論語と算盤 渋沢栄一


商売には真心が大切だということの教えです。江戸から明治に大きく変わる時代に生まれ、武士の世を現代の日本に作り変えた男、それが渋沢栄一です。


日本には士農工商という身分制度がありました。士は武士で身分が高く政治をしていました。農工商は商売をして金を武士に納めていました。


“武士は食わねど高楊枝”というように高級官僚の武士たちには武士道は習っていても、商いの心が備わっていなかったのです。一方で農工商には武士道の心が備わっていませんでした。


埼玉県深谷市の藍(あい)を作る農家で生まれた栄一は幼い頃から商才がありました。しかし幕府から強引にお金を徴収されて不満を持ち討幕思想を持ちます。


しかし知人の紹介で幕府側の徳川慶喜の元で働くことになると、なんと慶喜は将軍になってしまいます。


栄一は27才でパリ万博に行き、鉄道などの大規模開発に金を集める株式会社のしくみを学びます。しかし日本に戻ると、明治維新が起きていて徳川幕府は無くなっていました。


それからは日本近代の父と呼ばれるように、みずほ銀行、東京海上火災、王子製紙、JR東日本、東京ガス、東京電力、キリンビールなど500もの事業を立ち上げます。


さらに日本赤十字社、聖路加病院、一橋大学、日本女子大学、早稲田大学など600もの社会福祉にも関わります。


そんな栄一が明治35年にイギリスから、「日本の商人はインチキをする」と言われて、ビジネスに道徳の心を持たせようと考えて「論語と算盤」を書きました。


2008年にリーマンショックが起こり、欲望まるだしの資本主義か世界を壊しました。


アメリカ経営者の協会では「もう株主利益だけの経営はやらない、従業員や地域社会のための経営をする」と宣言します。


中国でも鄧小平が資本主義化したため、拝金主義となってしまいました。胡錦濤と温家宝は「このままモラルなき資本主義が続けば中国がもたない、道徳を取り戻そう」と栄一の書いた「論語と算盤」を推奨しています。


10章からなる「論語と算盤」を短くまとめてみました。



①処世と信条 上手い世渡り術


「士魂商才」侍の魂で商人の知識を持つこと。これは菅原道真の「和魂漢才」大和の魂で中国の知識を持つという言葉からきている。武士道の魂を持ち信用される人として商売をしなければならない。


争わないことが一番だが、時には自分の信念を貫き通すために、敵と戦い、必ず勝つと言った気概がなければならない。


「蟹穴主義」蟹は自分の甲羅と同じ大きさの穴で暮らす。つまり自分の身の丈に合った生活をしなさい。


「得意時代と失意時代」が人生にはある。結果が出ている時こそ調子に乗るな。


②立志と学問 目標を持って学べ


大きな志は、自分の長所、短所、置かれている環境など、時間をかけて考えよ。


幅広い知識から、人は経済発展に貢献でき、正しく生きることができる。


③常識と習慣 良い常識と良い習慣


常識とは、知恵、情愛、意思をバランス良く持ち、世を上手く渡っていく能力。どんなに頭が良くても、他人の気持ちがわからない人はだめだ。


習慣は周りに伝染するため、自分だけでなく周りも正しく生きるための良い習慣を身につけること。


④仁義と富貴 道徳の無い稼ぎは悪だ


仁義(じんぎ)とは道徳上守るべきこと。富貴(ふうき)とは金があり身分が高いこと。


道徳が守れないなら貧乏のほうがマシ、だが真っ当に稼いだ金なら問題はない。


⑤理想と迷信 現実的な発想を持つ


理想は現実、迷信は非現実。


渋沢栄一の姉が心の病になり、叔父の母から祟られているので祈祷しろと言われた。世の中にはスピリチュアルなものを、心の拠り所にしている人もいるが非現実的な発想だ。


⑥人格と修養 人格を磨き国に貢献


修養(しゅうよう)とは人格を磨くこと。私利私欲に走らず、周りの利益も考え、冷静な判断をして行動すること。ひいては国家の発展に貢献できる人になれる。


⑦算盤と権利 道徳のある競争は良い


競争には良い競争と悪い競争がある。

良い競争とは、自らを高めることで相手より上に立つこと。

悪い競争とは、他人の足を引っ張ることで相手より上に立つこと。

競争には勝者と敗者が生まれるが、健全な高め合いならば良し。


⑧実業と士道 仕事は武士道


人として真っ当で無い行いで私利私欲を満たしたり、権勢に媚びへつらって出世することは人の道ではない。


私利私欲の人を正すのが武士道である。まっすぐな心、そして礼儀と譲り合いの心を持ち、弱気を助け、困難に負けないような意思を持つこと。


⑨教育と情誼 目先の利益で行動しない


情誼(じょうぎ)とは、人情や誠意のこと。良い大学や良い会社に行くための学問だけでは無く、道徳や正義も学ぶこと。


親孝行せよとは言わずに、何事も強制せず、子供の発想を尊重すること。


⑩成敗と運命 自ら運命を切り開け


成敗(せいばい)とは裁くこと。堕落していると成敗されてしまうということ。


渋沢栄一は「寒いから風邪をひいた」という人に「風邪をひかないように身体を鍛えなかったことが悪い」という。


自らが道を切り開くという意思を持って行動することで良い人生を全うできるようになる。



⚫︎感想


2024年の7月から新一万円札の顔になる渋沢栄一、なかなかすごい人でした。欧米からは株式会社というものを学び、中国からは論語を学び合体させて日本人に教えたんですね。


論語は2500年も前から読まれている孔子とその弟子たちの言葉をまとめたものです。渋沢栄一は、同じく昔から読まれていた聖書よりも論語推しなんだそうです。なぜなら聖書には死んだ人間がよみがえるという非科学的なことが入っているからなんだそうです。


お金だけが一番だという考え方をしていると、政治家が裏金を作ってしまったり、自分が住みもしないマンションを買って値段が上がったら売り飛ばしてしまったりと、心の無い金儲けが増えてしまいます。


今こそ渋沢栄一の論語と算盤が必要な時代なのかもしれません。