第5部  遠い風   第8章  投影 | ブログ小説 第10部 ブルー・スウェアー



さつきと隆裕は病院に駆けつけた。看護婦に促され病室にはいると可穂が点滴を打ちながら寝ている。
「藤沢さんの容態は?」さつきは近くにいた看護婦に向かって聞いた。
「抗熱剤は打ってあるんですけれどもねー、まだ熱が下がっていませんね。これから徐々に効いてくると思いますけれども、順調に効いてくれれば明日には熱はさがるかと思いますけれどもね」さつきと隆裕は可穂のベッドに近寄った時、可穂は目をうっすらと開けた。
「あ・・・・・あ・・・」可穂はさつきの顔をみて小さく頷いた。
「どうしたんですか?何があったんですか?」さつきは腰をかがめてやんわりと聞いた。
「バカなの・・・・凄くバカなの・・・・あたし、人を見る目がないっていうか。人を見抜く力がないのよね。愚かなの」
「何があったんですか?」
「あたしって、そんなに魅力がない女かしら?あの人にも旦那にもひどい仕打ちをされるなんてね」可穂の目は天井を虚ろに見つめた。
「旦那とあの人に仕組まれたの」
「あの人って野田さんというひと・・・?」さつきは思い当たる人を呟いてみた。可穂は力なく頷いた。
「でもおかしいわよ。どこに接点があるの?」
「最初から、あの人は私を愛してはいなかったのよね。愛されているって思っていたのは思いすごしだったのよね。離婚調停もあの人と旦那が仕組んで自分達のいいようにことを運ぼうとしていたの。調停が成立して晴れて離婚できたらば、私が慰謝料を払うことになっていたの。その証拠になる写真をまさか、野田があの人に指図して張り込ませて撮らせていたなんて。仮に裁判で負けたとしてもあの人は私に、愛している、愛しているって甘い言葉を囁きながら、会社がうまく言ってないから助けて欲しいっていって多額の援助金を要求してきた。それも狙いの1つだったし、それに確かな証拠まで揃えて裁判で勝とうものならそこからも奪おうとしたらから、私からふんだくるだけふんだくるつもりだったんでしょう。あんなバカ旦那と最後まで信じていたあの人が裏で手を組んでいたなんて・・・・」可穂の目からうっすら涙がこぼれ落ちた。
「何だか酷い話ね。一人の女性を大の男2人がよってたかって利用しようとするなんて。苦しめることないじゃないか!」隆裕まで目を赤く滲ませている。
「・・・・・」さつきは憐れみの目を可穂に向けた。
「絶対に許さないわ。私が懲らしめてやりたい。ねっ、福永さん、この人に変わって私達で仕返しをしてやりましょう」隆裕は意気込んでいる。
「止めて!野田は恐ろしい男よ。関わらない方が自分の身の為よ。もうそれにどこにいるのかさえわからないから」可穂は隆裕に止めるように牽制した。
「じゃあ、オタクの旦那に仕返しをしてやりましょうよ。あなたは苦しむことは何もないですからね。奪ったものは奪い返してやりますから!」
「そんなことしたって何もならないわよ。あの男の思う壺よ!」
「逆に名誉毀損で訴えられたら、あなたこそこれから暮らしていなくなるのよ。ただでさえ、普通の暮らしさえ危ういっていうのに!」さつきも感情的になっている隆裕にチクリといった。
「関係ないわよ!!僕、こういう男が大嫌いなのよ。愛を踏みにじるような男が嫌いなのよ。何様なのよ」隆裕はさつきと可穂の牽制を一蹴するように大きい声で跳ね返すと周りの患者が隆裕を迷惑そうにに見つめている。
「ちょっと声が大きいわよ。ボリューム下げてよ。一人で興奮しないでよ」さつきは周囲の目を気にしながら隆裕に注意をした。
「私はあなたに代わって仇をうってきます。まあ、あなたには迷惑はかけませんから安心してください」
「かえって余計な心配をかけているじゃない。人の不幸に首をつっこまないの。余計、おかしくなるわよ」さつきは腕を組ながらいらだたしげにいった。
「心配しないでください。早く、熱が下がりますように。また、来ます。おやすみなさい」隆裕はそういうと、病室を後にした。さつきもその後を追いかけた。

                                                                          つづく、、、