ついこの間、私のお気に入りのカバンが破れました。
あのカバンが。あのカバンが破れたんです。それはもう凄い勢いでビリビリビリ~って破れたんです。あのカバンが。私のお気に入りのあのカバンが。破れたんです。
破れた理由っていうのがまたアホらしくて、その日、急いでいた私は家の廊下を凄い勢いで走っていたんですね。
それで何かの拍子にトイレのドアノブに鞄が引っかかってしまったらしく、それに気づかず前進したところ鞄が破れてしまったっていうホントどうしようもない理由なんですが。
鞄の裏側がもうぱっくりと開いて、裏地の紫まで見えないはずのところから見えて…。
一瞬何が起きたかわからなかった。
もうね、痛々しくて、可愛そうでみてられなかった。現実かどうかわかんなくなって、手を顔の前でパタパタした。
もうこんなのは完全にカバン殺人だったわけです。カバン殺人事件、もしくはカバン殺傷事件だったわけです。
「遅刻しそうで、急いでいた」っていう一時の感情だけでこのカバンを、いや、こいつの人生を、私は傷物にしてしまったんです。
これは私が全部悪いじゃないですか。ここまでは私が全部悪いじゃないですか。
「悪気はなかった」とか言っても私が主犯なのには変わらないじゃないですか。これは変えようのない事実なわけじゃないですか。私の不注意が生んだ結果なわけですし、全部自分の責任なわけですし。
もうパニックですよ。そんなもんわ。
落ち着け落ち着けって自分に何度も言い聞かせて、取りあえずカバンを一旦床に置いて、眺めて、手にとって「…まぁどうにかなるか、いやいやいやならんならん」っていうやりとりを自分の中で10回くらい繰り返して、やっと心の整理がついてきたころにタイミングよくオカンが帰って来たわけです。
うちのオカンは裁縫が人より得意な方なので、このカバンを見た目わからないように縫い治してくれると私はそう思ってオカンにこのカバンを預けたわけですね。
オカンにこのカバンを治して貰う、そのことは私の中で最後の切り札であり、最後の希望だったわけです。こんなのはもう可愛い我が子を預けるようなもんです。
私はオカンにカバンを治すように頼み込んで、どうにかオカンから了承を得て、一安心してからやっと用事を済ますために家を出たんですね。
用事を終えてから家に帰るとオカンが笑顔で私を迎えてくれました。
「あんたのカバン、治ったで!」
え!私の望んだ形じゃない!
言葉がでませんでした。
怒りを通り越してなんのリアクションも起こせませんでした。
あれほどまでに自分が無言になった瞬間を初めて見たし、時間が止まったのを初めて肌で感じました。
もう真っ青ですよ。
もうどっからつっこんだらいいのかわかんない。あの私が。あの私がどっからつっこんだらいいのかわかんない。
何?バッチで隠せると思ったの?隠せてないよ。むしろ目立っているよ。
というかバッチは付けるにしてもカバンの前に付けるものだよ。みんなに見えるように付けるものだよ。こっちは裏面だよ。カバンを持つ方だよ。足にあたる方だよ。太ももに当たる方だよ。人には見えない方だよ。
何でバッチなの?何でバッチ4つなの?何で全てバッチで隠そうと思ったの?何考えてんのか意味わかんない。理解できない。
「思ってたのんと違う!」
このセリフ、泣きながら言いましたからね。
こんな歳にもなってお母さんに泣きながら言いましたからね。
でもどうしても涙が止まらなかったんです。
もう必死ですよ。
必死でバッチをカバンから外して…
「あれ?縫ってない~(涙)」
(糸で縫った形跡はなくカピカピになっていた)
「あ、それ木工用ボンド」
「こいつだけとれへん~(涙)」
「あ、それとれへんで。埋め込んどいた」
もうここまで言ったら号泣ですよ。
おかんはおかんで私の様子が予想外だったらしく 「え?え?」 みたいな感じになってて、私の隣でずっとあたふたしているわけです。
私は私でおかんに文句を言いたいけど、おかんは私のことを思ってこれをしてくれたわけじゃないすか。バッチとかも思い思いに一つ一つ選んでくれたわけじゃないですか。
それを考えるとオカンに何も言えなくなるわけです。
でも何か一言、何か一言だけでも言わな気持ちの整理がつかん、そう思った私は
「何でなん。何で木工用ボンドなん。木工ちゃうやん!」
と言い捨てて、号泣しながら自転車をこいで、学校の夏期講習へ行きました。
このとき、まさか帰宅後にあんな悲劇に巻き込まれるとは知るよしもありませんでした。
長くなるので次に続きます!

