​神山藩シリーズ
高瀬庄左衛門御留書


架空の藩、神山藩を舞台にした武家物語シリーズ。


「高瀬庄左衛門御留書」も好きだったけど、今回の本もまたすごくいいなと思った…

藩の筆頭家老を代々務める黛家の三兄弟の話なのです。


三兄弟といえば「三本の矢」の逸話があるけど、それは3人がずっと仲良く生きていてこその話。

この物語の三兄弟は、仲は悪くなかったが、それぞれを見舞う運命が、全く違う人生を彼らに送らせてしまうのだ。

その運命も、その時々に彼らが懸命に考え選択した結果。とはいうものの、過酷にすぎて、もし違った選択をしていればどうなっていたのかと、彼らがふと考えてしまうのを、現実逃避だと言うことはできないなと思う。



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主人公の新三郎は17歳のとき、代々、大目付の役職にある黒沢家に婿入りし、政務(犯罪等の裁き)に携わり始めるが、そのとき少々やさぐれていた次男の壮十郎が、若い武士同士の小競り合いの場で、相手を殺してしまう。

その相手が政敵の家老・漆原の嫡男だったために、壮十郎は漆原の恨みを買い、切腹の沙汰から逃れられず、職務上、新三郎が兄にそれを申し渡すことに。

それから13年、新三郎は舅の後を継いで黒川織部正となり、「漆原の走狗」とも「鞘なし(抜き身の刀のように切れ者すぎて、情も何もない男)」とも言われるようになっていた。

さらに、長兄の栄之丞とは13年前から疎遠になっていて、あの壮次郎切腹の打撃が、織部正の性格まで変えてしまったのかと思われるほどだったが…
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元来、素直な気質だったと思われる織部正。
「ひとの心もちには応えよ」
「応えんとしているうちに、多くを得る」
こうした父の教えを忘れず、父や兄たちだけでなく、舅やさらには漆原からまで、何かを吸収して強くなっていったのだなあ。
尊敬していた父も、黒いところとは無縁でなかったと知り、さらには、少年時代からの友人だった圭蔵が心の支えになっていたのに、圭蔵の心にも少しの闇があり、永遠に別れることになってしまう…
織部正はこうして、傷つきながら、無情や謀略などの黒くて強い鎧を身につけていったのだと思う。

しかし、壮十郎の忘れ形見の息子に影から援助をしたりして、素の部分は変わっていないところもある。
家の存続のために漆原に追従していると見せかけて、黛家の兄弟の絆を失っていないということが最後に明かされたとき、なんだかほっとした私もいたのだった。

漆原の深い信頼を得ておきながら、時が来ると黛家の兄弟として報復する冷徹さまで身につけている。
織部正の一筋縄ではいかない手強い人物像は、外側からは立派な黒幕に見えるかもしれないが、1人の人としては黒い部分ばかりでもないと思う…でもやっぱり野心もあるのかな?
さまざまな辛い経験をしなくてよければ、三兄弟は爽やかな青春物語の主人公でいられたはずなのに。
白と黒、正と邪がコロコロと入れ替わり、ひっくり返されて緊張感のあるドラマで、心にきた。読後に表紙の3羽の鴨を見ると、余計に迫ってくるものがある。



蛇足だけど、黛三兄弟はそれぞれのキャラがすごく魅力的なのである。
読んでいると、なんか学園もののラノベなどでよくありそうなキャラが頭にチラつくのであった。(毒されてる?)
長兄・栄之丞は、冷静沈着なインテリタイプ。ラノベなら、宰相の息子で、眼鏡クイッとかしてる感じ。なんなら髪の色は青とか…

次男・壮十郎は剣が強くて(どこかの道場主の後継にでもなれるとよかったのに、うまくいかなかったのだ)、豪放磊落な性格。これはもう、騎士団長の息子ですな。髪の色は金とか、黒でもいい。

三男・新三郎が一番当てはめにくいかもしれない。ヒーローキャラがしっくり来るかな?平民出身だけど、魔力が強いとか特殊で、秘めた力を持つタイプ。目は大きめで茶色の髪とか、いかがでしょう。
3人ともイケメンなのはお約束である。