第10部 ブルー・スウェアー 第21章 早朝の遺言 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー
幼稚園のスクールバスの送り迎えを、今日は俊也がどうしてもやらなくてはいけない事になっていた。
「おはようござまーす。あらっ、結衣ちゃん、今日はお父さんなのね」スクールの中年のベテランのような女性が笑顔で結衣をバスに招きいれると、結衣はバスの奥の方に座ると、心なしか元気がなさそうに手を振ると、バスはゆっくりと走り始めた。先生は軽く会釈をすると、俊也も軽く会釈をしながらバスを見送った。バスが視界から見えなくなるまでじっーと見つめていた。
ー結衣が大きくなるまで側にいるわー明け方にみた現実(ゆめ)の声と鈴華の顔をリアルに思いだしていた。
鈴華の顔は無表情だった。とにかく無表情でそれがとても不気味だった。
俊也の気持ちはもう既に鈴華がこの世を去っていて、これから1人で結衣を育てていかなくてはいけない現実のような錯覚に陥っていた。
これから1人で・・・。
まさかのシングルファーザーなんて、冗談はやめてくれよ・・・。
早く、早く、夢から醒めて欲しい。
俊也は結衣の送り迎えをしたあと、トボトボと気のむくままに歩いていた。真っ直ぐに家に戻る気にもなれなくて、再び駅に向かった。駅の前の掲示板には<人身事故によりダイヤが最大90分の遅れが生じています>の文言が流れていた。大幅な遅延により、駅には乗り切れなかったたくさんの人であふれていた。
俊也はあふれている人並みをぼうぜんとした顔でみていた。まだその人が鈴華だと決まった訳ではないけれど、今朝の出来事といい、直感的に鈴華のような気がしてならなかった。
鈴華はもうすでに亡くなっていて、娘の結衣の隣に今はいるような気がしてならなかった。
俺はこれから1人で育てていかなくてはいけないのか?俺が1人で娘を育てていかなくちゃいけないのか?そんな風に現実的に漠然と考えるようになっていた。
(はぁ・・・何でこんなことに・・こんなことってあるのかよ・・) そんなことを空を見上げながら思っていると、ふと愛那の父親のことが頭をよぎった。彼女も病気で母親を小学生の頃に亡くしていた。愛那の父親もシングルファーザーとして四肢奮闘していた。愛那の父親と本当に家族のような関係だった。少し気にいらないといった態度をとることがあったりしたけれど、それは大事な愛娘を取られるかもしれないという誰でもある娘への愛情からでもあったのであって、個人的な感情で俊也を除け者にしている訳でもなかった。愛那を愛するが故に・・・。結衣も愛那と同じ境遇になってしまうのかと思うと・・それもまだ4才で母親が恋しい盛りなのに。
(なんて残酷な現実なんだ・・愛那は助かったけれど、妻が・・・あんまりじゃないか・・・)
最期にみた改札を抜けていく後ろ姿。なんてあっけないんだ。まるで点にしかみえなかった。なんか似たような人に見えるなぁー・・くらいにしかみえなかったことが最期にみた残像だったとは・・・
(・・・・・いや、違う。あれは彼女ではない)俊也は一縷の望みをかけるようにかろうじて自分の心に語りかけるも、絶望的でその望みと反対な気持ちに押し潰されそうな気持ちになっていた。
(しっかりしろよ・・俺・・)言い聞かせてみても、どうしていいのかわからずにいた。
俊也は混雑している駅の様子をじっーとみていた。
駅員が目の前をゆっくりと通りすぎていく我に帰ったように俊也は背中に声をかけた。
「すみません!!」俊也が声をかけると、駅員はふりかえると自分に?という風に自分に指をさした。
俊也はうなづいた、
「はい、どうされました?」
「今日の人身事故は女性でしたか?男性でしたか?」
「さぁ・・・私は今きたばかりなんので、あっ、ちょっと待っていてください!」駅員はそういうと、改札の窓口にいる別の男の駅員に声をかけていた。何か話をしながらうなづいているとすぐに俊也の所に戻ってきた。
「たぶん、女性だって」
「あっ、この人ですか?」俊也は思い出したように、引っ越してきたばかりの時に結衣と家の前で撮影した鈴華の写真を駅員にみせた。
「ちょっと借りてもよろしいですか?」駅員は丁重に受け取った。
「はい」俊也はうなづくと、今しがたと同様にスマホの写真を同じ駅員に見せていた。写真をみた駅員は「あー」という感じで口を開けて首を傾げながら真剣な眼差しで精査していた。そして小さくうなづくと何か言付けを伝えてるいるようで、再び俊也の元に戻ってきた。
「そうですね、はっきりとした事はわからないのですが・・・」駅員が濁すようにいいかけると、中から別の駅員が出てくると、俊也のスマホを再びじっと凝視した。
「この人かもしれない?」

p.s
久しぶりな小説の更新〜⭐︎
最近は地味でした。
これからはもっと地味に書いていきたいと思います。こないだ作ったカレーソーセージパンが美味しかったです💕私の趣味はものがきとだけいえるくらいストイックになろうと思います💕