バカと無知


橘玲(たちばな あきら)さんの新書です。人は気づかないうちに差別したり、偏見を持ってしまうそうです。


なかでもバカは自信満々にバカの意見をのべるため、利口な人が「そうかもしれない?」と引きづられてしまうという話は面白かったです。



まえがきは「孤独な男がジョーカーに変貌するとき」として安倍元首相銃撃犯の話しからはじまります。



『正義は最大の娯楽である』


人は目立ち過ぎて反感を買うと共同体から追放される。でも目立たないとパートナーを獲得できず子孫を残せない。私たちはこの難問をクリアした子孫だ。


人は最大で150人ほどの共同体で生活していた。当時環境はきびしく1人では生きていけないから集団から排除されることは死を意味した。


豊かになった現代では、1人で生きていくのにさほど困らない。集団から排除されても死ぬことはない。学校でたまたま一緒になっただけの関係にさしたる意味はない。


それなのに少しの人間関係トラブルでとんでもない音量で警報音が鳴り響く。脳が「このままでは死んでしまう!」とパニックに陥り、うつ病や自殺につながる悲劇が無くならない。


脳は「被害」を過大評価し、「加害」を過小評価する仕組みになっている。これがイジメ問題から国と国との歴史問題まで事態を紛糾させる原因になっている。この落差を理解しないと「自分が絶対的な正義」で「相手は絶対的な悪」となり収拾がつかなくなる。


人は旧石器時代から共同体の中で地位をめぐって争ってきた。能力のある者が高い地位を獲得する。だとしたら自分に能力がないことを知られるのは致命的だ。こうして自己能力を過大評価するようになった。

(ヤンキーのハッタリはこれだな)


一方、すぐれた能力があることを他人に知られることもまたリスクだ。権力者が排除するのはライバルになりそうな有能な者だからだ。このようにして能力を過小評価し、極端に目立つことを避けたのではないだろうか。ハリネズミが自分を大きく見せるのも、脳ある鷹が爪を隠すのも、生き延びるための戦略なのかもしれない。

(幼少期の徳川家康だな)


人がステイタスを誇示する方法は「支配(権力)」「成功(社会・経済的地位)」「美徳(道徳)」の3つがある。支配や成功はなかなかできないが、道徳は悪を叩けばいいだけなので誰でもできる。


社会的な動物の人間は、不正を行ったと感じる相手に制裁を加えると快感を得るように脳が設計されている。この快楽はSNSによって簡単に手に入るようになった。


東京五輪直前に演出担当が、過去にホロコーストをギャグにしていたとして解任された。過去の不正がネット炎上してキャンセル(辞任)を求められるのはキャンセル・カルチャーとして欧米で問題になっている。こうしたキャンセルカルチャーの背景には世界的なリベラル化がある。


リベラルとはだれもが自由に生きられることで、人種、民族、性別、身分など属性による差別は許されない。これがPCとかポリコレとか呼ばれる「ポリティカル・コレクトネス(政治的な正しさ)」だ。


英語圏ではSJW「ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー(社会正義の戦士)」と呼ばれる、有名人の過去を徹底的に調べ、正義に反した言動をした者を吊るし上げる運動が起きるようになった。

(正義ってあばくことだけなのか)



『バカと無知』


⚫︎バカは自分のバカに気づかない


アメリカの銀行強盗犯が変装もしないで監視カメラに映り逮捕された。犯人は顔にジュースを塗ると監視カメラに映らないと思っていたのだ。


心理学者ダニングとクルーガーは研究して「バカは自分のバカに気づかない、なぜならバカだから」というダニング=クルーガー効果という研究発表をした。


知と無知には3パターンある。

1.知っていることを知っている

2.知らないことを知っている

3.知らないことを知らない

たとえば

1.538を知っていること

2.はパソコンは使うが、修理はできない

3.はダニング=クルーガー効果だ


4.知っていることを知らない

というパターンもありそうだ。

モーツァルトがなぜこの旋律を思いついたのか、歌手やスポーツ選手がなぜ自分ができるかを知らないのではないか。人びとが感動するような素晴らしいものは暗黙知から生まれるのだ。

(藤井風とかだな)


⚫︎民主主義がうまくいかない不穏


「三人寄れば文殊の知恵」というが、賢い者がバカの意見に引きずられることを平均効果という。


21世紀になって欧米がポピュリズムの嵐に翻弄されている間に、中国は一貫して高い経済成長を維持していた。



ポピュリズムとは、有権者を「エリート」と「大衆」に分けた上で、2つを対立する集団と位置づけ、「大衆」の権利こそ尊重されるべきだと主張する政治思想をいう)


不穏というのは、能力の劣った者を決定の場から排除するという動きがあることだ。


能力が低い者が過度な自信を示すと、能力が高い者は自分の自信が揺らぎ、その一部は決定を変えた。これがバカに引きずられるメカニズムだ。


アップルやアマゾン、テスラのように創業者のワンマン経営で急成長するのは独裁者の意思決定によって、バカに引きずられる効果を避けられるからなのかもしれない。



⚫︎闘争か逃走か


近年は

flight(逃走)

fight(闘争)

freeze(すくみ)

の3Fと呼ばれるようになった。


攻撃を受けたとき、生き物はまず逃げようとし、無理なら反撃し、どちらも無理なら体温と心拍数を下げ死んだふりをする。捕食者は死んだものを食べないからだ


学校でいじめられた子どもは逃げることも闘うこともできずフリーズする。これは脳にとって大音量で警報が鳴っている状態で、深刻な精神症状が現れる。