今回の出張はそこまで遠くなかったから、電車ではなく車で行くことになった。

普段、蓮と社有車で移動することはない。
なので助手席に座った時、ものすごく違和感を感じて…そして原因に気付く。


「あ…右ハンドル…」

「ん?」

「ほら、いつもと位置が違うなって」

「ああ」


蓮の車は左ハンドルだから。
蓮が右手にいることがどうも落ち着かない。
自分で運転する時はいつも右側で、誰かと同行するのも珍しいことではないし、その時も大抵自分は助手席に座るのに、蓮とだとどうも左側は違う心地がした。

シートベルトを締めながら隣の蓮を盗み見る。
運転用の眼鏡をかけネクタイを緩める彼の流れるような一連の仕草にこっそりと胸を高鳴らせてしまい、紛らわすために視線を彷徨わせた先に見たのは、アームレストに腕を置いた彼の左手——薬指のリング。


(ドラマとかだったら、ここは傷つくシーンよね…)


そんなことをふと思ったが、あいにくそんな繊細な気持ちは持っていない。

それは蓮の事情を知っているからか、単に私が歪んでいるからなのか。
最初から、モラルとか罪悪感さえも感じなかった。

なんとなしに蓮の左手の上から自分の右手を重ねて、指を絡める。
触れる金属の冷たさに相も変わらず満足して。


「…出発できないんだけど。キョーコ」

「うん…」


見上げた先には困ったように微笑む蓮がいて、それでも手を引かず見つめていると、自然と顔が近づき合い、唇が軽く重なる。


「仕事中に、そんな可愛い顔をしてはダメだよ」


蓮はまた困ったように微笑んで、それが私の心をまた揺り動かす。


「貴方こそ…いちいちドキドキさせないで」


こんなに好きになって、まだ気持ちに終わりが見えない。
次から次へと好きが膨れて自分でもどうしようもない。


「…追加。仕事中はそんな可愛いことを言ってもダメだ」

「車の中でも?」

「どこでも。…俺が持たない」


一度だけ触れ合った手をぎゅっと強く握り返され、その感触が残るうちに蓮は手を離すとハンドルを握った。

私は右手を膝にのせ、蓮の温もりが消えないように左手で強く握りしめる。


(泣きそう…)


こんな些細なことでも愛を感じて…幸せで苦しくなる。
どうして、こんなに蓮だけが好きで、欲しいのか。


ただ募る。


(ずっと側にいたい)


それは世間から認められたものじゃなくていい。
認めて欲しいわけじゃない。


私から蓮を離さないで。









はらはらと、少しずつ。


静かに、流れるように、消えてゆく。


愛を交わすだけでよかった自分が。



世界中のすべてから憎まれてもいい。

そんなことで蓮が手に入るなら。




新たな想いが芽生える——5年目の春の訪れの気配。








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昨年末、狂愛するバンドの新曲PVを見た瞬間書き殴った話。
下書き保存のままになってるのを発見(´・ω・`)

PVのせいでこの時猛烈不倫ブームだったんですよねぇ~

しかしこのシリーズのテイストが変わってきとる…イカン!