「新共同訳聖書発行には前史があり、まず 1978 年に「共同訳新約聖書」が出版されたのです。この「共同訳」に取り入れられた翻訳理論が dynamic equivalence(動的等価)と呼ばれるものでした。原語の意味をきちんと捉えて、それを動的に、ダイナミックに翻訳するという訳法です。つまり、直訳ではなく、意訳的な訳法を取り入れたのです。その後、「新共同訳」へと転換がなされ、訳法も意訳的翻訳から字義的翻訳(formal correspondence)に移行しました。にもかかわらず、完成した「新共同訳」(旧約)には当初の翻訳理論の残滓がいたるところに見られます。聖書翻訳は訳法を変更したからといって、即座に徹底はできません。それは特に詩文学に顕著です。原語の意味をきちんと踏まえて、それを動的に翻訳する訳法により、意味がよく分かり、読みやすいのは確かです。けれども、意味がよく分かるということは必ずしも原典に忠実であるということではありません。分かりやすくするために、もともとない言葉を補ったり、そのまま直訳しても十分に意味が通るにもかかかわらず、不必要に説明を加えるという箇所が散見されます。原典に忠実かどうかについて疑問な個所もあります。たとえば、ダニエル書 11 章 1 節です。
ダニエル 11:1
「彼はわたしを支え、力づけてくれる。」(新共同訳)
「わたしはまたメデアびとダリヨスの元年に立って彼を強め、彼を力づけたことがあります。」(口語訳)
新共同訳と口語訳を比べると、訳し方がずいぶん異なることに気づかされます。ヘブライ語原典に忠実なのは口語訳の方で、新共同訳は恣意的な省略と読み替えをしています。原典通り「メデアびとダリヨスの元年」だとすると、9 章 1 節とまったく同じ時代になってしまうために、新共同訳は矛盾を避けたかったので
しょう。それによって、読者である私たちは混乱せずにすんなり読むことができます。けれども、原典に忠実に訳すという原則は破棄されます。これも訳法のぶれの一つと言えるでしょう。」(『「聖書協会共同訳」はどんな翻訳聖書?』https://www.bible.or.jp/wp-content/uploads/2021/03/kondankai_chiba_20180409.pdf)



「聖書翻訳学者のユージン・ナイダが主張した「動的等価」(Dynamic Equivalence)、すなわち翻訳の際に逐語訳をするのでなく、その言語・文化で分かり易い表現で意訳する方法で、彼がアメリカ聖書協会の翻訳部長を務めた期間に翻訳されて、ハーパーコリンズから出版された。
こうした翻訳方法は当時おもに各国の聖書協会を通して英語以外の他の多くの言語へも応用されて、ナイダは1966年に日本でも講演を行ない、日本聖書協会の「共同訳聖書」の翻訳ではこの影響があったといわれている[1]。」(https://ja.wikipedia.org/wiki/グッドニューズバイブル)

「人を見て法を説け」という言葉がある。誰にとっても分かり易い表現とは絵に描いた餅に過ぎぬ。これを意識化したのがスポコス理論。

「最初に、『聖書協会共同訳』が元とした翻訳理論について、お話ししたいと思います。
基となる翻訳理論は「スコポス理論」としていますが、「スコポス」という言葉はギリシャ語で「目標」を意味します。翻訳理論では、このスコポスというのは対象となる読者、それと使用の目的あるいは機能を表します。『聖書協会共同訳』は、このスコポスを「礼拝での朗読にふさわしい、格調高く美しい日本語訳を目指す」こととしています。[...]
詩編 7:10
【口語訳】どうか悪しき者(ラシャ)の悪を断ち、/ 正しき者(ツァディク)を堅く立たせてください。
【新共同訳】あなたに逆らう者を災いに遭わせて滅ぼし / あなたに従う者を固く立たせてください。
【聖書協会共同訳】悪しき者の悪を絶ち / 正しき者を堅く立たせてください。」(『聖書協会共同訳』の目指した翻訳  http://www.anglicancathedral.tokyo/web/docs/fukawa_bibletrans.html)