私も全てを投げ捨てて、新しい自分になりたいと渇望していたあの病室での出来事を思い出していた。戦争後に白血病で入院して、見舞いにきて自由に楽しげに帰っていく友人らを病室から眩しげな羨望の眼差しでみていく主人公のいつかのドラマを思い出していて、まさにあの時、あの主人公の気持ちというものと自分の境遇を重ね合わせていた。
自由というものがすごく眩しくて、輝いてみてるあの気持ちが強くリンクしていた。あずさがブラウン管越しに現れた時、生き返っていく何かを感じたのは自分も新しくなりたいという気持ちに他ならなかったのだと今さら気がついた。
「・・・先輩は地元にいた頃、全然もてなかったし、すごーく地味で全く目立たなかった大人しい人でした。私はあんなに化け物みたく変わった人をみたことがないんです!」
「いうねぇ、君も!」
「別に悪くいってる訳ではなくて、人ってどこかでいい意味で化ける人っているじゃないですか!?」
「あぁ・・・」
「すごく衝撃だった。事故の直後にみたら、何とも言えない気持ちになって、何ていうか、こうすごく輝いてみえたんです!」愛那は自分の心のわだかまりを振りほどくように言葉を紡ぎだしていた。
「人は置かれている環境によって大したこともないのにさ、ちっぽけなことがよくみえたりするよな!?今となっては何とも思わないあの子が出会ったとき、こんな天使が世の中にいるんだぁ〜って思ったりしたもんな・・・お腹すてりゃなんでも美味しく思えることと一緒だよ」真一はクスッと笑った。
「そうかもしれないですね。でもその時、心からそう思った事っていうのが本当の力だと思うのですよ・・その時にそう強く思えたということが本当の力だと思います!」愛那は真一の目を真剣にみていった。
「まさにその通りだよ!その時、強く思ったことってなんだい!?」真一は逆に愛那をみて真剣にいいかえした。
「新しい自分になりたいと思いました。今までにない自分になりたいと思いました!!」
「もっと具体的には!?」
「まずは自分のことを知らない所で暮らしていきたいと思いました!」
「それは実践するの!?」
「したいんですけれど、父のことや恋人のことが浮かんできて、結局はダメでした・・」
「・・お父さんのことや恋人のこと・・そのことは伝えたのですか!?君がそうしたいということをお伝えしましたか!?」
「いえ・・・いえなかった」
「どうして・・・君の人生は君だけのものじゃないか!?」
「いえないですよ。父も彼もみんないい人たちなんです。あんないい人たちを裏切るなんてできないですよ!」
「裏切るとかそういう話じゃないだろう。あくまで君の願望であって、君だってまだ若いんだし!!」
「若いとか歳の問題じゃないんですよ。私があの街を離れるということは自分勝手な行動に他ならないし、許されないんです!!」
「そうか!?それは思い込みじゃないの!?みんな優しくていい人ならば、わかってくれるんじゃないの!?ほんのすこし旅をしてみるのもいいんじゃないの!?」
「・・旅!?」愛那は言葉を返した。
「そう、旅をしてみたらいいんじゃないですか!?」
「お父さん、愛那は明日帰ってくるんですよね!?」俊也はお茶を飲んでいる健一にいった。
「あぁ、そのはず・・・」
「何時の新幹線で帰ってくる予定なんですか?」俊也は梨を🍐たべながらきいた。
「さぁ、夕方頃帰ってくるといってたな・・」
「迎えにいった方がいいかな?」
「なぁに、子供じゃないんだ。1人で帰ってこれるさ」
「そうですかね!?」俊也はそういうと梨を食べていた。
(ちゃんと戻ってこれるだろうか?)
俊也はそれでも何故か胸がざわざわしていた。
p.s
最近、蝉というものに私は尊敬の念があるんです。夏を告げるために2年も土の中で篭っていて、梅雨があけて、夏がきたよ〜って告げる音を立てて2週間で死んでしまう。夏を告げるために生まれてきて、ちゃんと役目を果たして残骸へと変わってしまう。夏をつげるために2年も頑張って、その役目をたった2週間果たすために2年も頑張ってきて、死んでしまう。でもなんか蝉ってエライなぁって思った。夏をつげるためにやってくる生き物、セミ!!あとセミの鳴き声は外で電話で話していても、電話📞の中に音が入らないんですよね‼️セミってなんかすごいと思うこの頃でした。ミンミンミンと人間の潰れた声によく似ていますよね。最近、セミってすごいなぁって思うこの頃でした。