タイトルに惹かれて読んでみた。

内容がわかってしまいそうなタイトルだけど、逆にどんなことが書いてあるのかと興味をひかれたりして。


「小説家になろう」発だということだが、読んでみてなんとなく素人っぽさはあるかなあ…という気はした(正直なところ)。物語を書き慣れていないという感じがしたためだ。

とは言うものの、読んでみて面白かったと思う。

題材の目の付け所が面白いと思ったし、内容が実は勇者パーティーの冒険譚ではないという意外性もよかった。



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この物語の勇者は典型的ともいえるタイプ。
田舎の村で暮らしていたところ、預言者によって勇者と認知されることとなり、王都にのぼり仲間を得る。
そして魔物と戦う旅に出発し、遂に魔王を倒すことができた。

しかし勇者は死んで、帰ってこなかった。

それから数年経った今、魔王を倒すという偉業をやり遂げた勇者の功績を讃えるため、文献を編纂しようと動き始めた人がいた…
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物語の前半は、今は亡き勇者の回顧録的な組み立てになっている。
まず勇者アレス、続いて勇者パーティーのメンバーである剣聖レオン、聖女マリア、魔術師ソロンの順に、彼らにとっての「アレスとは何者だったのか」が明らかにされていく。
最初に文献編纂者によるインタビュー形式で、次にアレス視点、続いて本人視点と、1つの場面について3回視点を変えて描かれるというスタイル。
人が変わると、見えているものや事実が違うことがあると気付かされる。そして、一般的なイメージとは大きく離れていた実際のアレスの姿も浮かび上がってくる。

先に素人っぽい感じを受けたと書いたけど、それはこの辺りで「これはさっきも読んだな」と何度か思うことがあったから。同じ場面を3度描くのだから、同じことが何回も書いてあると思わせないような表現の工夫が必要で、それが難しいところなんだろうなと思った。


勇者アレスの評価はさまざまだ。
平民と見下す視線や、さすが勇者だ、とにかくすごいという盲信などが入り混じり混濁して、何が本当かわからない。

そんな中で編纂者が知ることとなった実際のアレスは、不器用で何の才能もない少年、誰も真似できないほどの努力をしていた少年、何が何でも勇者にならなければならないという強い意思が鬼気迫る少年だった。
そんな姿が明らかになると同時に、なぜ彼はそんなにも勇者になることを求めたのだろうかという疑問が湧いてくる。
そこから徐々に見えてきた真実は驚くべきもので…


アレスのひたむきな努力に感服したパーティーメンバーたちが、アレスこそが真の勇者だと心の底から認め、身分などを超えた友人関係となっていくまで、その心の変化がそれぞれの口から語られていくのがよかった。

勇者とは強さとか血統ではなく在り様なのだとする考え方が一貫して主張されているように思って、そこも良かったところで、私は気に入った。

勇者の死を探るという点では、ちょっとミステリーな味付けも楽しめるかなと。
タイトル通りの内容ではあるけどタイトル通りではないというか、捻りがあっていいと思う。後を引くような印象を残す物語で面白かった。