その笑顔は本当は自分だけに向けられるはずだったのに、文香の胸の中に深い悲しみとせつなさがこみ上げてきて、思わず涙ぐんだけれど、唇をぎゅっと噛み締めて、泣けてくる気持ちを力いっぱい我慢した。
みずほは病院の一室で外をみると、真っ暗になっていた。悠人の話を聞いてから石になったかのように動けずにいた。あの日の残像がフラッシュバックしてきて、風が冷たかったあの午後の日を思い出していた。
ーきっと良心の呵責に苛まれていたんだと思う-
みずほは父親が亡くなる前に、深くため息をついて、元気をなくなしている姿をみたことがあった。風の噂で女性にみついで借金を苦に自殺したなんて噂が流れていたけれど、実際には・・。考えるだけで、言葉がみつからなかった。そして、ホントのことを言おうとした事が・・。みずほはその先の正体を考えると言葉がなかった。
添田は留置所で差し出されたご飯には手をつけずにいた。
「今日も食べないというのか?」留置所の看守は青白い表情(かお)にやれやれといった顔でいった。
「いらない」
「なんだ、死ぬ気でいるのか?それをされると私が困るんだよ。一応でこれは税金で賄われているだ。亡くなった被害者の裁判がはじまって、きちんと判決が下るまではそんな気を起こされては困るんだ」看守は困ったような顔をしながらいったが、添田は興味がなさそうにあくびを噛み殺していた。
「具合でも悪いのか?」
「・・・いや・・」
「いい加減、食べて貰わないと何かあった時、私たちの責任があるから、困るんだよ。これはこれで」看守の言葉に添田はしばし、黙っていたが、見られている手前、しぶしぶと差し出された朝食に手をつけた。その様子をみて、少し安心したように看守はやれやれといったように見守っていると、後ろから別の人が呼びかける声がして、留置所にいた看守が、扉の外にでると、すぐに顔をみせた。
「それを食べ終えたら、面会にきている人がいる。身支度をしてくれ」
つづく、、