黒の試走車(テストカー)
1962年 日本映画
監督 増村保造(ますむらやすぞう)
脚本 舟橋和郎(ふなはしかずお)
原作 梶山季之(かじやまとしゆき)
出演 田宮二郎
叶順子
高松英郎
産業スパイという言葉を世に広めた梶山季之のベストセラー小説が原作であり、組織の歯車として生きるサラリーマンの悲哀と執念を鋭くえぐり出した作品
⚫︎あらすじ
中堅自動車メーカー「タイガー自動車」は、起死回生をかけた新型スポーツカー「パイオニア」の開発に社運を賭けていた
しかし、極秘に進めていた走行テスト中に試走車が炎上事故を起こし、その事実がなぜかライバル企業「ヤマト自動車」に筒抜けになってしまう
タイガーの企画室員・朝比奈(田宮二郎)は、上司・小野田(高松英郎)の指示でヤマト側の動向を探るスパイ活動を開始する
朝比奈は私生活や恋人・昌子(叶順子)さえも利用し、手段を選ばず情報の奪取を試みる
一方ヤマト側も巧妙な罠を仕掛け、両社の暗闘は次第に狂気を帯びた泥沼の争いへと発展していく
一分一秒を争う新車発売日の前倒し競争、巨額の賄賂、そして情報の売り込み
サラリーマンとしての忠誠心と倫理観の間で葛藤しながらも、勝利のために非情な決断を繰り返す男たちの物語
⚫︎感想
産業スパイの話でした
敵対する自動車会社の秘密情報を盗み合う話です
情報を盗むためには手段を選びません
自分の婚約者を、敵対する会社の社長とベットを共にさせて情報を盗んだりもするんです
たぶんニッサンとトヨタのような雰囲気が出ていました
スポーツカーを売りたい会社…ニッサンを連想してしまいます
ライバル大手企業の車名はマイペット…
絶対トヨペットでしょう!(調べてみるとタイガー自動車は後に日産と一緒になったプリンス自動車らしいです)
どちらの会社にもスパイが居て、もと満州にいた関東軍の兵士なんです
秘密を盗んだり、同僚の社員を疑って、監禁して殴って自白させたりします
敗戦後、飛行機を作ってはいけないと言われた日本では熾烈な車の開発競争があったんでしょうねぇ
⚫︎戦後は企業戦士と呼ばれていた
今は「すぐ辞める」、上司に何か言われたら「パワハラ」だの「コンプライアンス」だの言ってすぐに訴えられる時代です
でも戦後の日本人は違いました
24時間、寝る間も惜しんで「働いて働いて働いた」んです
どこかで聞いたようなフレーズですが、その言葉は堕落した日本人が、もう一度奮起して経済を立て直そうと国民を鼓舞しているようにも聞こえます
⚫︎関東軍あがりの会社員
小野田は、ビジネスを「戦争」と捉えています。関東軍参謀として培った「目的のためには手段を選ばず、多少の犠牲は厭わない」という冷徹なロジックをそのまま企業間抗争に持ち込みます
彼は、新車開発の情報を守り、敵の情報を奪うために、部下である朝比奈にスパイ活動を命じます。その際、個人の倫理や感情よりも「組織(会社)の勝利」を絶対視する姿勢が、戦時中の軍部を彷彿とさせます
1962年当時の日本社会には、戦時中に重要なポストにいた人物が戦後、企業の幹部として経済成長を牽引していた現実がありました
映画はこの「軍隊的な組織の論理」が、そのまま戦後の企業社会にスライドした怖さを描き出しています
関東軍といえば、満州事変を起こし、日本政府の意見を聞かずに満州に傀儡国家を作りました
そういう強硬な手段が昭和の企業戦士たちによって行われていたのでしょう
“産業スパイ”が当たり前のように活躍していたんでしょうね
でも現在はAIを使ってもっと巧妙に諜報活動が行われているんです
先日のアサヒビールに対するサイバー攻撃などもその一つだと思います
⚫︎世界一の諜報活動
世界一の国は軍事力、諜報活動力も世界一です。常に他国の情報を把握して調整しています。
ベネズエラの大統領を一瞬で拘束し、イランの最高指導者を一瞬で殺害しました。
かつて戦争してコテンパンにやられた島国の生きる道は、外交力と諜報活動力しか無いのかも知れません。
こういう戦時中のインテリジェンス(諜報・調略)が戦後のビジネスモデルの基盤になった例は数多く存在します。
CIAの前身であるOSS(戦略情報局)の出身者たちは、戦後、ウォール街の金融機関や巨大企業の幹部へ多数転身しました。彼らは情報の収集・分析・操作」が勝利を決めるという戦時中の教訓を、市場独占や競合排除の戦略に転用しました。
現代のマーケティングやPR(パブリック・リレーションズ)は、戦時中のプロパガンダ技術を「大衆の欲望を操作する広告手法」へと昇華させました。消費者を「説得」するのではなく、心理的に「誘導」する手法は心理戦そのものです。
冷戦期、国防総省に近いRAND研究所などで開発された「ゲーム理論」は核戦争のシミュレーションから、現代の価格競争や市場参入の意思決定モデルへと転換されました。映画で描かれたような、相手の出方を読み合う「スパイ戦」は、まさにこの理論のビジネス版です。
軍事戦略を論理的に分析する「シンクタンク」という形態自体が、戦後の米企業における「戦略コンサルティング」のロールモデルとなりました。
アメリカでも「ビジネスは銃火器を使わない戦争である」という思想が、MBA(経営学修士)の戦略論などに色濃く反映されています。
日米で共通しているのは、「勝利という目的の前では、個人の幸福や倫理は二の次になる」という組織の論理かもしれません。
ゲーム理論を一言でいうと、相手がどう動くかを予想して、自分にとって一番いい作戦を決めるための考え方です。
自分一人で決めるのではなく、相手も自分と同じように、一番トクをしようと考えているというところがポイントです。
①「自分だけ」のトクを考えると、結局みんなが損をすることがある。
②「相手がどう出るか」を考えることで、一番マシな答えが見つかる。
これがゲーム理論の基本です。この理論でアメリカ、イギリス、フランスがアフリカや中東をケーキのように直線的に分け合ったんでしょうねぇ…



