーはオバケでも、凶悪でも無く、普通の可愛い女の子です。ただ、母親に性的なものを全て邪悪だと育てられました。そのため友達も無く孤立を深めていました。
⚫︎意地の悪い同級生のクリス
スクールカースト最上位のクリスは本当に意地悪で嫌なヤツです。でも確かに美しいんです。実際、彼女はこの作品の後に監督と結婚をしています。クリス役のナンシー・アレンはロボコップの相棒役アン・ルイスです。
クリスの彼氏のビリーは後に大ヒット映画「サタデーナイトフィーバー」のジョン・トラボルタです。
⚫︎キリスト教に取り憑かれた母親
キャリーの母親は、キャリーが反抗すると、狭く暗い物置に閉じ込めてしまいます。母親は、すべての出来事を罪や悪魔と結びつけ、苦痛を与えることで魂が救われると本気で信じているんです。
⚫︎過激なキリスト教原理主義
ファンダメンタリズムは、日本では原理主義と訳されていますが、Fundamental「根本的な・基礎的な・土台となる」+ -ism「〜主義・〜の教え」で、根本的な教えを厳格に守ることを信じて一歩も譲らない人です。そういう人がアメリカにはいるということです。
一般的なキリスト教徒は、聖書を「現代の視点に合わせて解釈する」か「比喩(たとえ話)」として捉えることが多いですが、原理主義者は「神は6日間で世界を作った」という記述を、比喩ではなく「本当に24時間×6日間で地球が誕生した」と信じています。そのため、学校で教える「進化論」を悪魔の嘘だとして激しく否定します。
この動きは、19世紀末から20世紀初頭のアメリカで生まれました。急速に進む近代化、科学の発達、都市化に対して危機感を抱いた一部のキリスト教徒たちが「もう一度キリスト教の根本に立ち返ろう」と声をあげたのが名前の由来です。
過激な原理主義は、元々は「信仰を純粋に守ろう」とする真面目な動きでしたが、それが社会への敵意や、家庭内での極端な抑圧(虐待)に繋がってしまった時、映画で描かれたような逃げ場のない日常の恐怖へと変貌していきます。
⚫︎原作者スティーブンキングの実体験
キングは学生時代、周囲から完全に孤立していた2人の同級生の女の子がいたそうです。
1人は、いつも同じ古着ばかり着ていたため、学校中で容赦ないいじめを受けている貧しい女の子がいました。彼女はあまりの苦痛から、わずか14歳の若さで自ら命を絶ってしまいました。
もう1人は、狂信的な母親に育てられた女の子でした。彼女の家のリビングにはもし落ちたら死んでしまう巨大な十字架が飾られていて、彼女は母親から厳しく性を禁じられて育ちました。この少女も、若くして病気で亡くなっています。
⚫︎1970年オカルトブーム
1973年に少女に悪魔が取り憑く「エクソシスト」が公開され、世界中で社会現象となる大ヒットを記録しました。これにより、それまでB級映画扱いされることが多かったホラー映画が一流のエンターテインメントへと格上げされました。そして1976年の「キャリー」、「オーメン」へ続いていきます。
また1974年の超能力者ユリ・ゲラーブームもあり超常現象が流行りました。しかし後にスプーン曲げはトリックだったとわかりました。
⚫︎性の解放
アメリカには厳格にキリスト教の教えを守る人たちが10%〜15%ほど存在します。しかしその反動で1960年代から70年代にかけてアメリカで「性の解放」が起きました。
それまでの抑圧が強烈だったからこそ、振り子が逆側に大きく振れるように、若者たちの爆発的なムーブメントへと繋がっていきます。タブー視されていた性的な描写が、ハリウッド映画や音楽、そして雑誌プレイボーイなどで一気にオープンになりました。
⚫︎アメリカのセックス文化
アメリカには、日本のような「告白して、付き合ってから手を繋ぐ」という一律の順番がありません。
複数回デートを重ねてお互いの相性(肉体的な相性)を確かめ合い、その後に初めて「正式にお付き合いしましょう」と合意する「デーティング」という期間があります。
映画の中で、まだ付き合っているか分からない男女がベッドを共にするのは、アメリカ人にとっては相性を確かめ合っている、ごく一般的な大人のデートのプロセスを描いているに過ぎないのです。
映画「キャリー」は、オカルトブーム、キリスト教原理主義、スクールカースト、プロム、性の解放などが詰まった作品でした。
1950年代までのアメリカは「性=隠さなければいけないもの、汚らわしいもの」という強烈なブレーキを踏み続けていました。
しかし1960年代にそのブレーキが壊れて「性の解放」が一気に進みました。
そしてその反動が振り子のように戻って来て、現在では中絶を全面的に禁止(レイプによる妊娠であっても認めないなど)する法律が次々と復活していたり、性教育の本、LGBTQ+を扱った小説、人権問題を扱った本などが図書室から撤去される事態になっています。



