自分の才能に絶対の自信を持つ藤野と、引きこもりの京本。田舎町に住む2人の少女を引き合わせ、結びつけたのは漫画を描くことだった。
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「漫画を描くのが好き」から始まったのだろう対照的な2人の少女。1人が引きこもっているので普通なら接触点がなさそうだけど、一度顔を合わせると、それが運命。
そこからは漫画家になるため二人三脚が始まり、2人は大切な相棒になる。

上手くなりたい一心で、年がら年中絵を描く主人公の藤野の姿を表すのに、机に向かう主人公の背中は同じままで、部屋から見た窓の外の景色だけが入れ替わっていくコマの連続。それだけなのに、彼女の一心不乱な熱量と渇望が伝わってきた。
全体的にセリフが少なく、モノローグも少なく、情景から読者がストーリーや登場人物の気持ちを読み取っていくスタイルなのだ。
本としては薄いのだけど、その中に青春を怒涛のように生きたこと、焦りや怒り、喜びなどの感情が詰め込まれている。


大好きな漫画のために、勇気を振り絞って外に出てきた京本。やっと、自分のやりたいことに向けて歩み出したのに、彼女を待っていたのは残酷な未来だった。

このあたり、「汝、星のごとく」の櫂とその相棒くんを思い出した。彼らも理不尽に晒されて、必死の抵抗もかなわず、遂に力尽きたのだったなあ。
あのシーン、私は辛かった。
引きこもりでマイノリティなだけで何の害意もなく、美しいものを生み出す人が、生きていけない世界。

そんな記憶をたどっていると、櫂や相棒くんや京本の生き様に、中島みゆき「ファイト!」の歌詞が思い出されるのだった。
「勝つか負けるか、それはわからない それでもとにかく戦いの出場通知を握りしめ、アイツは海になりました」

「私のせいだ」と思い苦しむ藤野が過去を振り返った中で行う空手キック…これは想像の世界だったのかな。
理不尽なことがあっても前を向く、というより、漫画を描くことでしか弔えない。京本の分まで生きる、これも漫画を描くことでしかできない。
それは彼らが心の底から漫画家であることの業かもしれないと思う。でも美しい。