私、このタイトルを見て、今まで書いていた「蝿」の漢字が合っていたのか見直してしまった。(合ってたようだあせる)


飛行機が墜ち、南国の無人島に取り残されたイギリス人少年たちの物語。
しかし、児童文学名作の漂流記のように、知恵を出し合い助け合うサバイバルストーリーではなく、「心を一つにできない、理性が失われた集団での生き残りをかけた戦い」だった。
読み終わった後はとても恐ろしいものを見た気持ちになった。
戦慄ですよ。本当に。


無人島には大人はおらず、残された子どもたちは、下は6歳ぐらいのおチビから、上は12歳ぐらいまで。
年長のラルフはリーダーに選ばれ、救助を求める煙を上げるため火を絶やさないことや、集団のルールなどを決めるが、なかなかルールが守られないし、火は何度も消えてしまう。そもそも統制がとれず、何人いるのかすら把握することができない。

一方、聖歌隊で監督生をしていたジャックは支配欲が強く、狩猟隊を指揮する中で次第にラルフと対立し、リーダーの地位を狙うようになる。

正直言って、ジャックもラルフも当初から傲慢で、リーダーに適していると思えなかった。
ジャックは食糧として豚を何度も殺す中で、暴力による支配に目覚めていったのだが、貴重な肉の調達という大事なこともしていたわけで、しかしそれを支配に利用するようになり、そのため集団内では見えない階級のようなものも生まれてしまう。
一方、ラルフは規範意識でもって統制しようとするが、皆を納得させるのは難しいうえに説き伏せる実力もなかった。ルールが状況に合わなくなってきていることに気づかず、楽して強権的に指示するだけの人だと思われてしまった。

どちらも陥りがちな問題なのだろうが、それを目の前で見せられると、未だ未熟な大人の1人としても、心に痛いものがあった。もし私がラルフ側に立ったとして、果たしてうまくできるだろうか?


ジャックとラルフはそれぞれの主張に固執し、互いの主張は次第に極端になっていく。
しばらくのうちに事態は悪化し、冷静に状況を判断できる者たちの言うことは軽んじられ、ジャックとラルフの対立が深まる中でとうとう命を落とすことに…
遂にラルフは1人になってしまう。
ジャックの脅迫的支配にあてられた少年たちは、タガが外れたように獣性を爆発させ、遂に、ラルフを殺すために島中を狩り始めるのだった。


いや、おっそろしい物語…
年長の少年たちは狩りや生活において当然主戦力だから、争いごとも彼らの中で起こり、沢山いたおチビたちは蚊帳の外で、放置されてひっそり暮らす。
彼らは生活面では役に立たないので、ストレスのはけ口にされる。
一番小さい子が虐めで殺されたりしなかったのが、唯一まともだと思えることだった。もしその子が死んでいたら、胸糞悪いことこの上なかったと思う。
(でも当初に名前もわからないおチビが1人、恐らく死んでるんだよね…彼らは必死に見ないふりしてるけど。)

少年たちの状態は、戦争前の日本のようなんじゃないかなと想像がつく。作者は外国人だけど、世界大戦前はどの国もこのような状況だったのだろうか。
冷静に考える人は害され、武力をもって脅す勢力が、力を持たない人々の口を塞いでいく。
そんな社会を風刺した作品なのだろうと思ったが、あるいはこれは、植民地の先住民を追いやっていく侵入者の姿にも似ている気がした。

最後にようやく助けに来た巡洋艦の将校のセリフが痛烈に響く。
「しかしイギリスの子供なら」将校はこれからしなければならない捜索のことを考えながらいった。
「イギリスの子供ならーーーきみたちはみんなイギリス人だろう?ーーーもっとうまくやれそうなものだがなーーーそんなーーーなんというかーーー」

「イギリス人なら…」という言葉がなんだか滑稽に思えてしまったのは気のせいだろうか。それほど自信のあるイギリスの教育が上辺だけのもので、人間として大切なことを何も教えていないと皮肉っているようにも感じた。

しかし一度心に獣を目覚めさせてしまった少年たちは、帰国したからって元に戻れるんだろうか?
心の暗黒を全く存在しなかったもののようにすることはできないんじゃないだろうか。よほど本人が注意して対峙していかなければ…
彼らは若くして、もう何も知らなかった子どもには戻れないのだ。暗澹とする一冊。