作品名は知っていたが、読んだことはなかった。

「飛ぶ」というタイトルからは、ある日教室の全員がタイムスリップして…というようなファンタジーを想像していたのだが、読んでみるとファンタジーではなかったてへぺろ
1900年代前半頃の古き良きドイツといった感じで、高校生くらいの少年たちの寄宿舎学校生活を描いたものだった。
ちなみに「飛ぶ教室」とは、話中に出てくる劇のタイトル。
古典のような昔懐かしい印象の作品。こういうのを久しぶりに読んだ気がしたなあ。


登場人物は仲良しの5人の少年。
ヨーナタンはアメリカ人とのハーフなので、ジョーニーと呼ばれている。4歳の時、親に捨てられ、赤の他人である船長に養ってもらったという壮絶な過去の持ち主。本好きで文才がある。
マルチンはジョーニーの親友で、リーダー格の正義漢。絵の才能がある。家が貧しくて、休暇に帰省するお金がない。
ゼバスチアンは秀才タイプで、人と馴れ合わない孤高の性格。
マチアスは、ボクサー志望で喧嘩は強いが、勉強は苦手で、いつもお腹をすかしている。
ウリーは貴族の子で勉強はできるが、小柄で臆病な性格のため人に馬鹿にされがち。女装したら女の子にしか見えない。マチアスの親友。

とまあ、色とりどりな性格がそれぞれ魅力的なキャラクター達である。こういう設定、今でもよく見られると思う。
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物語は、クリスマスまでの期間に学校で起きたいろいろな出来事と学生たちのドタバタ劇を描いているんだけど、それらを通じて、ヨハン先生との心の交流も描かれている。
ヨハン先生は、彼らの主張を聞き向き合ってくれる公正な人。罰ですら思いやりに溢れていて信頼できる人柄が、今読むともう珍しくすら感じるのだが、それがまた懐かしい気がして良いなあ。

彼らはひょんなことから、ヨハン先生の行方不明の旧友が、近くに住みついた「禁煙さん」という人ではないかと気づいて2人を引き合わせる。
この再会は、ヨハン先生にとって最高のクリスマスプレゼントになった。

そんなこんなでクリスマス休暇が来たが、マルチンの家は父が失業中で、十分なお金を送ってもらえず、帰省することができないとわかる。
しかし、友人たちに言うこともできず、ひたすら悲しみを我慢するしかなかった。
それに気づいたヨハン先生は…

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クリスマス休暇に帰れないマルチンも、十分な旅費を送ってやれない両親の気持ちも、痛いほどの悲しみが伝わってくる。
「あんな小さい身の上で、金のないみじめさをもうあじわわねばならんのだ。両親がこんなに働きがなく、こんなにびんぼうでいるのを、あの子はせめないでくれるといいが」
このセリフは親として大変つらいものだろう。

マルチンのいない父母2人のクリスマスは静かさと侘しさが切ないし、クリスマスに浮き立つ街から逃げ出したくなるマルチンの気持ちも、古い作品だといっても今でも違和感がなく、よくわかるなと思った。

クリスマスとはなんと特別なものなんだなあ…。
みんな、クリスマスを家族と共に過ごすということに格別の思いを持っているのだなと尊く思う。
そしてその年のクリスマスの夜、マルチンの幸福が星のように光り輝いて、私にも幸福を分け与えてくれた。



ところで、私がBLの読みすぎなのかもしれないが…
ヨハン先生と禁煙さん(本名はローベルト)、マルチンとジョーニー、ウリーとマチアスは親友である。しかし、それ以上の心の結びつきがあるような記述が、所々に感じられて仕方なかったのだよ!
今後もずっと当たり前のように一緒にいるのだと、ことさら特別感も出さずにさりげなく書かれているので、いやこれはそういうつもりで書いてないだろうと思いつつ、なんかそう見えてしまうのであった。(それで勝手に萌えてた)

真面目な話、私と同じような方に、読んでどう思ったかを聞いてみたいものだ。シャーロック・ホームズとワトソンをブロマンスの視点で見る向きもあると知った時以来の驚きだったのだ。
もちろん、私のような色眼鏡を持っていない方は、純粋にお読みくださいませ…


☟名作だから各社から出版されてますね。
私は青い鳥文庫の表紙が一番好きだな。物語を最もよく表していると思う。