砂の器


1974年 日本映画

監督 野村芳太郎

脚本 橋本忍 山田洋次

原作 松本清張

出演 丹波哲郎

   森田健作

   加藤剛(かとうごう)

   加藤嘉(かとうよし)

   島田陽子

   緒形拳



松本清張による長編推理小説が映画化されました。東京・蒲田駅の操車場で発生した殺人事件をきっかけに、刑事の捜査と犯罪者の動静を描いた作品で、ハンセン病を物語の背景としたことでも知られています。



⚫︎あらすじ


蒲田で男性の殺人事件が起きる。


その被害者の目撃情報を集めているうちに、被害者と連れの男が東北訛りのズーズー弁で「カメダ」と話していたという情報を得る。


最初は、亀田という人物を探していたが、捜査に行き詰まり、地名なのではないかと考えて秋田県の羽後亀田(うごかめだ)という駅へ向かう、ベテラン刑事の今西(丹波哲郎)若手刑事の吉村(森田健作)。しかし捜査に進展は無いまま捜査本部は打ち切りになってしまう。


あるとき若手刑事の吉村は新聞のコラムに「紙吹雪の女」という記事を見つけて、紙ではなく、犯人の血の付いた布ではないかと考える。


その後、変死体の息子が現れて父親だと確認される。父の名は三木謙一(緒形拳)で島根で巡査をしていたということがわかる。


しかし、ここでも捜査に行き詰まり、国立国語研究所を訪ねると、東北と同じズーズー弁が、出雲地方にもあることを知り、ベテラン刑事の今西は出雲の亀嵩(かめだけ)に向かう。


しかしいくら調べても三木巡査を恨むような人は見当たらない。一番親しくしていた桐原老人(笠智衆)からも話を聞くが非の打ち所がない人だったと知る。


そのころ若手刑事の吉村は紙吹雪の女がまいたという布を線路から見つけ出し血液型が被害者のものと一致した。


ベテラン刑事の今西に島根の桐原老人から手紙が届く。「先日のご丁寧なお手紙、誠にありがとうございます。三木巡査が保護した乞食は本裏千代吉といい、石川県上沼郡大畑村出身」だという。


本裏千代吉はハンセン病にかかったため、妻は去り、村を追われ、やむなく息子の秀夫と巡礼(お遍路)姿で放浪の旅をしていた


島根の亀嵩で三木巡査に保護され、千代吉を療養所に入れ、秀夫を育てようと考えていたが秀夫は逃げ出し姿を消した。


(ここからのシーンは作曲家として成功した秀夫が、幼い頃の父とのつらい日々を思い浮かべながら『宿命』という曲をピアノで演奏する)


秀夫は大阪でおそらく誰かに育てられ、大阪空襲の際に住民の戸籍が焼けてしまい、和賀英蔵・キミ子夫妻の長男・和賀英良として年齢も詐称し、新たな戸籍を作成していた。


一連の殺人は和賀英良(加藤剛)こと本浦秀夫が自身の過去を知る人間を消すためのものだった





⚫︎感想


昔、観たことがありました。

久しぶりに「砂の器」観ました。

加藤剛があのときの少年だったんですね。

そしてピアノの演奏の中に父との辛い思い出を込めていたんですねぇ…


ハンセン病、かつては“らい病”と呼ばれて人々から嫌われ恐れられていました。

ハンセン病は、ノルウェーのアルマウェル・ハンセン医師が1873年に発見した「らい菌」による感染症です。


らい菌は感染力が弱く、現代では有効な薬剤を使うことで治る病気です。早期に治療すれば、身体に障害が残ることはありません。


ハンセン病は、治療されていない患者と濃厚かつ頻回に接触したときの鼻や口からの飛沫で感染します。


乳幼児など免疫力の弱い人が患者と接触したとき、まれに感染することがあります。


ただし、栄養状態や衛生事情が悪かった時代には発病した人もいますが、現在の日本のような生活環境ではほとんど発病しません。



⚫︎業病(ごうびょう)


ハンセン病はかつて業病と呼ばれていました。業病とは前世の悪業(あくごう)の報いでかかるとされた、治りにくい病気、難病のことです。

そのため、一人でも親族に発病者が出ると、その家は共同体の中で一切の関係性を断絶され、時には一家離散に追い込まれたそうです。

千代吉が放浪した1930~1960年代の日本では無癩県運動(むらいけんうんどう)という官民一体となった民族浄化が行われていました

当時癩病(らいびょう)は、一等国日本にとっての国恥病とされ、見つかった患者は強制収用され、療養所内で一生暮らすことを強いられました。

この背景を知った上で映画を観ていれば、秀夫の考えたことが少しは理解できるような気もします。

なぜ、秀夫が自分の子供を産みたいという女のことを拒んだのか?

なぜ、宿命という曲を創作したのか?


“生まれてきたこと 生きていること

それが宿命” と語っていました。



⚫︎刑事の執念


丹波哲郎が演じるベテランの今西刑事は、あらゆる推測、あらゆる可能性を考え、足で小さな情報を集めていました。


笠智衆が演じる老人に聴き込みに行った後も、おそらく丁寧な礼状を出していたのでしょう。そのことに感銘を受けた老人は、少しのことでも情報になればと思い手紙を書いてくれたのでしょう。


森田健作が演じた若手の吉村刑事も、新聞に掲載された小さなコラムを見つけて、もし紙で無く布だったら⁈と考えて、すぐに連絡して、自ら中央線にばらまかれた白いものを探しあてました。


刑事ってすごい職業なんだなと感心しました。