PERFECT DAYS


2023年 日本・ドイツ合作映画

監督 ヴィム・ヴェンダース

脚本 ヴィム・ヴェンダース

出演 役所広司



⚫︎あらすじ


東京・渋谷で公衆トイレの清掃員として働く平山は、スカイツリーの見える古いアパートで1人静かに暮らしている


彼の毎日は、夜明けとともに目覚め、同じ手順で仕事へ向かうという淡々としたルーティン


一見すると退屈な毎日に見えるが、平山は日々の生活の中に常に新鮮な喜びを見出している


仕事の合間に、大好きな木漏れ日を古いフィルムカメラで写真に収め、車内ではお気に入りのカセットテープで70〜80年代の洋楽を聴き、夜は古本屋で買った文庫本を読むことが、彼の何よりの楽しみ


そんなある日、家出した姪のニコが突然平山のもとを訪ねてくる


この居候をきっかけに、それまで語られることのなかった平山の複雑な家族関係や、かつて恵まれた境遇にありながら自らこの質素な生き方を選んだという過去が、少しずつ浮き彫りになっていく


劇的な事件が起きることもなく、風変わりな同僚や馴染みのスナックのママなど、他者とのささやかな交流や予期せぬ再会を通じて、平山の平穏な日常に小さな揺らぎが生まれる


それでも平山は、昨日と変わらない今日を愛おしみ、また新しい朝を迎える





⚫︎感想


役所広司主演、トイレ掃除が仕事の人の日常を描いた作品です。


毎日規則正しい生活を送り、無口でほとんど話しません。最初のうちは話せない人かと思ったぐらいです。


朝の薄暗い時に起き、布団をたたみ、歯をみがいて、ヒゲを整えます。盆栽に水をやり、自動販売機で缶コーヒー(BOSS)を飲んで、軽自動車で走りながら、お気に入りのカセットで音楽を聞きます。


あぁ、このキチンとした繰り返しがパーフェクト・デイズなのか…と、思いながら、特に変わったこともなく淡々と映像が流れていきます。


監督が上手いのか?役所広司の演技が上手いのか?なんでもない日常なのにずっと見てしまう、見たくなる、そんな映画でした。


そんな、なんでもない日常にも、ちょっとした楽しみがあるんです。


好きな音楽を聴く、好きな本を読む、木洩れ陽の写真を撮る、撮った写真を現像して仕分ける、盆栽に水をやる。

まだまだあります。


銭湯に行ってさっぱりする、浅草駅地下の行きつけの飲み屋で一杯やる、休みの日にはお気に入りのママのいるスナックで呑む。


そんな規則正しい生活を送る主人公にも、周りの人から勝手に変化がやってきます。


同僚の人の恋愛のために金を貸したり、姪が突然家出して家に来てしまったり、お気に入りのママの元旦那に会ってしまったりします。


浅草近くで撮影しているので、スカイツリーも出てくるし、東京の色々なトイレが映ります。


トイレ掃除の映像が映りますが、どこのトイレも清潔です。


それは平山のような人がいてくれるからなんだと知りました。


平山は、今朝も空を見上げて薄っすら笑みを浮かべます。


「さぁ今日もはじまるな…」なぁんて思えるようになる、そしてきちんとした生活をしたくなる、不思議な魅力をもった映画です♪



⚫︎ニコお気に入りの本

パトリシア・ハイスミスの短編集「11の物語」の中にある「すっぽん」。

ある日、母親が生きたすっぽんを買って帰ってきます。11歳の少年・ヴィクターは自分へのペットだと思って大喜びしますが、実は来客用のシチューの食材でした。ヴィクターが必死に止めるのも聞かず、母親は目の前で生きたすっぽんを熱湯の鍋に放り込み、残酷に解体してしまいます。自分の心(主体性や大切なもの)を無視され、踏みにじられたと感じたヴィクターは、その夜、激しい怒りと絶望から台所の包丁で母親を刺し殺してしまいます。


ニコは平山の妹の娘です。平山の実家は裕福で厳格な家だと想像できます。そこから逃げ出した兄・平山と、兄の代わりに家を継いだ妹。ニコは「ヴィクターの気持ちがわかる」と言って、叔父の平山のところへ助けを求めに来ていたんですね…。


パトリシア・ハイスミス原作映画↓



⚫︎平山は日常を楽しむ

平山はちょっとした日常を楽しむ名人です。トイレに残された丸バツの紙に気が付き、×を描き込みそっともどしておきます。すると次に掃除に来た時には新しい○が描き込んであります。

神社でランチする時も、木漏れ日の写真を撮ったり、小さなモミジの苗木を見つけて持ち帰って育てます。


なんだか、もっと日常に幸せを見つけることができる人になりたいと思ってしまいます。



⚫︎平山の時代、若い人の時代

平山の同僚の若いタカシは適当に仕事をします。そんなタカシに文句も言わずに、ただ一生懸命に働く姿を見せる平山。タカシの好きなキャバ嬢のアヤは平山の聞くカセットの音楽に興味を持ちます…。タカシは平山のカセットを高値で売って金を作ろうと持ちかけます。


若い世代が見たことのないカセットテープ、平山が知らないSpotify、どの時代にもその時代のいいモノがあるんですねぇ。



⚫︎幸田文(こうだあや)の「木」

幸田文が晩年に日本各地の「会いたい木」を目指して北へ南へと旅をし、その樹木たちと対峙した経験を綴ったものです。屋久島の縄文杉、崩れ落ちそうな崖に力強く根を張る木、倒木から新たに芽吹くエゾ松など、さまざまな木の姿が描かれています。

木は、古い葉を落としながらも、毎日少しずつ変化し、新しい芽を吹かせます。それは「毎日同じルーティンを繰り返しているようで、一日として同じ日はなく、今を新鮮に生きている」という平山のライフスタイルそのものです。


幸田文は幸田露伴の娘です。幸田文の「おとうと」は、自身の弟をモデルに、姉と破滅的な性格の弟との葛藤や愛情を描いた自伝的小説で、映画化もされました↓



⚫︎こんどはこんど、いまはいま

平山が姪のニコに言ったことばです。私たちは「次(未来)はどうなるか」を不安に思ったり、「あの時(過去)は良かった」と後悔したりしがちです。

しかし平山は、先のことをあれこれ心配せず、今、目の前にある瞬間を楽しみ、丁寧に生きています。


過去の出来事や育ちなんか考えても仕方ない、そしてまだ先のことを心配しても仕方ない…。

「こんどはこんど、いまはいま」ですね。